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偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その23
しおりを挟む紅蓮都市
その日、紅蓮都市に客人たちが来訪した。
彼の者の名を知る者たちは驚愕する。
彼らは眷属と呼ばれる少女たちによって、招かれてやって来た。
黒髪黒目の二人組──アカネとアカリは、広がる街並みを見て感嘆の声を漏らす。
「ほへー、やりすぎですよー」
「懐かし……く思えないけど、似ているね。メルス兄ちゃんが平行した地球の生まれだからかな?」
「さすがアー君、頭が良いー」
「や、止めてよネェちゃん」
近くに塔を攻略した少女たちはいない。
彼女たちはすでに帰還し、あれから数日が経過している。
彼らが今日この地を訪れたのは、互いにやるべきことが無くなったからだ。
「ところでネェちゃん、気づいてる?」
「うーん、ここも迷宮なんだねー」
「魔物はいないみたいだし、あくまで街の繁栄のために使っているんだ……」
「アー君みたいだねー。困ってた獣人族の人たちのためにー、大きな塔を造って住まわせてあげるみたいにー」
かつてはひっそりと存在した、彼らが築き上げた迷宮。
しかし二人が幻獣人族を発見したことにより、迷宮は塔へと姿を変えた。
攻略不可能な状態な一階層の上に彼らの居住区を設け、そこで穏やかな生活ができるようにした──より高い層にしなかったのは、降りる際に問題が生じたからだ。
「もー、アー君可愛いー!」
「ちょ、止めてよネェちゃん!」
「んふふー、だーめー」
公共の場でイチャイチャしだす二人だが、そこは『賢者』であるアカネ──すでに周囲から自分たちの認識を外す魔法、そして自分たちの居る場所を忌避する魔法を使って誰も近づかないようにしていた。
その目的は二つ。
そのままの意味で、弟とのふれあいを邪魔されないようにするため。
そしてもう一つは──
「あー、もう来たんだー」
「……んへぇ?」
都市の中央にある城から、魔力反応を帯びた何者かが飛んでくる。
真っ直ぐに、迷わず二人の下へ近づいてくるのは、アカネが分かりやすく魔力を使ったのが理由だ。
「よっ、『こんにちは』だな。俺はカナタ、VRMMOからの転移者だからこの姿だ」
「それってー、もしかしてTSー?」
「…………そうだよ」
現れた黒森人の少女が発した日本語、そして自己紹介から緊張を解くアカリ。
アカネはその姿に知的興味をそそられており、直感でそれを察知したカナタは体をゾクリと震わせる。
「じゃ、じゃあカナタ……ニ姉はゲームから来たんだ」
「言いづれぇだろ。別にカナタって呼び捨てで構わねぇよ。まあ、それを言ったらメルスも同じ転移者だけどな。俺たちの中では、アイリスだけが転生者なんだよ」
「それでー、お迎えに来てくれたのー?」
「ああ、ついでに観光してくか? ちょうどここの代表は忙しくてな、まだあそこに行ってもすぐには会えねぇんだよ」
カナタはそれを伝えるためにやって来た。
来訪者に退屈な時間を与えてしまうのは、どうかという配慮でもある。
「観光ですかー?」
「そりゃあ、都市だからな。観光にピッタリナ場所の一つや二つ、用意しているさ。──というわけで、さっそく行くぞ」
カナタは迷宮の主であり、『紅蓮都市』の地下にある迷宮とも接続していた。
副運営者としての登録だが、それによって機能の一部を行使できる。
一瞬で目的地に着いたカナタは、二人にその場所の説明を行う。
「とりあえず、ここだな──邪炎神にさせられていたカカと、その転生体であるカグが封印されていた最下層だ」
「……あの小屋はー?」
「メルスがカグの事情を聞かねぇで、住むと思って勝手に造ったヤツだな。結局使われなかったんだが、密談にはちょうどいい場所だからこういうときに使うんだよ」
「なるほどねー、そういうことー」
アカネはその真意を理解する。
わざわざ何をするのかを上層で話し、あえて空間魔法ではなく迷宮の機能を使えるカナタが来た理由……そのすべてを。
「まあ、俺はそうするように指示されて来ただけだがな。ウィーは中に居るから、さっさと入ろうか」
カナタはそう言うと、さっさと小屋に近づき扉を開ける。
追いかけるように入った二人が見たのは、剣を壁に立てかけた少女だった。
「初めまして、『賢者』と塔の主よ。まさか別々に存在していたとは……私はウィー、守るべき国を邪神の眷属に滅ぼされ、メルスに救われたただの剣士だ」
「──適当すぎるだろ。とりあえず、くっ殺されかけた亡国の王女ってことにしてくれ」
「「……あー」」
一瞬で彼女の身の上を理解する二人。
すでに夢現空間でそういった知識を学んでいたウィーは、なんとも言えない表情を浮かべていた。
「ゴホンッ、話を戻そう。貴公らには、こちらへ協力していただくことになる。それは他の世界──『賢者』殿の情報によれば、万色の世界のどこかへ向かえるようになる……ここまでは合っているか?」
「うーん、間違ってないよー。ただー、条件は分かっているんだよねー?」
「ああ。『勇者』、『魔王』、『守護者』、『聖女』、『賢者』、そして──『赤王』。これらの称号を持つ者が集まることが、条件なのだろう」
「正解ー。うーん、おさらいだったしー、簡単すぎたかなー?」
互いに情報を、そしてやるべきことを確認し合う。
なお、カナタとアカリはこの場から離れて別の事を行っている──同じ迷宮を統べる者として、語り合うことは盛り沢山なのだ。
「単刀直入に告げよう。リュシルとメルスが提示した以上のものを、こちらは用意できない。この都市での便宜であれば、どのようにしていただいても構わない。『賢者』殿の要望とあらば、誰も否定できないからな」
「じゃあー、住む場所を頂戴ー。あとー、衣食も困らないようにー」
「……最高級のもの、ということか?」
「もちろーん」
このとき、アカネは冗談半分で条件を提示していた。
そもそも、リュシルとメルスによる異世界と次元魔法に関する情報で充分だったのだ。
しかし、目の前のウィーはそれを理解しない……いや、理解したうえであえて知らないふりをしていた。
「少々特殊な場所にあるのだが……それでも構わないだろうか?」
「え、ええー? う、うーん……わ、分かったよー」
「そうか……感謝する」
「?」
ウィーは満足気な表情を浮かべる。
なんだか嫌な予感を覚えたアカネだが……もうすでに、交わしてしまった約束だ。
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