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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その21

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 一方、リュシルと『賢者』から別れて上層へ向かった者たち。
 彼女たちはこれまた一つしかない扉を開くと、中へ入っていく。

「『塔主の間』……つまり、迷宮主ダンジョンマスターの部屋ってことだよね?」

「たぶんね。ちょうど──ほら、あそこに在るのがこの塔のコアだよ」

 アイリスが示す先──そこには不思議な色で輝く巨大な水晶が鎮座していた。
 周囲には無数の家具が置かれており、その一つには人影が映る。

「──へぇ、ダミーだとは思わないの?」

「そりゃあ分かるよ、元同業だし」

「ふぅん、同業ね……この世界にも迷宮ってあったんだ」

「ううん、そうじゃなくて──ワタシは死んで別の世界に転生してから転移して来たの」

 ピクリ、人影が反応を示す。
 眩く辺りを照らす迷宮核の隠れていたその者は、少女たちにその姿が見える場所に動いていく。

 その動作に、リュナとシュカが一瞬警戒態勢を取るが、周りの者たちが何もしていないことを確認してすぐに中断する。

「転生者で転移者? なに、その設定」

「うんうん、ワタシ自身もそう思うよ。さらに言えば、神様から狙われて電脳世界に逃げたり、封印されちゃってた親友を助けてもらう……なんてイベントもあったよ」

「うわっ、スゲェ!」

 その者は少年だった。
 黒髪黒目の彼は、地球であれば小学校低学年ほどの容姿を持つ。
 そんな彼は瞳を輝かせ、アイリスに向けて憧れの視線を向けていた。

「転生者ってことは日本人だよな?」

「そうだよ。けど、たぶん君とは違う地球からじゃないかな? 実はもう他の人と会っててね、地球に平行世界があるってことになったんだよ」

「マジかよ! 平行世界かぁ……なんか、響きがカッコイイよな」

「うんうん、やっぱりそう思うよね」

 彼らはそれぞれの地球について語り合う。
 それは下層で行われる、魔法に関する話し合いとも似通ったものであり……。

「なんだか、また取り残されたね」

「まあ、アリィにはこうなることがなんとなく分かってたけどね」

「私たちはどうすればよいのだろうか」

「……休憩?」

 リュナが示す先には何もない空間がある。
 そうだねー、と答えるユラルが指を鳴らした途端、そこに家具を模った樹木がいくつも生えていく。

「とりあえず、ここで休もうか」

「そうだ、アリィがゲームを用意するから、みんなでやってみない?」

「ゲーム?」

「楽しいよ。まあ、ちょっと試してみるだけでもいいからさ」

 ニコッと悪意を見せないスマイルを浮かべると、ゲームが行われていくのだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 舞台は再び九層の知識者たち。
 可能な限り情報を共有した彼女たちは、言葉を交わしながら螺旋階段を上っていく。

「弟さんはどんな方なのですか?」

「うーん、姉から見てー可愛い子かなー?」

「私に兄弟は居ませんでしたね。しかし、今ではたくさん姉妹がいますので、妹が可愛いというのはよく分かります」

「さっきの子たちかなー? うーん、たしかに可愛かったねー」

 互いに互いがいくつなのか、などという野暮な質問はしない。
 肉体の成長速度が普人よりも遅い魔人族、特殊な魔法で肉体の成長速度を止めた異世界人……訊かれても困ってしまう質問なのだ。

「けどー、うちのアー君も可愛いからねー。【迷宮主】だから年を取らないしー、もう凄く可愛いんだからー」

「そこまで言われると気になりますね。先ほど贔屓目と言っていたように思えますが、かなり自信があるようですが」

「ふふーん、姉ですからー」

 胸を95度辺りまで逸らし、鼻から息を吹くアカネ。
 そんな姿に苦笑していると、彼女たちは十階層に足を踏み入れていた。

「なんだか楽しそー、アー君も誰かとお話してるのかなー?」

「おそらくアイリスさんですね。彼女は転移だけでなく、転生も経験していますし」

「……教えてくれなかったー」

「それはアイリスさんの個人情報ですので」

 少しだけ開いた扉から漏れ出る声をBGMにしながら、話題を少し変えて中へ入っていく──そこでは予想通り、アイリスが少年と話している光景が視界に入る。

「アーくーん!」

「げっ、ネェちゃん……」

「もー、お姉ちゃんでいいのにー」

「い、いつまでも子供じゃないんだよ!」

 リュシルの予想に反し、アカネの弟は成熟していた──少なくとも、精神は。
 彼は【迷宮主】となった瞬間より、肉体が不老となっているため容姿は変わらない。
 ……姉が不老を目指したのもそのためだ。

「あっ、もう終わったの?」

「はい。どうやら彼女たちにもいろいろと事情があったようですが……とりあえず、扉の件は協力していただけそうです」

「へぇ、よかったじゃない。これで褒めてもらえるわね」

「! そ、そう……でしたね」

 リュシルの顔が、瞬間湯沸かし機のようにボフッと赤くなる。
 発言をしたアリィ──いや、アリスは同様の感情を完全に内面に隠したまま、リュシルの反応を楽しむように語りかけていく。

「そもそもここに行くって決めたのは、リュシルだものね。見事目的を達成できたんだから、ご褒美もあるでしょうし……」

「ご、ご褒美……」

「楽しみねぇ……独占はダメよ」

「しし、しませんよ!」

 そう答えると、しばらく俯いてしまう。
 彼女が回復するのは、それからかなりの時間が経過したあとだ。

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