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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その22

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 コトッと机の上に置かれた小さな魔石。
 あれから復活したリュシルが目的を果たしたことを確認し、そのうえで許可を取って設置したものである。

「アカネさんとアカリさん、二人には私たちの…………私たちの……なんと言えばいいのでしょうか? とにかく、その、会わせたい人と連絡を繋ぎますので、少し話していただきたいのです」

「うーん、いいよー」

「アイリス姉ェの話だと、ソイツが主人公みてたいなことをしているんでしょ? 早く会いたいなぁ」

「だからこその中継です──繋がりました」

 魔石の中に刻まれた術式が作動し、ポンッと軽快な音を立てて魔石が砕ける。
 そして、中から煙が溢れだし──小さな魔物が中から現れた。

 一つ目──というより目玉に蝙蝠の羽が生えたその魔物は、口が存在しないはずの体を動かしてどこからか声を発する。

『あ、あーあー。えっ、これで繋がっているのか? おーい、誰か返事をくれー。ただ声だけ出してると、無性に辛くなるからー』

「はい、聞こえていますよ。映像の方はどうなっていますか?」

『ああ、バッチリバッチリ。リュシルのいつもながらに可愛いご尊顔を、しっかりくっきり拝見させてもらっているよ』

「かか、からかわないでください! そっ、それよりほら──赤の『賢者』であるアカネさんと、塔の主であるアカリさんですよ!」

 顔を真っ赤にしながら、少々早口で説明を終えるリュシル。
 本人としてはとても怒っているのだが、少し緩んだ表情筋がそう思わせない。

 声の主は従魔である小さな魔物の視界を動かすと、リュシルが紹介した二人の容姿を確認する。
 そして黒髪黒目の姉弟、それが何を意味するのかすぐに理解した。

『ゴホン、たぶんもう聞いているとは思うけど念の為。俺は■■■■、こっちだとメルスと名乗っている。あと、別世界だからって調子に乗ってたら……なんやかんやあってソイツらと会った。──関係性は主と眷属だな』

「訊いていたんですか?」

『ああ、マシューといっしょにな。いっしょに行きたいって言って待機してたのに、いつまで経っても召喚されないってずっと不服そうだぞ。いやまあ、リュシル一人でできるってことを見てもらういい機会だったけど』

「……あとでマシューとゆっくり話すと、そう伝えておいてください」

 あいよ、と答えるメルス。
 彼らからは見ることができないが、彼の表情は眷属であるリュシルと話しているときとは、異なる相貌を浮かべていた。

『改めて、協力感謝する。『勇者』はまだ見つかっていないが、それでも『賢者』が力を貸してくれれば見つかるだろう。これで、ようやく別色の世界に行ける』

「行って―、どうするのー?」

『しいてあげるなら、どこかにいる黒幕の神に制裁を加えることかな? うちに保護した元その世界の神がいるんだが、禁則事項に縛られてまだ情報が欠けてるんだよ。だから、他の世界でも情報収集をする予定だ』

「その前にー、教えておくよー」

 アカネがそれから、リュシルにも伝えた情報を提供する。
 七つの世界や白の暗躍、そして循環する虹色の世界について……。

 その話を聞いたメルスはしばらく沈黙し、それから重い声で一言──

『いや、さっぱり理解できない』

「…………へっ?」

『あっ、いや、スキルで補正を受ければ頭が回るんだけどな。あいにく今日は使えない日なんだよ。要するに、白い神が裏切っていろいろとやった結果ってことだろ? だが、これ以上深いことが考えられない……回転が遅いんだよ』

「そー、そうなんだー」

 ちなみに本日の縛りは召喚系のみ、それ以外のすべてが禁止されていた。
 なお、盗聴は不活性の従魔によって行われていた。

『ただ、バカでも偽善はできるからな。二人の故郷の座標が分かったなら、<次元魔法>で送還してやるよ。あと、できるか分からないが習得の手伝いもしてみよう。帰りたいのに帰れないって言うなら、偽善者の出番だし』

 そう語るメルス。
 そんな彼に瞳を輝かせるアカリは、あることを尋ねる。

「ねぇねぇ──ハーレムってどんな気分なんですか?」

『その年で……って、不老か。そりゃあ可愛い子たちに囲まれるから、最高の気分だと言いたいところだが……そっちのお姉ちゃんが余計なことを言うなって目で教えてくれているから、詳細を言うのは止めておくよ』

「全部ー、言ってるじゃないですかー」

 アカリは早い内からWeb小説を読んでいたうえ、迷宮の機能で購入できたライトノベルを何百冊も読み漁っている。

 そういった意味では、アイリスと意気投合したのは当然のことだった。
 彼女もまた、病弱な身でできること──読書を学校に行く時間よりも長く行い続けていたのだから。

『何か用があったり、直接話したいことがあるなら、『終焉の海溝』とか『紅蓮都市』とか今は呼ばれている場所に来てくれ。眷属が必ず一人は居るから、それで連絡が付く』

「分かったわー、これからよろしくねー」
「よろしくお願いします!」

『ああ、こちらこそよろしく頼む』

 従魔は電源が切れたように瞳を閉じると、魔力で送還の術式が地面に刻まれて消える。
 彼らの初めての邂逅ファーストコンタクトは、中継によって行われたのだった。

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