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偽善者と還る理 十七月目
偽善者と自己紹介 その28
しおりを挟む夢現空間
リュシルたちが『賢者』である異世界人を発見し、さらにその『賢者』と弟が紅蓮都市に住むようになってから数日。
「ウィーも上手くやったものだよな。要求されたモノを、ただ用意しただけなんだから」
「そうであるな。あちらはそれを要求してしまったという責任、そして罪悪感というものが残るであろう。『お手伝い』という小さな仕事があれば、自ずとそれを行う……うむ、よい策であったな」
「……あの、そこまで深く考えてないから。ウィーはそうかもしれないけど、俺にそこまでの考えは絶対に浮かばないから」
「其方も<千思万考>があれば、容易くこなすではないか。この世界において、スキルとは絶対的なもの。王であろうと、それに縋り統治を行うものぞ」
こんなことを言っている元帝王様だが、本人はそんなことをせずとも天啓によって言うこと言うことすべてが上手くいったらしい。
なので、その考えを鵜呑みにするわけにはいかない……覇道の思考だしな。
「して、その後はどうなったのだ?」
「最高級の衣食住を提供するって言うんだから、俺が出向くのは当然だろう。まだ顔は出していないが、料理には満足してもらった」
「其方の料理か……それは魅了されるな」
「魅了? まあ、料理神の加護持ちにして元【生産神】だからなー。美味しさで言えば至上、けどそれだけだぞ」
眷属のための料理であれば、毎回毎度で想いを籠めて作れるのだが……他の奴に振る舞う場合は、あくまで本当に美味しい料理店で外食をした程度に質が落ちるからな。
また食べたいなーとは思うが、絶対にこれじゃないとダメ! となるわけではない。
魅了というのであれば、こちらの方が正しい気がするんだが……自分でも美味いとは思うが、世の中には上がいるというわけだ。
「さて、そろそろ始めるとしよう」
「うむ、そうであったな」
話すことも一先ず纏まった。
ゴホンと咳をしてから、いつものように声高々に叫ぶ。
「はーい、では参りましょう──第二十八回質問タイム! ゲストはこの方、元劉帝にして覇導の主──シュリュさんです!」
「ふむ、苦しゅうないぞ」
「元とは落ちこぼれたわけではなく、かつての帝王というわけですからね。本当に凄い人です、そこを間違えないでください」
事情を知らない者から見れば、そういった考えになるかもしれないので念のため……いや、観てる奴にそういう考えを持っているのは少ないけどさ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「問01:あなたの名前は?」
「シュリュ=ドラガオンである」
「問02:性別、出身地、生年月日は?」
「女、ドラガオン帝国、生年はあえて言わぬようにして、月日は5月22日だ」
「問03:自分の身体特徴を描写してください」
「黒髪と縦筋の入った黄眼、皮膚の所々に漆黒の鱗、辰の角や龍の翼。あとは豊満な肉体であろうか?」
「…………ノーコメントで」
「問04:あなたの職業は?」
「【元劉帝】である。また、<武芸覇者>でもある。今では覇者でもなんでもないがな」
「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」
「戦好き、であろうか? 朕とて覇に憑りつかれたていたのだ、その才はある」
「補足説明をすると、シュリュは突然そういう力に目覚めて覇の帝王を目指しました」
「問06:あなたの趣味、特技は?」
「最近の趣味は料理である。簡単な品なら一人でも作れるようになったぞ」
「みんなで料理できるようになるのが、楽しみだよ」
「問07:座右の銘は?」
「寂寞無為。誰に囚われるわけでもなく、あるがままに生きていきたいものよ」
「問08:自分の長所・短所は?」
「長所は武具であるならば、また武具と思えば万物を自在に操れること。短所はその逆、そうとは思えない物は上手く扱えぬことだ」
「……それ、政治とかどうしてたんだ?」
「何を言う? 政治とは戦いではないか」
「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」
「最近は料理が好きである。嫌いなものは何でも思い通りなると思っている輩だな」
「あっ、はい、なんだか申し訳ありません」
「其方は別だ。否定はせぬがな」
「問10:ストレスの解消法は?」
「こちらは戦いだ。料理にそういった私情を持ち込むわけにはいかない」
「問11:尊敬している人は?」
「我が父と母である。入り混じり異形を、愛してくれたのだからな」
