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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その07

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 最後の一組──リッカとフー。
 二人は強力すぎる遠距離攻撃しか持っていないため、近接戦闘を要された。
 また、防御手段も持っていないため、彼女たちの中でもっと激しい戦いをしている。

「終わった……」

「お疲れ様、フー。相変わらず、不殺の戦いになると最強よね」

 労いの言葉を掛けるリッカ……だが、フーはまだ呼吸も整っていないまま、慌てて反論し始める。

「そ、そんなこと、ない。リッカちゃん、むしろ、ごめんなさい」

「まあ、そういうふうに創った魔王様の責任じゃない。フーに問題はないわよ」

 フーは【憤怒】の魔武具『反理の籠手』に宿る意思が、肉体を得た存在。
 使える力は、創造者がイメージした能力と手に入れた肉体によるもの。

 ──与えられた力は(禁殺格闘)、決して誰かを殺めることのない格闘術。

 故に彼女は近接戦闘で誰も殺せない。
 遠距離攻撃の才能は無く、使える魔法もその大半が近接戦闘に関するモノのみ。
 誰かの助けなしには、子供でも倒すことができる魔物を殺せないのだ。

「で、でも、あの人は悪くない……」

「そうよね。フーは自分が生まれた理由を理解しているものね。そして、そのうえで役に立ちたいと思っている」

「~~~~ッ!?」

「恥ずかしがる必要なんてないじゃない。というか、ほとんどのヤツは同じでしょ?」

 時間経過によって魔物たちの死骸は迷宮ダンジョンに吸収され、その場には魔核が残される。
 リッカは真っ赤になった顔を隠すフーを見て、楽しそうに笑みを浮かべながら魔核の回収を始めた。

「まあいいわ。それにしても……この部屋は当たりかもしれないわね。なんだか妙に、魔物の数が多いし」

「そそ、そうだね」

「フー、あなたってチャルやフィレルみたいに豹変することってないのかしら?」

「そ、そんなことできないよ!」

 どちらも近接戦闘が得意なうえ、条件を満たした場合は精神が豹変する。
 しかしフーは、それに当て嵌まらない。
 あくまで近接戦闘が得意なだけなのだ。

「あら、残念。それならトドメは私が刺していくから、さっきみたいにお願いね」

「わ、分かったよ」

 索敵範囲に入ってきた魔物たちを知覚し、二人は戦闘準備を始める。
 リッカが握るのは複数本のナイフ、フーは自分自身とも呼べる『反理の籠手』を使う。

『GUROOOOOOOOOOO!!』

「あら、大きい」

「あわわわわわ……」

 現れたのは『パーガトリーゴーレム』と呼ばれる炎のゴーレムだ。
 発声機能はないが、魔力を思念に乗せることで意思を表すことができる。

 今回はそこに威圧の力を籠め、侵入者に最終勧告を行った。
 守るべき場所、護する領域を何者にも侵されないように。

「ふーん、それなりに強そうじゃない。これならフーも実感が湧くんじゃないの? 魔王様があなたを生みだした意味が」

「そ、そうかも……やってみるね」

 両手に嵌めた籠手を打ち鳴らし、目の前にそびえ立つその障害を見つめる。
 ゴーレムもまた、侵入者たちをジッと見つめると──その身を燃やす炎の残滓に、力を分け与えていく。

 すると、火の粉は『スパークゴーレム』となり、炎は『フレイムゴーレム』という形を成して彼女たちに近づき始める。

「い、行くね!」

 そんな中、フーは凄まじい勢いで分身ゴーレムたちに近づき──拳を振るう。
 魔力によって高められた防御力は、そのまま物理干渉能力を向上させ、一撃を以って一体のゴーレムを破壊する。

 攻撃はそれだけではない。
 強すぎる力によって、風が吹き荒れた。
 荒れ狂う暴風は火を掻き消し、ゴーレムたちを吹き飛ばしていく。

「ちょっと、やりすぎじゃないの?」

「ご、ごめん!」

「大丈夫。そういうフォローをするのも、メイドの役目よ!」

 リッカは跳躍し、吹き飛ばされたゴーレムたちへ無数のナイフを投擲した。
 それらはすべて、心臓部分である機関に命中し、活動を完全に停止させる。

「というか、もう止まってたわよ。やっぱり生きていない相手なら倒せるのね」

「そ、そもそも分身だったから……けど、アレは無理だと思う」

「魔核が無いわよ、あの分身。一定量の魔力か何かを材料に作ってるわね。フー、さっさと親玉を倒してちょうだい」

 停止したゴーレムたちは、熱となって本体へ還元される。
 再びそれらはゴーレムの分身となり、彼女たちに迫っていく。

 本体を倒すまで、この戦いは終わらない。
 熱は無限に存在し、時が経てば経つほど状況は不利になっていく。

 リッカはサポート役、弱らせるのはフーの役目である。
 スッと前に立った彼女は、大きく深呼吸をして息を整え……その言葉を告げた。

「──“事象剥離”」

 そう唱えると、彼女の拳は赤色に染まる。
 警戒するゴーレムは、夥しい数の分身を生みだし向かわせた。

 しかし、そのすべてが砕かれていく。
 格闘術は拳だけでなく、肉体を用いたすべての戦い方が内包されている……そのはずだが、彼女は拳だけですべてを破壊していた。

 ゴーレムは当然、還元による再生を行おうとする──だが、それはできず、熱はそのまま大気へ溶け込んでいく。

 彼女の──いや、『反理の籠手』が持つスキル(事象剥離)。
 あらゆる事象に干渉し、それを引き剥がして無効化する力。

 それにより、熱はゴーレムの支配下から離れて自然へと還っていった。

「これで、おし──まいっ!」

 減り続けるゴーレムの分身。
 カラクリが有ることに気づいた本体は、すでに熱を自身に戻し力をギリギリまで高めて戦闘態勢に入っていた。

 勢いよく振るわれた拳。
 互いに力の限り振るったそれは、周囲の環境を書き換えるほどの威力を発揮し、生みだされた衝撃波が辺りを破壊していく。

 炎は掻き消え、罅が入るゴーレム。
 しかしフーに悪影響はなく、ただただ拳に籠めた意思を前に突きだす。
 そして──体重差を覆すように、ゴーレムはフーによって空へ殴り飛ばされる。

「……なんだか、美味しいところを持っていくようで悪いわね」

 ギリギリのところで生存していたゴーレムだが、放たれた一本のナイフが胸の核を貫き活動が停止する。
 ズシンッと大地が揺れ、ゴーレムが空から舞い戻る。

 その胸の内には、キラキラと輝く鍵が──砕けて・・・残っていた。

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