上 下
1,118 / 2,519
偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その13

しおりを挟む


 六階層は至る所で鍵が出現し、そのすべてが集まることで本物の鍵が手に入る……という仕掛けであることがのちに判明する。
 本来であれば苦労するのだが、すべてを倒していた彼女たちには関係なかった。

 そして、辿り着いた七階層。
 設置された扉は四枚──それぞれに辰、尾に蛇を生やす亀、鳥、虎のシルエットが描かれている。

「定番から言えば──青竜、玄武、朱雀、白虎が出てきそうだねぇ。けど、こっちの世界の人がそれを知ってるのかな?」

「そうですね……シュカさん、聖炎龍以外に世界を守る存在は居ますか?」

「……い、いないと思うが……こっちの世界とは、どういう意味なのだ?」

「ご説明は後ほど。と、なると可能性はかなり絞られますね……とりあえず今は、誰がどこへ行くかですね?」

 扉は四つ、しかし分けられた編成では三つしか同時に入ることができない。
 だが、リュシルはそれを気にしているわけではない。

 複数の人数が必要となる仕掛けなど、何度も経験していた。
 四体の守護獣に関する文献はすでに閲覧済みなリュシルは、このメンバーが最高の戦いができる配置を考える。

「青竜はユラルさんとリュナさん、玄武はアリィさん。朱雀はアイリスさん、白虎は私とシュカさんで行きましょう」

「……大丈夫なのか? 扉の数からして、おそらくこれまでよりも強大なはずでは」

「問題ありませんよ。それだけの力を、私たちは持ち合わせていますので」

「そう、なんだろうな」

 獣人であるリュナに眠る野生の勘、それが彼女に彼女たちの真価を告げていた。
 膨大な力を制御したうえで、さらに縛りを設けることでより高みを目指す者たち。

 それを行うだけの実力があり、決して死ぬことがないという自信を持っているのだ。

「すぐに終わりますよ。では、皆さん決して傷つかないように・・・・・・・・

「傷? 死なないように、ではないのか?」

「私たちの場合は、これでいいんです」

 首を傾げるシュカ、だがそれに答えてくれる者は誰も居ない。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 青竜の間

 青色の扉を開いた先、そこには川のせせらぎと木々の間から差す木漏れ日が癒しを生みだす小さな箱庭があった。

「ここは……」

「ふむふむ、青色だから水。青竜だから木なのかな? 精霊たちも喜んでいるみたい」

 樹聖霊であるユラルの瞳は、精霊たちが穏やかに活動している様子を映しだす。
 また、リュナにとっても、この場所はそう悪くない場所であると本能が告げていた。

『そう言ってもらえると、幸いだな』

「!」

「アナタが青竜さん、なのかな?」

『そうだ。私がこの地を統べる者、東を守護する青き竜である』

 そこに居たのは──小さなぬいぐるみだ。
 緑色の鱗を生やした、温厚な瞳を持つ辰の人形だった。

「緑……」

「うーんとねぇ、昔は緑色を青って言っていたんだよ。だから、青竜さんは緑色をしているんだよ」

『ほぉ、それを知っているのか聖霊よ。今の世にそれを知る者はなかなか少ないと聞いていたのだが──違和感を感じるのであれば、こちらの色にしておこう』

 青竜がそう言うと、鱗の色を青色に染めて再び言葉を──動いていないが──話す。

『ここには何のようだ?』

「私たちは上の階層に行きたいんだけど……戦わない方法ってあるのかな?」

『無論だ。私たち四獣それぞれに、それを可能とする方法がある。私の場合は──探し物がそれに該当する』

 探し物? と首を傾げる二人に青竜はその詳細を説明する。

『ルールは簡単だ。私の指定するモノをここに持ってくればよい。ただし、環境に害を与えた場合は即失格。その場合は、私との戦闘が強制的に始まると思え』

「分かった。それで、何を探せばいいの?」

『挑むたびに求められるモノは変わる。今回は──『青き果実』だ』

青き・・、果実?」

 リュナがそう尋ねると、青竜は少し噛み砕いた説明を行う。

『そこの樹聖霊であれば突いてきそうだから予め言っておく。早熟した実、というわけではなく青色の果実というわけだ……なのでその果実は、もう少し熟成してから頂きたい』

「うん、分かった」

 作ろうとしていた果実を急速に熟成させると、青竜の口に──

「これって、そのまま口に繋がるの?」

『そうだ。試験の合否も、この分体に果実を入れることで確認できる』

「ふーん、じゃあまずはこれをね」

 改めて口の中に実を入れると、吸い込まれるように果実は消え──ブッブーという音が辺りに響き渡る。

『すまん、そういう仕様なのだ。改めて、果実を入れてほしい』

「青き果実か……それって、そもそもこの部屋のどこかにあるの?」

『…………』

「それは言えないんだ。そうだ、リュナンもこれ食べる?」

 コクリと頷くリュナに、ユラルは先ほど生みだした果実を再び用意して差し出す。
 これはいくつかの果物の成分を併せ持ち、かなりの糖度を誇る果実であった。

『うむ、試練が果実の美味しさで測られるものであったならば、文句なしの合格だ』

「ありがとう。なら、こっちもどうぞ」

『うむ……さすがは樹聖霊。どのような品であれ、美味しくできるのだな』

「これは、契約者の世界で作られている高級な果実なんだよ──メロンって言うんだ」

 緑色・・のメロンが青竜の口に入った瞬間、辺りにピンポーンという音が鳴り響いた。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...