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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と星の銀貨 その03
しおりを挟む目的を持たず生きてきた少女には、神という超常的な存在から賜わった言葉というものは、とても重く感じていた。
人ではない存在、より高位のものから与えられたもの──そこに感動を抱く。
そこへ辛く厳しい枷が設けられようと、少女の善行が誰かのためでありたいということに、変わりはない。
人のためにあること、それは自分のためでもあった。
自身の肯定を他者に求め、少女は誰かのために献身的に動く。
約定の日、身を捧げることを神に許された日──少女は出会う、異なる生き方を選んだ自分とは異なる善行を振る舞う者に。
◆ □ ◆ □ ◆
少女は町中で、さまざまな人々から助けを乞われた。
神託を他の人々も知っているのか? と訊いたのだが、そうではなくこの町がそういう在り方をしているんだとか。
「けど、まだ何も捧げていない……」
「そうでしょうか? 貴女はしっかり、その神託を果たせていると思いますよ」
「……全部、あなたがやっている……」
「約定の内容とやらは教えていただきましたが、どのように救うのかとゴールに辿り着くまでの過程に関する事柄がありません。それに、お手伝いをしたい、そんな私を助けていただけるとのことですし……」
そんな困った人々は、本当にありとあらゆる事柄を少女に相談してきた。
異世界版『星の銀貨』ということで、日常生活に関する事柄だけでなく、魔物との闘いや武器に関する内容まで。
少女はその願いに応え、解決しようとするが──そこはお邪魔させてもらう。
彼女は自身の才能を誰かに分配し、やりたいことがやれるようにする予定だったので、そこは俺が魔道具を渡しておいた。
才能が無いなら、それを補えるようにすればいいだけだ。
また、才能が宿る余地すら無い者には、丁重に説明したうえで異なる道をオススメしておいた……そっちの方がソイツも楽だろう。
「ところで、外へ出るのですか?」
「うん……もう、町の中に困っている人がいなくなった……少なくとも、私が必要な人はみんな救われた……」
「それは善いことです。そうでしたか……町の者たちの救いの手を、すべて救い上げたのですか。やはり、貴女は私よりも誰かのためになる方なのですね」
「……?」
実際、これまで少女に救われてきた者たちは、俺に嫌悪の視線を向けてきていた。
それは俺が代案で問題を解決してもまだ同じで、まるで余計なことをするなと言わんばかりの憎悪に満ちた眼差しだった気がする。
そもそも切羽詰った状態であろうと、俺に助けを求める者はそう多くない。
だからこそ、俺は受動的にではなく能動的に誰かを救おうと日々偽善を行える機会を探しているわけで……。
「いえ、なんでもありません。それよりも、町の外には貴女の救いを求める人がまだいるのですか?」
「うん、いる……まだ、いっしょに……?」
「はい。お邪魔でしたら、ここで引き返すことにしますが……」
「……いい……望み通りその機会を与えると言ったのは私……あなたは悪くない……」
なんだか俺が、強引に少女に詰め寄っている風に聞こえるが……それは割と事実だし、そうしなければ少女も本来の方法で人々を救う選択をしてしまう。
なればこそ、喰らい付いていくしかない。
言質も取ったので、少女が目的を果たすまではついていくことができる。
パンの話は本来外で起きた話だが、他の話も含め、最初は同じにしたかったのだろう。
そして、外に行けば少しずつ彼女が自身の持つ物を人々に捧げていく。
それに加えてこの世界特有の救援イベントが起きるのであれば、通常の貢献をすればするほど、彼女は少しずつ追い込まれる。
「ありがとうございます」
「……もう行く……」
「はい、お供します」
少女の献身は偽善に通ずる。
俺との違いは、誰かの意思によってその選択を取ったことと彼女自身の在り方。
悪意はないが、悪癖ではある……正直、ダメなヤツを好きになるダメな女の子っぽい。
──そして気づいたが、そんな女の子を救うのが好きなようだ。
◆ □ ◆ □ ◆
少女は野原の上を歩いていく。
町の中では金持ちと貧民が区画を分けて生活していたが、それでも貧民は貧民なりに生きる術を持っていた。
しかし、野原にもまた人が彷徨っている。
貧民というより非民ではあるが、要するに貧民街で生きていけないほどに生活力が無い人々ということだ。
どうやら季節は冬だったようで、冷たい風がそんな人々を襲う。
だからだろうか、人々が少女に求める物もまた、それに準じたものが多い。
「わたし、あたまがさむくて、こおりそうなの……。なにか、かぶるものをちょうだい」
「なら……」
「──こちらのコートをプレゼントしましょう。他の方に奪われないように見た目はあえてボロく見えるようにしてありますが、とても温かいですよ」
「え、えっ? ……ほ、ほんとうだ、あったかーい……」
なぜだろう、ちゃんと望む物を提供したはずなのに、表情が物凄く微妙なのは。
分かりやすく言うと、これじゃない感を全開にした顔をしているんだが。
「ダサかった、でしょうか?」
「違うと思う……たぶん、温かすぎて違和感が拭えない……」
「なるほど、そういうことでしたか」
そういうことなら納得だ。
しかしまあ、俺が居る場合少女はこの先どいう選択を取るのか……物語の終盤、一度脱いでるし。
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