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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その19

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 九階層

 黄竜から手に入れた鍵を使い、次なる階層へ移動を果たした少女たち。
 彼女たちが見つけたモノは、思いがけないものだった。

「『賢者の間』、ですか……ここにあるということは、おそらくそういうことでしょう」

「どういうことなのだ、リュシル?」

「はい。『賢者』と呼ばれる存在と、ここ赫炎の塔を統べる主は別人なのです。二人は何らかの関係を持っており、二人で一人を演じているのだと思われます」

「なっ!?」

 驚きに目を丸くするシュカ。
 ここに住んでいたはずのリュナも、似たような表情を浮かべていた。

「リュナさん。あなたがこの塔を出たのは、居なくなった『賢者』を探すためですね?」

「はい」

「ある程度成長した迷宮は、持ち主の管理が無くとも勝手に制御を行います。一部の例外は居ますが……そうですよね?」

 そう言って確かめるのは、同じく迷宮の主である──アイリスにである。

「うん。仕様はだいたい同じだったけど、少なくとも居なくなったらすぐにボカーンってことにはならないよ。侵入者が来ないなら、そもそもそこまで悪くはならないし」

「しかし、この塔には侵入者が訪れます。大量に魔力を消費していきますので、必ず蓄えたエネルギーを消化しなければ氾濫が起きてしまうでしょう。けど、ここはそうなってはいません」

「なら、いるんだろうね──ここにもちゃんと【迷宮主ダンジョンマスター】が」

 九階層をぐるりと見渡すが、この階層には扉が一つしか存在しない。
 また、上層へと繋がる階段に鍵は設置されておらず、すぐに十層へ向かえる。

「読みが外れましたね。情報収集が足りないと、あとで怒られてしまいそうです」

「リュシルンが調べられないことは、私たちにも分からないんだけどね。よーし、困ったらこのユラルが協力してあげよう」

「あっ、アリィも手伝うよ。縛りで全然戦えなかったし、憂さ晴らしにちょうどいいや」

「そうですね。私も本気にはなれませんでしたし、あとでいっしょに頑張りましょう」

 まだ本気ではなかったのか、とぞっとするシュカ。
 リュナも彼女たちにまだ先があることを知らされてはいたものの、具体的にどれほどのものかは知らないため似たような感じだ。

「では、まずは『賢者の間』から向かってみましょう。念のため、仕掛けが無いかどうか確認はしますが……問題ないでしょうね」

「賢者様に……ついに……」

「会ったことが無かったのか?」

「居るとは聞いている。けど、会ったことはない。外に出たのも、長が言ったから」

 リュナがこの塔を出た理由──それは、行方知らずだった『賢者』を探すためだ。
 隠れ住む幻獣人たちの長のみが、『賢者』と連絡を取ることができる。

 しかし、ある日を境にぱったりと連絡が絶たれてしまったうえ、『賢者』らしき存在の情報が外に流れていると出戻りの者から知らされることに。
 そのため長は、戦闘能力の高い者を使って『賢者』を探すことにしたのだ。

「……では、ここには今も居ないのか?」

「いえ、おそらく居ます。それに、『賢者』であれば連絡手段も移動手段も確保できているでしょうし」

 リュシルはそう答えると、『賢者の間』の前に立ち扉をゆっくり開いていく。
 すると、これまでの部屋同様にこことは異なる空間と繋がった世界が映しだされる。

「では、行きましょう」

 そうして彼女たちは、目的だった『賢者』との謁見のため──部屋へと向かう。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 賢者の間

 そこは賢者らしいと言えば賢者らしく、そうでないとも思える場所だった。

 さまざまな書物が存在し、並べられている姿はたしかに賢者らしい……しかし、その書物がすべて生物の形を取っており、好き勝手に動いているさまは──賢者ではなく、動物好きの姿を彷彿させる。

「な、なんなのだこの部屋は……」

「……不思議」

 シュカとリュナはそんな場所に、幻想的な空間を感じていた。
 本が命を持って動いている姿など、これまでに一度も見たことが無いからだ。

『…………』

 だが、残りの者たちは違う。
 どこかで見た覚えがある──そう、自分の周囲の者の中で、そういった片付けの方法を好む者がいると知っていた。

 命を与え、自立行動を求めるのはあくまでそのため──自分が楽にするため、本自身に元の位置に戻るように命令するためだ。


「──あれー、お客さんだー? わぁー、いらっしゃいませー!」


 そんな中、どこからともなく声が響く。
 小児のように高い声、語尾が延びるようにして、その者の喜びの感情が表される。

「ちょっと待ててねー。いまー、そっちに行くからぁきゃぁあ!」

「だ、大丈夫なのか?」

「……どうなのでしょう」

 遠くでバタバタと本が落ちる音、そして悲鳴が聞こえたことを知覚した。
 居場所が分かったため、彼女たちは自分たちから会いに行くことを選んだ。

「痛たたたー……もー、どうしてこんな所にあるのよー」

「置いたのはご自身なのでは?」

「えへへー、そうだったーってあれー?」

「初めまして、赤の『賢者』さん。私はあなたに用があって会いに来ました、リュシルという学者です」

 向かった先、そこには──小さな女の子の姿があった。

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