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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と星の銀貨 その01
しおりを挟むそこは石造りの町だった。
陰影がはっきりと区別されたその町は、暮らす人々をも明確に区分している。
街灯が道々を照らす明るい場所では、貴族のような恰好を取る人々が歩いているが。
そうではなく、町の陰にひっそりと存在する冷たい道にはまともな服を着ることもできていない人々が彷徨っている。
そんな中、小さな少女が暗い町中をふらふらと歩いていた。
顔が隠れるほど深くフードを被り、ちらりと見える隙間から質素なワンピースが映る。
お腹をキューッと可愛く鳴らす少女は、さらにフードを深く沈めると前へ進んでいく。
足には何も履いていないため、皮膚はその感覚を失ってる……はずだった。
少女は貧しい暮らしをしていた。
しかし少女には、その日を生きるために必要なものが備わっていた。
「……もう、ダメ……」
ひんやりを通り越してキンキンに冷えた地面に尻を着き、少女はお腹を摩りながらゆっくりと休息を行う。
住む場所を失った彼女は、文字通りのその日暮らしを強いられていた。
重ねた手を擦り合わせ、息を吐いて温めていく……しかし体は震えておらず、ただ手が温まるだけ。
息も望んで吐いたものではなく、これまでの移動が祟って肺から排出を促されたもの。
──(寒冷耐性)スキル、そして(空腹耐性)スキルを持つ彼女には空腹や寒さなど気に留める必要のないものだった。
「く、苦しい……」
だが、いくら耐性を持とうと肉体は生理的反応を起こす。
数か月に渡ってロクな食料を取っていない少女は、ついに限界を迎えていた。
「うきゅー……」
少女には悪癖があった。
それは傍から見れば聖人のようで、また別の角度から見れば偽善とも思えるような行いの数々。
彼女はそれを正しいことだと信じ、ひたすらに行い続けた。
故に彼女は現状に落ち着いている。
本来であれば、裕福な生活をすることもできただろう……しかし彼女はそれを拒み、苦しくも価値のある生活をしていた。
「お、お腹……」
「お腹がどうかしましたか?」
「えっ……?」
気配はいつも探っていた少女だったが、現れた者に気づけなかった。
真っ赤な司祭服に身を包んだ少年、彼は手に提げた籠からある物を取りだし、スッと少女の目の前に差し出す。
「──パン、食べますか?」
「うん」
◆ □ ◆ □ ◆
前回同様、語り手による気持ち悪い説明。
それをどうにか呑み込んで入った世界は、発展の光と影が色濃く浮かぶ場所だった。
要するに貴族街とスラム街であり、貧困に喘ぐ人々が陰を彷徨っている。
なのでとりあえず──偽善をしていた。
そもそも赤ずきんと異なり、この世界の主人公である少女の容姿は不明だ。
本によって髪や瞳の色は異なるし、そもそも『少女』以上の描写は存在しない。
分かるのはさまざまなものを恵み、最終的に裸になるということぐらいだが……倫理規制に引っかかるので、それもこっちだともう少し柔らかい範囲で収まっているだろう。
さて、そんなこんなで俺はパンを配ることに決めた。
物語の役割としては『親切な人』、つまり主人公にパンを一欠片分だけ予め渡しておく役目である。
ただ、そんなケチなことはしない──どうせならと籠にパンをいくつも詰め込んで、老若男女関係なく配ってみた。
善いことをすれば善いことが帰ってくる、そう信じてみたが……たぶん当たりだな。
「お味はどうでしょうか? このパンは私が作った物で、皆さまに食べてもらっているのですが……どうにも自信が無くて」
「美味しい、とても……」
「そうですか。これまで配った中で、そう教えてくれる方は多くありませんでした。そもそもその場で食べてくれる人が……あまりいませんでしたので」
「みんな、苦しんでいる……与えられることがない、だから何かが欠けている……」
そう言った少女の瞳は、何か崇高な使命を抱くような強い意志を持っている。
自分にしかできないこと、自分だからできることをやり遂げようとしている者がしている──危うい輝きだ。
「……だから、私は……むぐっ」
「何か、できることはありますか?」
「むぐむぐ……ない」
「この格好の通り、私は回復魔法が使えますよ? それに……今の貴女は、少し目が離せませんので」
口の中に追加でパンを押しこむ司祭……全然聖職者っぽい感じがないんだが、それでも話はシリアスに続く。
物語がある程度順調に進むのであれば、彼女はこの先知らない誰かのために、すべてを捧げることになる。
「……本気?」
「すべては我が神『カカ』様の思し召すがままに。誰かのために動ける者を放っておいたと知られてしまっては、私はすべての力を失うことになるでしょう……それを救うと思って、どうかお供させてください」
「カカ、知らない……」
「邪神ではございませんので、お気になさらず。知りたいというのであれば、いつでもこちらの経典を差し上げますよ」
カカの素晴らしさについてカグといっしょに考えて作った経典である。
本人(神)はとても恥ずかしがっていたのだが、カグが作成に協力しているため止めることもできずに完成したのだ。
──もちろん、少女には断られた。
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