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偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その10
しおりを挟む三階層の攻略が始まったのだが──前回の層と同様に、魔物を倒すことで結界解除のための鍵が手に入った。
おまけに、二階層よりも扉の数がやや少なく、攻略は比較的速やかに終わる。
「どういうことでしょう?」
「いちおう魔物のレベルが強くなってたし、普通の部屋もそこまで必要無かったんだろ。だから上に行くにつれて、討伐の難易度が上がる代わりに攻略は簡単になる」
「なるほど、一理ありますね。では、それらの考えを踏まえ──四階層に行きましょう」
先ほどと同様に、結界にできた鍵穴に鍵を差し込んでガチャリと鳴るまで捻る。
すると結界が自然と解れ、先へと進む道が生まれるのだ。
──これが、昼前に起きた出来事である。
昼食を挟み、すぐに攻略が行われる。
リュシルとシュカは扉の外から攻撃を行うことで、安全に。
ドゥルはレミルの代わりにリュナと組み、先日の彼女が行ったような動きをする、
そして、カナタとリアは──
「あれがボスか? やっと見つけた」
「先ほどはリュシルたちに取られたからね。今回こそ、ぼくたちの手で倒そう」
「ああ、やっぱり迷宮ってのはこうじゃねぇと盛り上がんねぇ!」
彼女たちは狼型の魔物に囲まれていた。
見渡す限り狼だらけであり、その数は優に百の桁を超えるのだろう。
「カナタ、アレが親玉じゃないかい?」
「ん? どれどれ…………ああ、そうだな。あれが俺たちのターゲットだ」
この部屋のどの狼よりも、大きくて毛並みに艶があるその狼──『サウザンドウルフ』は猛々しく吠え、侵入者に警告する。
『UWOOOOOOOOOOOOON!!』
『WOOOOON!』
「ずいぶんとお優しいこった。このまま扉に戻れば許してくれるみたいだぞ」
「そりゃあありがたい……けど、こっちにも譲れないものってのがあるからね」
互いに武器を手に取り、構える。
その反応が何を意味するのか、それをその身に教えるため──初めての客人に向けて、一定数の狼を嗾けた。
だが、それは明確に実力差が無い相手だからこそ意味を成すことである。
スッとリアがカナタの前に出ると──
「ここはぼくに任せてよ」
「仕方ねぇなぁ……ただ、分かってんな?」
「あのボスは君の、だろう?」
「なら、構わねぇよ」
カナタが了承すると、辺りに膨大な数の茨が出現した。
黒に近い闇色で、触れた狼たちは例外なく苦しみもがいて地に倒れ伏す。
「悪いけど、一気にやらせてもらうよ」
技名なんて必要ない。
茨は彼女と一心同体であり、指先のように自在に操れるもう一つの腕のような物。
それらを振るうと、すべての狼たちに向けて向かわせていく。
『GYAIN!?』
「はい、これで終了。ちょうど空に飛んでくれたし、あれで最後みたいだね」
「あいよ、あとは任されろ!」
空歩スキルによって呪いの茨から逃れたボス狼だったが、すぐにカナタが空を翔け上がり追いかけてきた。
そのまま逃げ切ることも可能だったが、創造者より与えられた任務を果たすためにも向き合って戦うことを選ぶ、
「やっぱりそうじゃねえとな! ほら、さっさと始めるぞ!」
『GURRRRR……』
「いっちょまえに威嚇しやがって。ほら、先攻は譲ってやるよ」
『UWOOOOOOOON!!』
舐められた、と思う反面そうでなければ勝てないと分かっているボス狼。
自身を鼓舞するように咆えると、向かってくる小さな黒森人に牙を鳴らす。
「へっ、そんな挑発が効くかよ!」
少なかった耐性スキルは(異常無効)まで昇華したうえ、装備によってさらに向上済み。
そのためカナタはいっさい思考を揺らがされず、整えていた魔法を行使できた。
「──“棘縛り”!」
リアの生みだした茨を操り、ボス狼に向けて伸ばしていく。
本来であれば呪いの力もあって干渉不可能な代物だが、発動者がそれを許可しているため簡単に操ることができる。
『GUWOON!!』
「はっ、ちょっと待ってろ!」
涙を呑んで作ってもらった装備の数々。
その一つである鞭を取りだし、武技を天に向けて放つ。
「──“轟雷鞭”!」
『GUWOOOOOOOON!』
「……うわぁ、相変わらずえげつねぇ威力」
地面から空へと駆け上がった鞭は、雷が如き破壊力と音を示してボス狼を焼き焦がす。
ボス狼はカナタにいっさいの手傷を負わすことなく、息絶えて地へ落下する。
「ったく、やっぱりおかしいだろアイツ」
鞭型に武器を調整してきたことには不満があったものの、それなりの威力が発揮できるうえに、素が素だったためにあまり文句も言えずに渡された──『背徳の触鞭』。
それを片付け、墜ちてくるボス狼を回収すると地面に着地する。
「お疲れ、カナタ」
「まあ、一発やっただけだからな──よし、これで解体完了だ。鍵もバッチリだぜ」
「そりゃあよかった。さて、早くみんなと合流して次の階層を目指そうか」
「そうだな、アイツを見返さねぇとな」
二人はそう談笑しながら、部屋の中から出ていった。
それから少しして、四階層の結界は解除され五階層への侵入者が現れることになる。
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