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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その16

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「──この塔に来てから、とても濃い経験をしている気がする」

「よく分かる。いつもそう思ってた」

「リュナ……そうか、リュナは紅蓮都市に居るんだものな。なるほど、見ざるを得ないわけなのか」

「大丈夫、自棄に慣れる」

 一瞬、単語の意味が違った気がすると首を傾げるシュカ。
 しかし、リュナの表情が変わらないのを見て気のせいかと忘れる……忘れてしまう。

「それにしても……ここが八層か。最上層、ようやく見えるようになったな」

「残るは二層、最上層である十層がコアを安置する場所だと考えれば、戦闘自体はここと急送だけですね」

 リュシルはシュカの声に応え、近づく。
 すでに七層で四種の鍵を集めた彼女たち、八層にある扉の前でしばし休息をしていた。
 ──警戒に値する、強力な気配が扉の前から漏れ出ていたからだ。

「勝てる、だろうか」

「私たちが本気を出せれば、シュカさんたちがいっさいの苦労をせずとも勝てたかもしれませんが……それをすると、副作用がとても厳しいんです。なので、たとえ苦戦しようとそれを使わないつもりです」

「……もともとはそんな相手と闘おうとしていたのか。箱入りであることを理由に、無知であることを誇るわけにはいかないな」

「私たちのほとんどが、そういう風に無恥でしたよ。ただ、それは直せます。これからどうしたいのか、それを考えるべきですね」

 リュシルはそう言って、他のメンバーの下へ向かった。
 残されたシュカ、そしてリュナは改めて装備を整えながら話を続ける。

「いったい何者なんだろうか……彼女たちがいれば、魔王討伐だろうが邪神の眷属だろうが一瞬でできそうだが。リュナは、何か知っているか?」

「……知らない」

「……そうだったな。リュナの立場では、そう言うしかなかったか」

 彼女は奴隷だった。
 解放の際にある制約が設けられ、その中には軽度の守秘義務が要求されている。
 決して話せないわけではない、しかしそのことが契約者に漏れるのだ。

「──けど」

「ん?」

「負けるイメージは無い」

「そうか……それだけで充分だ」

 彼女がここを訪れた目的は、すでに果たされている。
 たとえ最高の結果は出ずとも、最良の結果は出せるだろう……リュナの言葉を聞いて、そう納得するシュカだった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 黄竜の間

 広大な大地が広がる空間。
 これまで彼女たちが巡ってきたどの部屋よりも巨大なその場所は、何者にも染まらぬ自然だけが残っている。

『侵入者か……主によって生みだされたが、ついにそれをこの目で拝むことになろうとはな。四獣たちはやられたか』

「はい。そして、それはアナタもですよ」

『うむ。儂の試練に抜け道は無い、あるのは闘争のみ。鍵は儂を殺すことでしか生みだされず、ここから出ることも叶わず。汝らは、それでも試練に挑む気概はまだあるのか?』

「──だ、そうですよ?」

 リュシルはリュナとシュカを見る。
 二人はコクリと頷き、言葉ではなく体で証明する──武具を構えることで。


『それが汝らの答えか。なれば、儂もまた全力で応えよう──我が名は黄竜! 四獣を統べし者にして、皇帝の現身! その権威を持つ央なる王! 超えてみせよ、侵入者!!』


 黄竜は咆え、五色の魔力を解放する。
 赤、青、白、黒、黄のエネルギーは絡み合い、凄まじい威圧を辺りに掛けていく。


『四獣は潰え、王を守る者は無い。なれば皇帝が命ずる。獣を継ぎし竜よ、四色を以って我を守護せよ──“四竜降誕”!』


 黄色を除く四色の輝きは、竜の形を取ってこの場に現出する。
 朱雀、白虎、玄武は赤竜、白竜、黒竜となる……そして、青竜は──

「あれ、青竜だけそんなに変わってない気がするんだけど……緑色じゃないけど、カラーチェンジした後の青色はほぼ同じだし」

「見た目に違いはありませんけど、だいぶ強化されていますね。さしずめ、蒼竜とでも呼ぶべきでしょうか?」

 蒼竜は青竜とは異なり、自らの意思を剥奪された存在である。
 それは赤、白、黒竜も同じ……皇帝の命は絶対であり、そこに個人の意思は不要だ。

「ふーん、けど配下の召喚って結構レイドボスっぽいアクションだね。あれを全部倒したら、それはそれで面倒になる気がするよ」

「たしか、そういった効果を持つ魔物が居ましたね。分配した力を還元することで、さらに強大になるといったものでした。先ほど五つの光があり、その四つが竜となったことを考えると……たしかにそうなりそうです」

 本来であれば、四獣を討伐しない状態で黄竜を倒すことがもっとも簡単だった。
 しかし、塔の構造上どうしても四獣を倒さなければならない。

 塔の製作者は、条件を満たした場合黄竜が強化されることを分かったうえで、そのような配置にすることを選んだ。

『どうした、挑みし者どもよ。進む勇気は無いとでも?』

「いえいえ、そういうことではありませんのでご安心を。ちょっとした作戦会議です」

 リュシルは腰に提げていた本を取りだし、捲っていく。
 そこに記された魔法陣に魔力を流し、足りない戦力──数を補う。

「とりあえず、黄竜は止めておきます。その間に、生け捕りにできますか?」

 獣の耳が生えた少女たち(二人)を除き、その場に居る全員(三人)が肯定の意思を告げていく。
 そして、闘いが始まる。

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