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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と星の銀貨 その06

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 純粋な善意とは、個人の想いが無くとも成立するものである。
 誰が、何者が、どういった存在が、そんな人に関する情報を知ることで、人は純粋な願いというものを捻じ曲げてしまう。

 例え話をしようか。
 純真な笑みを浮かべる悪女と極悪非道な笑みしか浮かべられない聖人と、事前知識を持たない者はどちらを頼るだろう。

 さまざまな要因がその解に干渉するだろうが、やはりそういった情報の欠片が人々に答えをもたらしていく。
 性別、年齢、容姿、恰好、性格、口調、職業、種族……人としての在り方が。

 ──故に約定を与えられた少女、彼女に個というものは必要とされなかった。

 少女が少女である必要は無く、むしろ少女であることを不要とされた。
 必要なのは救いの手、腕よりも先など誰のものであろうと本来はどうでもよい。

 あくまでその事実、救われたということだけが救援者には必要なのだから。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 魔樹を倒したことで、とりあえずの戦闘能力があることを評価してもらった。
 魔核を回収した俺たちは、さらに森の奥へと進んでいく。


「治癒魔法……凄い……」

「そうでしょうか? カカ様への祈りを欠かさず行っていれば、すぐに習得できると思いますよ」

「難しいと思う……」


 そもそも創作物の知識に加え、{感情}が持つ経験値チートの影響で一月も経たずに習得した魔法だからな。
 最近だと魔法よりもスキルで治……直すことの方が多くなったし、そこまで凄いと思えていないのかもしれない。


「よければ、習得のお手伝いをしてみましょうか? その場ですぐに得られるわけではないでしょうが、それでも上達するきっかけになるかもしれません」

「いいの……?」

「ええ。カカ様は私たちが回復魔法を独占することを望んでいるのではありません、人々が救われることを望んでおられるのです。故にその存在をお隠しになり、ひっそりと私たちに加護を与えてくれます」

「……好い神様……」


 フードに隠れた少女の顔だが、少し緩んでいる気がする。
 少女に加護を与えたという神も神で、それなりに彼女へ恩恵を与えてくれていると思うのだが……何かあるのだろうか?


「そろそろ着く……」

「気を引き締める必要がありますね」

「うん、準備して……」


 少女に言われるがまま、身体強化を行ってこれから起きうるであろう戦いに備える。
 戦わなければそれに越したことはないのだが……いつだって、最悪に対応できる必要があるだろう。





 そして、現実はいつだって小説よりも奇なる物語をつづっていく。
 荒い息を吐きつつ、その虚しさを胸に森の中を駆け抜ける。


「な、なんっ、どう、して……すか!?」

「わ、らない……け、かしい……っ!」


 後ろから地響きが鳴り響く。
 ズシンズシンと大地を揺らすそれは、巨大な竜の姿をしている。


「『地操脈竜』……まだ早すぎる……!」


 魔竜と呼ばれる魔獣は、咆哮を上げながら少女を狙って森を荒らしていく。
 俺の方をいっさい見ておらず、血走った目で彼女を見ているのでおそらくその予想は正しいのだろう。


「早すぎる、とは?」

「今は、不活性……まだ、起きない……!」

「なる、ほど……そういう、ことでしたか」


 さすがに地球版の『星の銀貨』で、竜に襲われる話なんてない……それをやったら、完全にバトル物の伝承になってしまう。
 というか、あとは銀貨を貰うだけというところまで少女はその身を捧げてきた……。


「! そういう、ことですか」

「……どうしたの……?」

「い、いえ、なんでも、ありません。そ、それよりも、今は逃げましょう」

「……? うん……」


 物語が不幸な結末バッドエンドだからこそ、それを改変するように運命神クソめがみは少女の魂魄を封じた。
 これまでの話だと、身包みを剥がされることに加えて能力スキルを捧げるぐらいでしかない。

 しかし、神がそれ以上のものを捧げるように仕向けているのなら?
 それ以上のモノを──少女の命すらも捧げる贄にしているのなら?

 犯人(神)が少女の信仰する献身の神だと思うわけではない、そもそもこの世界において、まだその神が活性化しているかどうかすら危ういわけだし。

 神は決して一柱だけではない。
 複雑に概念が交錯した結果、運営神とクソ女神以外のほとんどの神が今は不活性状態になってしまったように。

 だからこそ、可能性を捨ててはいけない。
 少女が救われる可能性を、この先に幸せな未来がある展開ハッピーエンドを求める必要がある。


「目的地まで、あと、どれくらいですか?」

「もう、そろそろ……」

「でしたら、そこで、戦い、ましょう。このままでは、殺されて、しまいます」

「! ……本気……?」


 少女もさすがに、俺たち二人で勝てるとは思っていないようだ。
 不安気、というか俺の正気を疑うような視線を浴びながら考えを伝える。


「私には、火属性の魔法があります。とても強力、ですが……その分、森では使う、ことができません」

「出れば、倒せる……?」

「分かり、ません……ですが、このままいるより、も可能性は、高いかと」


 走りながら続く会話、所々で区切りながら言いたいことを語り切った。
 少女はどうしたいのか、魔竜にも情けを与えるのか……それとも、殺すのか。


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