上 下
1,115 / 2,519
偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その10

しおりを挟む


 三階層の攻略が始まったのだが──前回の層と同様に、魔物を倒すことで結界解除のための鍵が手に入った。
 おまけに、二階層よりも扉の数がやや少なく、攻略は比較的速やかに終わる。

「どういうことでしょう?」

「いちおう魔物のレベルが強くなってたし、普通の部屋もそこまで必要無かったんだろ。だから上に行くにつれて、討伐の難易度が上がる代わりに攻略は簡単になる」

「なるほど、一理ありますね。では、それらの考えを踏まえ──四階層に行きましょう」

 先ほどと同様に、結界にできた鍵穴に鍵を差し込んでガチャリと鳴るまで捻る。
 すると結界が自然とほつれ、先へと進む道が生まれるのだ。

 ──これが、昼前に起きた出来事である。



 昼食を挟み、すぐに攻略が行われる。
 リュシルとシュカは扉の外から攻撃を行うことで、安全に。
 ドゥルはレミルの代わりにリュナと組み、先日の彼女が行ったような動きをする、

 そして、カナタとリアは──

「あれがボスか? やっと見つけた」

「先ほどはリュシルたちに取られたからね。今回こそ、ぼくたちの手で倒そう」

「ああ、やっぱり迷宮ってのはこうじゃねぇと盛り上がんねぇ!」

 彼女たちは狼型の魔物に囲まれていた。
 見渡す限り狼だらけであり、その数は優に百の桁を超えるのだろう。

「カナタ、アレが親玉じゃないかい?」

「ん? どれどれ…………ああ、そうだな。あれが俺たちのターゲットだ」

 この部屋のどの狼よりも、大きくて毛並みに艶があるその狼──『サウザンドウルフ』は猛々しく吠え、侵入者に警告する。

『UWOOOOOOOOOOOOON!!』

『WOOOOON!』

「ずいぶんとお優しいこった。このまま扉に戻れば許してくれるみたいだぞ」

「そりゃあありがたい……けど、こっちにも譲れないものってのがあるからね」

 互いに武器を手に取り、構える。
 その反応が何を意味するのか、それをその身に教えるため──初めての客人に向けて、一定数の狼をけしかけた。

 だが、それは明確に実力差が無い相手だからこそ意味を成すことである。
 スッとリアがカナタの前に出ると──

「ここはぼくに任せてよ」

「仕方ねぇなぁ……ただ、分かってんな?」

「あのボスは君の、だろう?」

「なら、構わねぇよ」

 カナタが了承すると、辺りに膨大な数の茨が出現した。
 黒に近い闇色で、触れた狼たちは例外なく苦しみもがいて地に倒れ伏す。

「悪いけど、一気にやらせてもらうよ」

 技名なんて必要ない。
 茨は彼女と一心同体であり、指先のように自在に操れるもう一つの腕のような物。
 それらを振るうと、すべての狼たちに向けて向かわせていく。

『GYAIN!?』

「はい、これで終了。ちょうど空に飛んでくれたし、あれで最後みたいだね」

「あいよ、あとは任されろ!」

 空歩スキルによって呪いの茨から逃れたボス狼だったが、すぐにカナタが空を翔け上がり追いかけてきた。
 そのまま逃げ切ることも可能だったが、創造者より与えられた任務を果たすためにも向き合って戦うことを選ぶ、

「やっぱりそうじゃねえとな! ほら、さっさと始めるぞ!」

『GURRRRR……』

「いっちょまえに威嚇しやがって。ほら、先攻は譲ってやるよ」

『UWOOOOOOOON!!』

 舐められた、と思う反面そうでなければ勝てないと分かっているボス狼。
 自身を鼓舞するように咆えると、向かってくる小さな黒森人に牙を鳴らす。

「へっ、そんな挑発が効くかよ!」

 少なかった耐性スキルは(異常無効)まで昇華したうえ、装備によってさらに向上済み。
 そのためカナタはいっさい思考を揺らがされず、整えていた魔法を行使できた。

「──“棘縛りソーンバインド”!」

 リアの生みだした茨を操り、ボス狼に向けて伸ばしていく。
 本来であれば呪いの力もあって干渉不可能な代物だが、発動者がそれを許可しているため簡単に操ることができる。

『GUWOON!!』

「はっ、ちょっと待ってろ!」

 涙を呑んで作ってもらった装備の数々。
 その一つである鞭を取りだし、武技を天に向けて放つ。

「──“轟雷鞭ライトニングウィップ”!」

『GUWOOOOOOOON!』

「……うわぁ、相変わらずえげつねぇ威力」

 地面から空へと駆け上がった鞭は、雷が如き破壊力と音を示してボス狼を焼き焦がす。
 ボス狼はカナタにいっさいの手傷を負わすことなく、息絶えて地へ落下する。

「ったく、やっぱりおかしいだろアイツ」

 鞭型に武器を調整してきたことには不満があったものの、それなりの威力が発揮できるうえに、もともとだったためにあまり文句も言えずに渡された──『背徳の触鞭』。

 それを片付け、墜ちてくるボス狼を回収すると地面に着地する。

「お疲れ、カナタ」

「まあ、一発やっただけだからな──よし、これで解体完了だ。鍵もバッチリだぜ」

「そりゃあよかった。さて、早くみんなと合流して次の階層を目指そうか」

「そうだな、アイツを見返さねぇとな」

 二人はそう談笑しながら、部屋の中から出ていった。
 それから少しして、四階層の結界は解除され五階層への侵入者が現れることになる。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。 彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。 「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」 そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。 「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」 正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。 いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

処理中です...