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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その11

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 五階層に辿り着いたのは、夕食を取る前のことだった。
 まだやれると思った彼女たちは、五階層も続けて攻略すると決めた。

 しかし、一つだけ問題があり──

「鍵穴が……ありませんね」

「解除条件がドロップアイテムじゃねぇってことなんだろうな。いちおう調べてみるが、燃費が悪ぃから強引に開けんのは無理だぞ」

「はい、それでもお願いします」

 結界の解析をカナタに任せ、リュシルは他のメンバーたちと合流する。

「リュナさん、念のためですが一階層と同じ手順で結界が開かないかどうかを試してもらえないでしょうか?」

「分かりました」

「ただし、扉の数が違いますのでまったく同じということにはならないでしょう。シュカさん、リュナさんの護衛を。もし何か起きた場合は、いっしょに私たちの誰かが対応するまで時間を稼いでください」

「しょ、承知した」

 階層が上がることに比例して減っていた扉だが、一階層で結界を解除するために必要な所作に影響は無かった。
 そうしていくつかの扉にノックし、巡っていくと──

『!』

 二人の目の前で、それに変化は起きた。
 叩いた扉は消失し、一階層よりも広い間隔距離となっていた扉と扉の間に、新しい扉が生まれたからだ。

「……なるほど、隠し扉ですか。一度見せないようにしたのは、あくまで幻獣人の方がまだ居るかどうかの確認ですかね? おそらくは、覚えるだけでなく幻獣人かどうかを調べていたのだと思われます」

「たぶん当たってるぜ。あと、あっちにも鍵穴が浮かんできたぞ」

「さすがにこれ以上の変化は無いと思いますが……扉に異常がないかを調べておきます」

 地面に手を着き、魔力を籠めるリュシル。
 するとボコボコと地面が揺れ動き、膨れ上がった床が小さな人形となる。

「簡易な傀児ゴーレムですけど……開けてください」

 創造者の命に従い、次々と扉の前に立ってジャンプしてどうにか開けることに成功する傀児たち。
 しかし、その一部が姿を消したのはすぐのことだった。

「──これはどうやら、一階層への強制転移トラップですね。どうやら先ほどの仕掛けによって、これまでに通った結界は再度構築されてしまったようです」

「そうなのか? 見た感じ、何も変わっていないように思えるが……」

「もともと一方通行だったのですが、私たちは元の階層に戻らなかったので恩恵が無かったのですよ。今までは上にも下にも移動できましたが、再び構築された今では、手順を再び踏まえなければ上には行けません」

 空間に関するスキルや魔法を用いても、これらはどうにかすることはできない。
 迷宮とは試練の場という側面を持ち、人々の知恵を絞らせる場所でもあるからだ。

「で、ではどうするというのだ?」

「罠の解除に関しては、カナタさんにお任せすれば問題ありません。私たちは先ほど同様に、中に居る魔物を討伐するだけです」

「リュシル嬢、どのような編成で?」

「これまでと同じにしましょう。ただ、リアさんはカナタさんの護衛をしてもらいたいですのですが……」

 ひらひらと手を振るリアを見て、話し合いは終了となる。
 カナタが確かめた扉を一つずつ開け、彼女たちは本日最後の攻略を始めた。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 ドゥルとリュナがそれを見つけたのは、カナタが調べた扉の枚数が二ケタに及び始めた頃だろう。
 紅色の獅子耳をピンと立てたリュナは、すぐに感じた違和感をドゥルに伝える。

「リュナ嬢、目標は私にお任せください」

「で、ですが……」

「リュナ嬢には、周囲の魔物の警戒に当たってもらいたいのです。私の攻撃を受けてもなお、耐えうる魔物が居るかもしれません」

「……分かりました」

 初めは戸惑っていたリュナだが、すぐに指示を受けて迷いを晴らす。
 彼女がそうなったのは、ドゥルが原因ではない──膨大な魔物の数が理由であった。

(カナタ様とリア殿下もまた、四階層では千の魔物と戦ったという。鍵を持つ魔物のみ、こうした大規模戦闘になるのでしょう)

 そう推測し、戦準備を整えるドゥル。
 後ろにはリュナが控えており、いつでも戦えるように爪に炎を灯らせている。

「私は騎士を自称しておりますが、同時に兵器であるとも自負しています──殲滅開始」

 彼女の言葉をトリガーに、空の至る所に空間属性の干渉を受けて生みだされた穴が生成される。
 空間が歪曲し、時空を超えた物資の転送が行われていた。

「確認するまでも無い。これで終わりだ」

 大量の武具が空から降り注ぎ、まだ視界にも入らない距離に居る魔物たちへ命中する。
 唖然とするリュナだが、彼女の想像以上にドゥルは異常な存在だった。

「まだ生きていましたか。さすがは迷宮の恩恵を受ける魔物、といったところでしょう」

 そう言うと、腰に提げた二本の剣の内──黄金の剣を引き抜くと両手でしっかりと握りしめて構える。

「我が名はドゥル。幻想より生まれし武具の申し子にして、偉大なる王の眷属。王の剣となりて、彼の者の王道を切り拓く者」

 彼女の声に合わせるように、黄金の剣は燐光を纏い激しく点滅する。
 剣は彼女が籠める精神力に呼応し、より強大な力を発揮するのだ。

 そのため、彼女自身のモチベーションが上がれば上がるほど、その剣が示す威力も強大なものとなる。

「我が騎士剣[シャルラ]よ、その力を魅せよ──“霊波斬”!」

 黄金の軌跡は半月状となり、真っ直ぐに生き残った魔物の方へと飛んでいく。
 やがてどこからともなく、くぐもった声で呻く魔物の声と地面が揺れる音がする。

「では、鍵を取りに向かいましょう」

「……はい」

 出番を期待していたリュナは、耳と尾を垂らしてドゥルに付いていくのだった。 

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