「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」
「闘いも料理も同じ。一意を籠めることが大切だと学んだぞ」
「問13:この世で一番大切なものは?」
「守るべきものだ。其方やその眷属、そしてかつての帝国──今でもなお、忘れられずにいるようだ。委ねようと、見守る気でいるのは愚かであるか?」
「いや、別にいいんじゃないか」
「問14:あなたの信念は?」
「覇導とは異なる道を……新たな道を切り開くことだ」
「問15:癖があったら教えてください」
「思考が覇導によってしまうせいか、時折行動の選択に戦いが自動的に入ってしまう」
「そ、そりゃあ……危ないな」
「時々其方との会話の最中に、忍ばせた短剣で一突き……と」
「やめて!」
「問16:ボケですか? ツッコミですか?」
「無論、ツッコミであろう」
「……いや、さっきボケただろう」
「ふむ、呆けたと言いたいのか」
「いや、だから武具を向けないで」
「問17:一番嬉しかったことは?」
「其方が三度目の生を与えてくれたこと、であろうか」
「問18:一番困ったことは?」
「なかなか料理が上達せぬことだな」
「それはゆっくりやっていこうぜ」
「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」
「劉殺しが最高である」
「あっ、酒の方は満足しているんだな」
「あのような無粋な武具な話をするな」
「問20:自分を動物に例えると?」
「無論、劉である。我が種族は父と母の成した結果──何物にも変えがたいものだ」
「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」
「無い、のではないか? ユラルが名の最後に『ん』を付けるものぐらいであろう」
「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」
「覇に囚われたことである。それによって救われたモノもいるだろうが、それと同じ……いや、それ以上に奪われた命がある」
「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」
「帝国を神の手より奪い返し、再びかつての在り方を……いや、これも違う。新たな帝国の誕生を願おう」
「問24:自分の人生、どう思いますか?」
「すでに三度目の生ではあるが、清算のための生なのかもしれぬ。これまでの生を償い、前へ進むための」
「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」
「あるがままを受け入れているが故、特に無いのだが……あのとき、朕を狂わせた使徒の主を屠りに行きたいものよ」
「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」
「……何もせぬな。無くなることを拒む偽善者が、ちょうどそこにいるのだから」
「……その答え、ちょっとズルくないか?」
「ズルであろうとなんであろうと、使える物は使うのが帝王である」
「問27:何か悩み事はありますか?」
「料理の行く末だ」
「問28:死にたいと思ったことはありますか?」
「狂った際は思っておったな」
「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」
「覇とは異なる運命を──歩んでみたいな」
「問30:理想の死に方があればどうぞ」
「そうして満足げに死んだ結果、偽善者に蘇生させられたのだが……」
「あ、あははは……」
「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」
「すでにあのとき、大半のことを伝えているのだが……メルス、三度目は楽しいぞ」
「問32:最後に何か一言」
「故に、朕は其方にも楽しさを与えよう。手始めに、料理で其方を虜にしてみせる」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい、カットー! 料理はまず、できるヤツにその技すべてを学んでからだな。それから、全大陸を制覇して料理を知ることから始めてみよう」
「う、うむ……」
「俺の世界だと、毎日朝から食べたい飯を出してもらうことがベストらしいから、虜云々の話をするならまずはそこからだな」
「よ、よし……やってみせよう!」
流れで押し切らないと、また危なくなるところだった。
料理で虜か……感情じゃなくて胃袋を捕まれたら、意外とダメになるかもしれないな。
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