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偽善者と還る理 十七月目

偽善者と星の銀貨 その04

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 少女は神より力を賜った。
 完全な善意というわけではない、神にも神で複雑な事情というものがあったのだ。

 与えられたその力によって、彼女はあらゆるスキルを習得できるようになった。
 そのうえで、同じスキルを大量にストックできるようになる。

 進化を行えば失うスキルも、予備があれば躊躇せずに昇華させることが可能。
 同じく与えられた熟練度補正もあり、少女は飛躍的に成長していった。

 そして、約定の日となって鍛え上げたスキルを人々に役立てるため【献上】していくはずだったのだが──偽善者それを許さず、ただ人々を救うだけで終わっている。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 世界の定めというのはどうやら、少女が下着姿になることを望んでいるようで……あれからこの世界特有の要求──魔物の討伐や薬草の採取以外は、すべてが少女の身包みを剥ぐような内容だった。

 新たに頭部が寒いと言う少女が居たり、異なる服が欲しいと語る子供も居た。
 何度か検証を行い、問題を解決するためには少女の服そのものを提供しなければならないという結論に至る。 


「お似合いですよ、その格好も」

「……いいの……?」

「これでも、子供たちに服をプレゼントしてきたわけですし……」

「……なんで……?」


 当然の質問だ。
 どこの世界に、分け与えるほど大量の女性服を持ち歩く司祭がいるのだろう。
 教派によっては女性も司祭になれるが、地球では三分の二が男性限定なんだよな。


「子供たちに服を作る機会が多かったものでして。こう見えても、生産活動にはそれなりの自信があるんですよ」

「分かる……この服を見れば……」

「そう言ってもらえると、こちらも端正に作り上げた甲斐があります」


 原作を忠実に再現し、亜麻布っぽい素材を織り込んで作成したワンピースである。
 真っ白なその服には魔法的加工が施されており、いちおうは寒さを感じさせない。


「可愛いですよ、とても」

「……ありがとう……」

「貴女のその極光のように変化する髪色、とても幻想的で素敵です。わざわざ隠すようなことをせずとも、よいと思いますが」


 フードも子供たちに回収されてしまったので、一度少女はそれを外している。
 そのときに見た彼女は、オーロラのように輝く髪色をしていた。

 今は俺が渡した外套で隠しているが、焼き付いた記憶はスキルが無くとも忘れられないほどに残っている。


「……」

「いえ、野暮でしたね。森の中へ、向かうのでしたね」

「う、うん……」

「どうやら気温が変化しているようですね。いったいどういった仕組みなのでしょう?」


 神眼の一つ“測温眼”を使って視れば、野原よりも4、5℃ほど温かかった。
 しかしその分、“魔視眼”に映る魔力の濃さが高く、危険度は高そうである。


「中には魔獣が住んでいる……だから魔獣の性質で、気温も高い……」

「ほぉ、魔獣ですか」

「──『地操脈竜』、そう呼ばれてる……」

「チソウ? ……ああ、なるほど、地操ですか……なるほど、それは僥倖です」


 竜が魔物になった場合、それは実際には魔竜と呼ぶのだが……そこはまあ置いておく。

 名前からして、地脈を操るような能力を持つ竜らしい。
 俺の<箱庭造り>に比べると使える場所は絞られそうだが、より根強い効果を発揮できるのだろう。


「僥倖……なんのこと……?」

「いえ、お気になさらず。それよりも、一つ訊ねておきたいのですが」

「言って……」


 促してくれるので、俺も笑顔で訊ねよう。


「──混浴って、知ってますか?」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 やはりというかなんというか、森に入ってからも服を要求されることがあった。
 森の中は少し薄暗いため、下着を要求されても困らないようになっているのがなんとも言いがたい。

 それはたしかに物語通りなのだが、他の服も着ているのにピンポイントで下着を要求している辺りがツッコミどころだろう。
 なので本人もそう訊ねると──『あれ?』と自分で発言に疑問を抱いていた。

 ──運命の修正力。

 予定調和とも呼べる概念によって、物語は進まされていく。
 俺が『導士』や『運命簒奪者』の力を用いてそれに抗うものの、特定の条件下でしか働かないそれらは、まだ機能していない。


「なんでだろう……?」

「あの娘もどうやら裸だったようですし、まずは下着からと思っていたのでしょう。申し訳ありません、やはり貴女の衣服を捧げなければ同様の要求が続いてしまうようで……」

「……いい、ちゃんと見ないでいてくれたから……」


 俺は紳士なので、目を逸らして少女たちのやり取りをスルーした。
 そのうえで少女に新たな下着を提供し、着替え終わるのは待つほどだ。

 まあ、そもそも見る必要が無いからな。
 見てと言うのなら見るが、情欲を感じない平常時の俺にとって、それはただの観察と同意なわけで……現実の俺が感じる想い、その残滓で少々脳内が盛り上がるくらいだ。

 そんな森の中、常に薄暗いのは時間帯的な問題もあるが──森が空を覆っているというのも理由だろう。
 星が見えないということを考えると、少女のゴールはまだ先にあるのだろう。

 ──そろそろ目的地に着く、少女は果たしてそこで何をするのだろうか。


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