1,127 / 2,518
偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その22
しおりを挟むコトッと机の上に置かれた小さな魔石。
あれから復活したリュシルが目的を果たしたことを確認し、そのうえで許可を取って設置したものである。
「アカネさんとアカリさん、二人には私たちの…………私たちの……なんと言えばいいのでしょうか? とにかく、その、会わせたい人と連絡を繋ぎますので、少し話していただきたいのです」
「うーん、いいよー」
「アイリス姉ェの話だと、ソイツが主人公みてたいなことをしているんでしょ? 早く会いたいなぁ」
「だからこその中継です──繋がりました」
魔石の中に刻まれた術式が作動し、ポンッと軽快な音を立てて魔石が砕ける。
そして、中から煙が溢れだし──小さな魔物が中から現れた。
一つ目──というより目玉に蝙蝠の羽が生えたその魔物は、口が存在しないはずの体を動かしてどこからか声を発する。
『あ、あーあー。えっ、これで繋がっているのか? おーい、誰か返事をくれー。ただ声だけ出してると、無性に辛くなるからー』
「はい、聞こえていますよ。映像の方はどうなっていますか?」
『ああ、バッチリバッチリ。リュシルのいつもながらに可愛いご尊顔を、しっかりくっきり拝見させてもらっているよ』
「かか、からかわないでください! そっ、それよりほら──赤の『賢者』であるアカネさんと、塔の主であるアカリさんですよ!」
顔を真っ赤にしながら、少々早口で説明を終えるリュシル。
本人としてはとても怒っているのだが、少し緩んだ表情筋がそう思わせない。
声の主は従魔である小さな魔物の視界を動かすと、リュシルが紹介した二人の容姿を確認する。
そして黒髪黒目の姉弟、それが何を意味するのかすぐに理解した。
『ゴホン、たぶんもう聞いているとは思うけど念の為。俺は■■■■、こっちだとメルスと名乗っている。あと、別世界だからって調子に乗ってたら……なんやかんやあってソイツらと会った。──関係性は主と眷属だな』
「訊いていたんですか?」
『ああ、マシューといっしょにな。いっしょに行きたいって言って待機してたのに、いつまで経っても召喚されないってずっと不服そうだぞ。いやまあ、リュシル一人でできるってことを見てもらういい機会だったけど』
「……あとでマシューとゆっくり話すと、そう伝えておいてください」
あいよ、と答えるメルス。
彼らからは見ることができないが、彼の表情は眷属であるリュシルと話しているときとは、異なる相貌を浮かべていた。
『改めて、協力感謝する。『勇者』はまだ見つかっていないが、それでも『賢者』が力を貸してくれれば見つかるだろう。これで、ようやく別色の世界に行ける』
「行って―、どうするのー?」
『しいてあげるなら、どこかにいる黒幕の神に制裁を加えることかな? うちに保護した元その世界の神がいるんだが、禁則事項に縛られてまだ情報が欠けてるんだよ。だから、他の世界でも情報収集をする予定だ』
「その前にー、教えておくよー」
アカネがそれから、リュシルにも伝えた情報を提供する。
七つの世界や白の暗躍、そして循環する虹色の世界について……。
その話を聞いたメルスはしばらく沈黙し、それから重い声で一言──
『いや、さっぱり理解できない』
「…………へっ?」
『あっ、いや、スキルで補正を受ければ頭が回るんだけどな。あいにく今日は使えない日なんだよ。要するに、白い神が裏切っていろいろとやった結果ってことだろ? だが、これ以上深いことが考えられない……回転が遅いんだよ』
「そー、そうなんだー」
ちなみに本日の縛りは召喚系のみ、それ以外のすべてが禁止されていた。
なお、盗聴は不活性の従魔によって行われていた。
『ただ、バカでも偽善はできるからな。二人の故郷の座標が分かったなら、<次元魔法>で送還してやるよ。あと、できるか分からないが習得の手伝いもしてみよう。帰りたいのに帰れないって言うなら、偽善者の出番だし』
そう語るメルス。
そんな彼に瞳を輝かせるアカリは、あることを尋ねる。
「ねぇねぇ──ハーレムってどんな気分なんですか?」
『その年で……って、不老か。そりゃあ可愛い子たちに囲まれるから、最高の気分だと言いたいところだが……そっちのお姉ちゃんが余計なことを言うなって目で教えてくれているから、詳細を言うのは止めておくよ』
「全部ー、言ってるじゃないですかー」
アカリは早い内からWeb小説を読んでいたうえ、迷宮の機能で購入できたライトノベルを何百冊も読み漁っている。
そういった意味では、アイリスと意気投合したのは当然のことだった。
彼女もまた、病弱な身でできること──読書を学校に行く時間よりも長く行い続けていたのだから。
『何か用があったり、直接話したいことがあるなら、『終焉の海溝』とか『紅蓮都市』とか今は呼ばれている場所に来てくれ。眷属が必ず一人は居るから、それで連絡が付く』
「分かったわー、これからよろしくねー」
「よろしくお願いします!」
『ああ、こちらこそよろしく頼む』
従魔は電源が切れたように瞳を閉じると、魔力で送還の術式が地面に刻まれて消える。
彼らの初めての邂逅は、中継によって行われたのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
クラスメイト達と共に異世界の樹海の中に転移しちまったが、どうやら俺はある事情によってハーレムを築かなければいけないらしい。
アスノミライ
ファンタジー
気が付くと、目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
クラスメイト達と修学旅行に向かうバスの中で、急激な眠気に襲われ、目覚めたらその先に広がっていたのは……異世界だったっ!?
周囲は危険なモンスターが跋扈する樹海の真っ只中。
ゲームのような異世界で、自らに宿った職業の能力を駆使して生き残れっ!
※以前に「ノクターンノベルス」の方で連載していましたが、とある事情によって投稿できなくなってしまったのでこちらに転載しました。
※ノクターン仕様なので、半吸血鬼(デイウォーカー)などの変なルビ振り仕様になっています。
※また、作者のスタイルとして感想は受け付けません。ご了承ください。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜
ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎
『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』
第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。
書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。
第1巻:2023年12月〜
改稿を入れて読みやすくなっております。
是非♪
==================
1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。
絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。
前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。
そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。
まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。
前作に続き、のんびりと投稿してまいります。
気長なお付き合いを願います。
よろしくお願いします。
※念の為R15にしています。
※誤字脱字が存在する可能性か高いです。
苦笑いで許して下さい。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~
おてんば松尾
恋愛
侯爵令嬢のメイベル・ラッシュは、跡継ぎとして幼少期から厳しい教育を受けて育てられた。
婚約者のレイン・ウィスパーは伯爵家の次男騎士科にいる同級生だ。見目麗しく、学業の成績も良いことから、メイベルの婚約者となる。
しかし、妹のサーシャとレインは互いに愛し合っているようだった。
二人が会っているところを何度もメイベルは見かけていた。
彼は婚約者として自分を大切にしてくれているが、それ以上に妹との仲が良い。
恋人同士のように振舞う彼らとの関係にメイベルは悩まされていた。
ある日、メイベルは窓から落ちる事故に遭い、自分の中の過去の記憶がよみがえった。
それは、この世界ではない別の世界に生きていた時の記憶だった。
ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる