上 下
1,120 / 2,518
偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その15

しおりを挟む


 白虎の間

『死ねぇえぇ!』

 唯一の例外、課題を定めた四獣──白虎。
 荒れ狂う暴風、突き刺さる無数の金属、彼の者は全力を以って侵入者と相対している。

「なぜ、私たちは戦っているのだ……」

「…………どうやら他の皆さんは、鍵を無事に手に入れられたようですね。私たち以外は戦闘以外の試練を課せられたようです」

「本当になんでなのだ!」

『なあ、早くかかってこいよ! テメェらが欲しい鍵は、俺を満足させてねぇと一生手に入らねぇぞ!』

 ということです、とリュシルはニコリと笑みを浮かべてシュカの方を向く。
 真っ白な虎は血走った目で狂い咆え、周囲の風と金属を操り彼女たちを殺そうとする。

「白虎は金属を操るのですが、今の四行においては風属性を担当しています。そのため、どちらも使えるようになっていますね」

「くっ、どちらもやりづらい」

 長弓での攻撃を得意とするシュカに、遠距離からの攻撃を阻害する風属性と防御力の高い金属は厄介だった。
 実際、強化した矢を射っても一度として白虎の体に届いていない。

「では、私がやりましょう──“錬成”」

 地面を触媒にリュシルはある術を使う。
 それは(錬成術)、錬金術の上位に位置する物質改変術であり、叡智あるものに相応の繁栄を約束する遺失技術。

 そして、出現する無数の傀児ゴーレムたち。
 錬金術が科学を突き詰め、魔法のような技術に至る術なのであれば──錬成術はその技術を以って夢を現実として成立させるのだ。

 鍛え上げ、高めるのが本来の意の錬成。
 それをより高度な技術として可能とし、不老不死すらも可能にした術──それが錬成術なのだ。

「こ、これは……」

「錬成術ですよ。魔法の実験をしていたら、いつの間にか習得していました。そんな経緯はともかく、かなり便利ですので」

『チッ、人形じゃ血が出ねぇだろうが!』

「いいえ、出ますよ──ベットリとね」

 勢いよく鋭い鉤爪を振るう白虎。
 切り裂かれた傀児は本来、土塊に還るだけだった──しかし現実は異なり、中から黒い液体がぶちまけられた。

『クサァッ! おい、テメェ! いったいこれはなんだよ!』

「何って……ガソリンですけど?」

『ガソ、リン?』

「こういうことです──“着火イグニス”」

 何気ない生活魔法。
 ただし、彼女の膨大な魔力を以ってその耐久度が強化されているため、暴風と金属の盾が有ろうとすべてを熔かして進んでいく。

 そして、小さな火種は白虎──いや、ガソリン塗れの黒い虎の下に辿り着いた。
 火花が散り、白虎にとって取るに足らない脆弱な炎が生まれる。

 しかしそれは、自身の魔法抵抗力によって一瞬で消える……はずだった。

『ガ、グガァアアアアァアアアア!』

「も、燃えますねぇ……」

「予想外なのか!?」

「わ、私も知識に及んだことを実践してみようと思っただけで……こ、こんなに燃えるだなんて思ってなかったんですよ!」

 リュシルが生みだした傀児の中には、ガソリンだけでなく三フッ化塩素という成分がカプセルに閉じ込めた形で混ぜられていた。
 一度燃えたモノすら燃やし、そうでないモノであろうと燃やす凶悪な物質が故に、その存在を危険視された──軍事兵器でもある。

 地球においてこれは、製造コストの高さや取り扱いの難しさなどの要因もあって使われずにいるが──錬成術によって一瞬で、それも容易に扱えるのであれば話は別だった。

「と、というかこれは消えるのか?」

「…………あはははっ」

「おいっ!」

「だ、大丈夫ですよ。こういうときの魔法はちゃんと用意してます──“鎮火エクスィングイッシュ”」

 科学の力もその上位法則である魔法には敵わず、燃え盛る業火は強制的に奪われる。
 真っ黒に汚れていた虎は、その皮膚を焦がし今はその色が染み付いていた。

「これでよし」

『これでよし、じゃねぇよ……ぶっ殺す!』

「えっと、満足しましたよね? あなた、ずいぶんとボロボロですし、戦闘行為は充分に行ったつもりですけど」

『こんなもんは闘いなんて言わねぇよ! ふざけんな、どうやっても許せねぇ……テメェらを八つ裂きにして腸を抉りだして、食い散らかして地面に埋めてやるよ!』

 怒り狂う白虎。
 試練など関係ない、自分に楯突いた愚か者に裁きを降すのだ……そう信じていた。

「近接戦闘がお好みでしたか? 仕方ありません、少し待ってください」

「……それは?」

「これまでに造った傀児を登録した、名付けて『真理の傀児書』です。ここから白虎が満足できそうな傀児を召喚します」

「おおっ、それは頼もしい……ただ、危険ではないのか?」

 何度も(彼女にとって)死線を潜り抜け、気安い口調で会話できるようになった二人。
 バッサリとリュシルの自信ありげな声を断ち切り、不信感を醸し出す。

「勝つか負けるかと訊かれれば、それは間違いなく勝利です。しかし、あの白虎が無事かどうかという質問には……答えられません」

「なんだかもう、その解答だけで先の未来が見えてきた気がするよ」

「まあまあ、シュカさん。そう思えるようになっただけ、マシだと思ってください」

 そう言って、パラパラと紙を捲り求める召喚陣があるページを探す。
 白虎が相対する存在──それは、彼女が手塩にかけた傀児たちの一体。

「さて、満足させてあげましょう」

「不安だ、物凄く不安だ……」

 そして、その予感は的中するのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...