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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と星の銀貨 その12

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先月同様、大量更新となります
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 少女が祈り、なぜ星が銀貨となって降ってくるのか……それはよく分からない。
 幾柱もの神が封印されたこの時代で、例の『献上の神』とやらが活性化しているかどうかかなり微妙だ。

 それでも、少女から流れ出る涙は間違いなく本物だろう。
 つまり、神託らしきものは本当に出てきたわけで……俺の脳裏に過ぎる文字の羅列も、その証明なのかもしれない──


  ◆   □   ◆   □   ◆

 童話クエスト『貧しき少女に星銀を』が達成されました
報酬として、『星屑の銀貨』・『竜脈の種』が与えられます

 ERROR 異常なコードによる介入
[不明]の『運命略奪者』が発動しました
これにより、『?????』の下へ帰還する予定だった『????』の欠片は、[不明]へ移譲されます

 運命改変が成功しました
これにより、童話クエスト『貧しき少女に星銀を』は消滅します

 特殊条件達成
童話世界『名称未設定』を支配下に収めます

『名称未設定』内の運命はメルスの支配下に置かれ、運命神の管轄外に置かれます
以降の『名称未設定』の統治は全て[不明]に委ねられ、<箱庭造り>より操作が可能です

  ◆   □   ◆   □   ◆


 祈念者プレイヤーとしての俺の[アイテムボックス]には、二つのアイテムが入っていた。
 少女の持つ不思議な銀貨と、地脈と同じエネルギーを宿した種……アレの討伐が特殊条件だったのだろう。

 しかしまあ、『貧しい少女に星銀を』……とはなんとも安直な。
 彼女、スキル的にはだいぶ富んでいたし、金銭的な面以外は全然貧しくなかったが……あっ、一つだけあった。

 ──なお、少女の精神の安定のためにも、ここでそれを記すのは止めておく。


「というか、一枚なんですよね……」

「……なんでって……?」

「いえ、私の国にあなたのように約定を受けた者の伝承が残っているのですが……数枚の銀貨を授かった、そう書物には記されていましたので」

「知らなかった……」


 むしろ、知っていたら怖いんだが。
 いつの間にか溢れ出た涙を拭っていた少女は、少し赤くなった瞳でこちらを見ていた。
 潤んだその目で、ペコリと下げた頭で──少女はお礼を伝えてくる。


「ありがとう……あなたのお蔭で、私はここまで来れた……」

「いえいえ、カカ様の思し召すままに動いただけですよ。よければあなたも約定が終わったことですし、ぜひカカ様の信者となってはみませんか?」

「それは……遠慮しておく……」

「そうですか、それは残念です」


 この先の未来において、『献上の神』とやらは確実に目覚めることがないだろう。
 だからこそ、せっかくなのでと誘ってみたのだが……けんもほろろに断られたよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 神殿にずっと居る理由も無かったらしく、むしろ神聖な場所に滞在することを避けて少女は移動することを望んだ。
 なのでこのタイミングで、いろいろと暴露することにした。


「……信じられない……あなたの挙動がおかしいのは分かっていたけど……」

「ああ、そちらはバレていたのですね」

「うん、バレバレ」


 俺の演技って、そんなに下手なのかな?
 眷属たちに教わって、それなりに演技力も向上したと思っていたんだが……まだまだ、上達する可能性も余地もありそうだ。


「そうですか……いちおうだが、こっちが素だ。──ですが、今はこちらのままにしておきましょう。今の表情を見るに、そちらの方が好ましいように思えますので」

「ごめん……」

「いえいえ、お気になさらず。どちらも私であり、変化など口調だけですから」


 この少女に、メルバージョンの俺を見せたらどんな反応をするのだろう?
 自分からやろうとは思わないが、少しだけ気になった。


「さて、そんなわけで──この世界はすでに通常の流れより隔離されております。あなたという存在は本来の魂魄とは異なる道を歩んでおり、それによって無限の束縛より解き放たれました」

「……?」

「これまでのあなたは意識せずとも、何度も蘇っては死ぬ身でした。しかし、今のあなたはそうではありません。そして、この世界もまた、時を遡ることができなくなりました」

「……そうなんだ……」


 まあ、詳しいことを説明する必要は無い。
 すでにできなくなったことであり、繰り返すことなど意味すら無かった。
 少女が感涙し、救われた未来は間違いなくここにある──そこに悲劇は存在しない。


「リラ……」

「リラ、ですか?」

「そう──『リラ・ロッシェン』……名前、忘れてた……」

「そうでしたね。私は……この口調の時は、ノゾムと名乗っています」


 わざとそう名乗ってみた。
 どうしてこのタイミングで自己紹介なのかと思ったが、どうせ俺もやろうと考えていたので、そこは気にしない。

 だが、それではお気に召さないようで……少々頬を膨らませながら──


「本当は……?」

「俺はメルスだ、ただの偽善者。だからこの世界に来て、リラ……お前を手伝いに来た」

「手伝い……?」

「それは……まあ、こっちは知っといた方がいいか? ごほんっ、とりあえずこちらをお読みください」


 一冊の本を差しだす。
 魔本ではなく、子供向けに印刷技術を向上して用意した絵本としての『星の銀貨』だ、

 さてさて、少女がそれを読んでどういった感想を持つのか……。


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