上 下
1,111 / 2,518
偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その06

しおりを挟む


 二階層ではすでに、戦いが始まっていた。
 しかし、それは互いに力をぶつけ合うものではなく──少女たちによる、一方的な蹂躙である。

「“螺旋矢ドリルアロー”」
「“飛矢駆リープアロー”」

 扉の入り口からシュカの放った矢は、魔物に向けて一直線に飛んでいく。

 本来であれば、届かない距離に居た魔物。
 しかし、リュシルの唱えた魔法の効果を受け、矢は本来の射程距離以上に飛び──心臓に命中する。

「お見事です、シュカさん」

「そう言ってもらえるとありがたい。だが今のは、リュシルさんのサポートがあったからこそできた芸当だ」

「リュシルで構いませんよ。先ほどの魔法は飛距離を伸ばすだけで、進路に補正は入りません。シュカさんはそれを独力で、それも一回でやったんですよ。森人のように見事な射撃能力です」

「そ、そう……なのだろうか?」

 リュシルはもともと学者だったが、頼れる者が居なかったため、単独で調査のために外へ出る経験を持つ。
 それでもどうしようもない場合──特殊な迷宮などに入る場合は、冒険者などを雇って人数調整を行うことがあった。

 それ故に、彼女はさまざまな人種の者たちと接した経験を持っている。
 シュカの弓の実力を、森人と比較できたのもそのためだ。

「ところで、シュカさんはどうして弓をお使いになられているので? 私の知る限り、あまりメインとして弓を使う方が多くなかったもので……」

「ああ……私は箱入り娘、というヤツだったからな。普通の獣人アンスロがするような闘い方をさせてはもらえなかった。妥協されて、それで弓。もっとも、今では愛着を覚えている」

「そうでしたか。ありがとうございます、不躾な質問に答えていただいて」

「今はパーティーだ。メンバーのことを知ろうとするのは当然だろう」

 本で読んだ知識とリュナがかつて教えた情報で、彼女シュカラナの『パーティー』という概念は固まっていた。
 リュナを探すため、単独で突き進んでいたため誰もそれを修正することなくこれまでを生きてきた。

「ふふっ、そうですね。いっしょに居る相手とは、仲を深めたいものです」

「やはりそうであったか。リュシルさん、少しの間だけですが、よろしくお願いします」

「リュシルで構いませんよ。ここには……ありませんね。それでは、次の扉の捜索に入りましょうか」

「ああ!」

 扉の中の捜索を終えると、二人は部屋から出てまた別の扉の中を確認し始める。
 二人・・はそうして、仲を深めていった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「では、行きましょうか」

「うん、行く」

 一方、レミルとリュナの二人組。
 彼女たちもまた、扉を開けると中の捜索を行っていた。
 すでに幻獣人たちが住む扉を訪れ、長老から情報を確認している。

 だからこそ、彼女たちは二人組に分かれて行動していた──ある物を探すために。

「どうですか、反応はありましたか?」

「ちょっと待って……居た。ちょっと右方向に、魔中鬼デミホブゴブリン

「分かりました」

 リュナはシュカと違い、紅蓮都市で習ったためその魔物の正体がすぐに分かった。
 魔子鬼デミゴブリンよりも濃い緑の皮膚を持ち、体格も良い進化種──魔中鬼。

 赤色の世界では決して姿を現すはずのない個体が、彼女たちに襲いかかる。

「ふっ」

『GUYAA!?』

「その程度で、この先を通れると思わないことです!」

 巨大な盾が二つ、彼女の白く細長い腕に固定されている。
 あらゆる物を拒む壁が、襲いかかる魔中鬼たちの猛攻をいっさい受け入れずにいた。

「リュナさん!」

「んっ!」

 動揺する魔中鬼を襲撃するのは、レミルの陰に潜んでいたリュナ。
 両手の第一指間腔以外の指間腔ゆびのあいだから炎でできた刃を生みだし、周辺の魔物をズタズタに切り裂いていく。

 彼女の種族──『紅獅子』は、生まれながらにして炎に対する適性を持つ。
 また、精神力を消費することで炎を生みだすことが可能で、それを用いて戦うのが彼らの戦闘スタイルであった。

 切り裂かれた肉体のパーツは、一瞬にして燃え上がり炭と化す。
 それだけの高温でありながら、彼女の皮膚にはいっさいの火傷跡が存在しない。

「私も負けてはいられませんね」

 巧みに盾を動かし、魔中鬼の攻撃を完璧にシャットアウトするレミル。
 何もできないまま死ぬのは嫌だと、そう焦燥に駆られる魔中鬼たちは少しずつ冷静さを失っていく。

 だからこそ、気づけなかった──空から降り注ぐ武具の雨に。

『GUGYAAA!』

「矢よ、一斉放射!」

『GUYAAAAAAAA!!』

 上から落ちる無数の武具と、正面から飛ばされる無数の矢。
 それらから逃れることはできない。
 すでにそれができる個体は、リュナによって消し炭にされているからだ。

 彼らは足掻くように声を出しもがき、苦しむだけで何もできず──そのまま果てた。
 残ったのはビー玉サイズの魔核、そして彼らの持っていた武器が少々のみ。

「お疲れ様です、リュナさん」

「大丈夫、です」

「そうですか? ……では、私が少し疲れましたので休息しましょう」

「……はい」

 彼女たちは魔道具を使って辺りに散らばるドロップアイテムを片付けると、しばしの休息に入るのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...