1,131 / 2,518
偽善者と還る理 十七月目
偽善者と星の銀貨 その01
しおりを挟むそこは石造りの町だった。
陰影がはっきりと区別されたその町は、暮らす人々をも明確に区分している。
街灯が道々を照らす明るい場所では、貴族のような恰好を取る人々が歩いているが。
そうではなく、町の陰にひっそりと存在する冷たい道にはまともな服を着ることもできていない人々が彷徨っている。
そんな中、小さな少女が暗い町中をふらふらと歩いていた。
顔が隠れるほど深くフードを被り、ちらりと見える隙間から質素なワンピースが映る。
お腹をキューッと可愛く鳴らす少女は、さらにフードを深く沈めると前へ進んでいく。
足には何も履いていないため、皮膚はその感覚を失ってる……はずだった。
少女は貧しい暮らしをしていた。
しかし少女には、その日を生きるために必要なものが備わっていた。
「……もう、ダメ……」
ひんやりを通り越してキンキンに冷えた地面に尻を着き、少女はお腹を摩りながらゆっくりと休息を行う。
住む場所を失った彼女は、文字通りのその日暮らしを強いられていた。
重ねた手を擦り合わせ、息を吐いて温めていく……しかし体は震えておらず、ただ手が温まるだけ。
息も望んで吐いたものではなく、これまでの移動が祟って肺から排出を促されたもの。
──(寒冷耐性)スキル、そして(空腹耐性)スキルを持つ彼女には空腹や寒さなど気に留める必要のないものだった。
「く、苦しい……」
だが、いくら耐性を持とうと肉体は生理的反応を起こす。
数か月に渡ってロクな食料を取っていない少女は、ついに限界を迎えていた。
「うきゅー……」
少女には悪癖があった。
それは傍から見れば聖人のようで、また別の角度から見れば偽善とも思えるような行いの数々。
彼女はそれを正しいことだと信じ、ひたすらに行い続けた。
故に彼女は現状に落ち着いている。
本来であれば、裕福な生活をすることもできただろう……しかし彼女はそれを拒み、苦しくも価値のある生活をしていた。
「お、お腹……」
「お腹がどうかしましたか?」
「えっ……?」
気配はいつも探っていた少女だったが、現れた者に気づけなかった。
真っ赤な司祭服に身を包んだ少年、彼は手に提げた籠からある物を取りだし、スッと少女の目の前に差し出す。
「──パン、食べますか?」
「うん」
◆ □ ◆ □ ◆
前回同様、語り手による気持ち悪い説明。
それをどうにか呑み込んで入った世界は、発展の光と影が色濃く浮かぶ場所だった。
要するに貴族街とスラム街であり、貧困に喘ぐ人々が陰を彷徨っている。
なのでとりあえず──偽善をしていた。
そもそも赤ずきんと異なり、この世界の主人公である少女の容姿は不明だ。
本によって髪や瞳の色は異なるし、そもそも『少女』以上の描写は存在しない。
分かるのはさまざまなものを恵み、最終的に裸になるということぐらいだが……倫理規制に引っかかるので、それもこっちだともう少し柔らかい範囲で収まっているだろう。
さて、そんなこんなで俺はパンを配ることに決めた。
物語の役割としては『親切な人』、つまり主人公にパンを一欠片分だけ予め渡しておく役目である。
ただ、そんなケチなことはしない──どうせならと籠にパンをいくつも詰め込んで、老若男女関係なく配ってみた。
善いことをすれば善いことが帰ってくる、そう信じてみたが……たぶん当たりだな。
「お味はどうでしょうか? このパンは私が作った物で、皆さまに食べてもらっているのですが……どうにも自信が無くて」
「美味しい、とても……」
「そうですか。これまで配った中で、そう教えてくれる方は多くありませんでした。そもそもその場で食べてくれる人が……あまりいませんでしたので」
「みんな、苦しんでいる……与えられることがない、だから何かが欠けている……」
そう言った少女の瞳は、何か崇高な使命を抱くような強い意志を持っている。
自分にしかできないこと、自分だからできることをやり遂げようとしている者がしている──危うい輝きだ。
「……だから、私は……むぐっ」
「何か、できることはありますか?」
「むぐむぐ……ない」
「この格好の通り、私は回復魔法が使えますよ? それに……今の貴女は、少し目が離せませんので」
口の中に追加でパンを押しこむ司祭……全然聖職者っぽい感じがないんだが、それでも話はシリアスに続く。
物語がある程度順調に進むのであれば、彼女はこの先知らない誰かのために、すべてを捧げることになる。
「……本気?」
「すべては我が神『カカ』様の思し召すがままに。誰かのために動ける者を放っておいたと知られてしまっては、私はすべての力を失うことになるでしょう……それを救うと思って、どうかお供させてください」
「カカ、知らない……」
「邪神ではございませんので、お気になさらず。知りたいというのであれば、いつでもこちらの経典を差し上げますよ」
カカの素晴らしさについてカグといっしょに考えて作った経典である。
本人(神)はとても恥ずかしがっていたのだが、カグが作成に協力しているため止めることもできずに完成したのだ。
──もちろん、少女には断られた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる