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偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その20
しおりを挟む「ねぇねぇー、どうして赤の『賢者』ーって訊いたのかなー?」
少女はリュシルに近づくと、そう尋ねる。
燃え盛るこの紅蓮の世界に住む者たちは、その世界こそが生命の実在を確証できる世界なのだ。
──赤の、つまり別の世界の存在を挙げていることに『賢者』は興味を抱いた。
「監視はしていないようですね」
「んー?」
「すでにこの世界以外にも別の世界があることは知っています。私たちは、扉を開くために『賢者』さんに協力を願いに来たのです」
「……あー、そっちの方かー」
しかし、すぐにその態度は雑になる。
求めていたことを知らないのだと、そう割り切って切り捨てる『賢者』。
「答えはノーだよー。循環している虹色の世界はー、とっくに白色に乗っ取られているからねー。下手な真似でー、わたしの計画に邪魔が入ると困るのー」
「計画ですか?」
「そうそぉー、大事な計画ー。だから、それが終わった後にしてー」
彼女にとって、世界よりも大切なモノが存在していた。
そのためであれば、世界など天秤に載せる価値すらないと思えるほどに。
しかし、それは興味が無かったからだ。
相手に価値が有り興味をそそるナニカがあるのであれば、対応は変化する。
「──転移者」
「!?」
「その髪と瞳、あなたは日本人ですね? どういった経緯でこの世界に来たのかは知りませんが、目的は地球への帰還ですか?」
「……そういうあなたはー、もしかして転生者ですかー?」
彼女は黒色の髪と瞳を持っていた。
そして日本人は、そうした特徴を持つことが多いとリュシルは知っている。
可能性は低くはないと訊ねたが……どうやら『賢者』にとって、その問いは興味をそそるものだったようだ。
「いいえ、違いますよ。私は……私たちは転生者ではなく転移者──こことは別の世界から来ました」
「! 集団転移、それほどのことなら観測ができるはず……なんで!?」
「なんで、と言われましても……私たちは正規の方法で来ているわけではありません。神の干渉を受けているわけでもありませんし、観測のやり方が異なるのでしょう」
「…………教えて、すぐに」
語尾も変わり、瞳を輝かせる少女。
リュシルは苦笑すると、座れる場所を探して──何も見つからなかったので、空間魔法で椅子を取りだしてそこに座る。
「──神代魔法、ご存知ですか?」
◆ □ ◆ □ ◆
リュシル以外のメンバーは、すでにやることが無くなり上層へ向かった。
残った二人だけが、大量の本があるこの部屋で言葉を交わしている。
「なるほどー、次元魔法かー。そんな魔法があるんだー」
「はい。使い手は一人しかいませんけど、とりあえずありますよ。……習得しても、使えませんけど」
「どうしてー?」
「座標指定ができないからです。検証ができませんので、成功するか死ぬかのどっちかしかありません」
彼女たちは互いにこれまでの経緯を、簡単に説明した。
そして、現在はリュシルたちがこの世界に来た方法について話を行っている。
「ですので、あなたたちがこの方法で帰るのは考えた方がいいですね。せめて座標を知れる環境にあったなら、お願いして使っていただいていましたが……あなたたちよりも、命の方が大切ですので」
「うーん、さすがにそこまでして強引にしてもらう気はないよー。あくまで保険ー、そのためだしねー」
「事情は分かりました。そちらの協力をさせてください……そのうえで、私たちの協力をしていただけないでしょうか?」
「うーん、どうしよっかなー」
リュシルの願いは、異なる色の世界へ向かう扉を解放してもらうことだ。
そのためには、『賢者』である彼女の存在が必須である。
しかし、当の本人にやる気はない。
自分たちの世界に還ることだけを望むのであれば、それは間違いなく回り道になってしまうからだ。
「こちらから提示できるのは、座標を知り得た時点での送還ですね。転移自体は私たち自身で証明しています、求めたときにそこへ送り届けることは可能です」
「うーん…………一つだけー、お願いしてもいいかなー?」
「はい、内容によりますけどだいたいのことは叶えさせてもらいますよ」
頼んでいるのはリュシルだ。
最初から協力を求めるのであれば、それ相応の対価は支払うつもりでいた。
「えっとー、リュシルちゃんたちが居る世界の技術をー、教えてほしいなー」
「それぐらいでしたら構いませんよ。いずれこちらに、情報を纏めた本を持ってきます」
「ありがとー! よーし、わたしもいっしょに手伝うよー。けどー、他の人たちはーどれくらい集まってるのー?」
「今のところ、未覚醒の候補者三人に加えて『赤王』を目指す人がいますよ。見つかっていないのは、『勇者』だけです」
世界を開く鍵となるのは──五人の因子を宿す者たちだ。
彼らが集い、扉の前に立つことで初めて扉は機能を果たそうと動く。
「……すごーい、そんなに集まるんだー」
「運がよかったのかも……いえ、悪かったからこそ集まったのです」
「んー?」
「いえ、とにかくあとは『勇者』だけです。これからお願いします──『アカネ』さん」
最後に『賢者』の名前を言い、リュシルは彼女に手を伸ばした。
その行動に『賢者』──アカネは、言葉ではなく行動で示す。
互いの手は、ギュッと交わされた。
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