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偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その05
しおりを挟むやがてリュシルが戻ってくると、それと時同じくして再び影のようなモノに身を包んだ者たちが、塔へとやって来ていた。
警戒しようとしたシュカだったものの、何もしないリュナを見てそれを止める。
彼女が警戒せず、先ほどと同じような登場の仕方──すぐにその答えは分かった。
「シュカさん、紹介しますね。彼女たちが、第一陣として、行動を共にする皆さんです」
その瞬間、全員が影のような隠蔽を解いて姿を彼女に晒す。
侍女のような恰好をした、黒髪の少女。
甲冑を身に纏う、翼を持つ白髪の少女。
皮膚に翆玉のように輝く緑色の鱗が張り付く、同色の髪を持つ目つきの鋭い少女。
皆それぞれが晶瑩玲瓏とも呼ぶべき美姫たち、いったいどのような集まりなのかシュカはまだ分からない。
そのため、挨拶をしようにも少々緊張してしまうほどだ。
「シュ、シュカラナだ……いえ、です。シュカで構わ……いません。よ、よろしくお願いします」
「皆さん。さっき連絡した通り、彼女はリュナさんの知り合いだそうです。これから迷宮の攻略が終わるまで、パーティーに加わってもらいます」
ペコリと頭を下げると、黒髪の少女から順に自己紹介を行っていく。
「私はリッカ。見ての通り侍女よ。何か不便に思えるようなことがあったら、いつでも私に言ってちょうだい。口調に関しては侍女らしくないけど気にしないで」
「レミルです。えっと、前衛で皆さんを攻撃から守りますね。シュカさんは……弓ですから、攻撃がいかないように頑張ります」
「……『フー』」
全員の顔合わせが終わり、パーティーメンバーの挨拶も終わった。
そのタイミングを見計らって、リュシルは全員に声をかける。
「皆さん、そろそろ連絡しますよ」
首を傾げるシュカだが、クイクイと袖を引くリュナが説明をしてくれた。
映像を繋げる長距離用の連絡装置らしい。
ふと、国宝級の魔道具だという一般知識が浮かんだが、その思考は中断される。
『──映像、繋がったみたいだな』
『おー、迷宮って感じがするねー』
投影された映像から声が聞こえたからだ。
黒森人の少女と、翼の生えた少女たちがこちらの景観を見てキョロキョロとしていた。
また、その後ろで森人の女性がこちらを見ていた……黒森人の少女と容姿が似た、大人びた女性である。
「カナタさん、アイリスさん。設営、完了しました」
『ご苦労さん。さて、こっちもこっちの仕事に取り掛かろうか。コア、アイリス』
『畏まりました』
『オッケー』
以降、ピッやらカタカタなどという音が木霊する。
何をしているか分からないシュカは、自分からリュナの方を見るが──
フルフル
彼女もまた、あれが何なのか分かっていないようだった。
手持無沙汰だったので、武具の手入れでも始めようかと思ったそのとき、向かう側で響いていた音が鳴り止んだ。
『解析完了だ。間違いなく、迷宮だ。しかもリンクできるようだ。たぶんだが、アレをやることもできるぜ』
「それは止めておきます。あくまで、私たちは平和的な交渉を望んでいますので」
『……まあ、それでもいいけどさ。ちゃんと出番を取っておいてくれよ』
「分かっていますよ。担当日までに踏破できていなかったら、ですけどね」
いくつか情報を共有したところで、映像は途切れて投影していた魔道具は光を失った。
リュシルがそれを回収し、何もない場所に穴を生みだしてしまう様子を見て、空間属性の使い手であると理解するシュカ。
(そういえば、他の者たちも誰一人として嵩張る物を所持していない……同じく空間属性の使い手か、質の良い魔法鞄でも持っているのだろう)
不思議なことを行う者たちだ、それくらいのことは容易くできるに違いないと。
これまでの流れ、そしてリュナの説明からそう纏めたシュカ。
──そうしなければ、彼女の精神が揺らいでしまうからだ。
「では、まず本日の予定の確認です。リュナさんが解除してくれた結界を潜り、二階層へ突入します。幻獣人の皆さんの暮らすエリアはそこにありますので、そこを拠点にして本日は活動を行います」
「三階層への行き方は分かっているの?」
「伝承が、あります。長、知ってます」
「まずはそちらへ向かうのですね」
リュナの言葉に、すぐリュシルのプランの意味を理解する少女たち。
その気になれば、結界を強引に破壊することだってできる者たちだ。
可能であればルールは守りたいが、非常時とあらばすべてを無視して突き進むだろう。
「シュカさん、魔物は部屋から出てこないのでしたね?」
「ああ……はい。少なくとも、この階層の魔物はそう……でした」
「敬語は要りませんよ。リュナさんのお友達であれば、私たちとも友達です」
「そ、そうなのか?」
はい、と笑顔で答えるリュシル。
里の中で蝶よ花よと育てられたシュカに、友と呼べる者はいなかった。
そんな箱入り娘はリュナと出会い、初めて友達という存在を知ったのだ。
「リュナさん、魔物は外に出てきますか?」
「……出てこない、と思う。けど、部屋の中に居ると襲ってくる」
「分かりました。できるだけ、遠距離での攻撃を……ああ、フーさん。大丈夫ですよ、中で戦っても」
リュシルは自らの発言にしょぼんとしだしたフーを立ち直らせるため、この後も学者として磨いた舌を回すのだった。
──なお、今のフーは近接特化とも言える能力しか持っていないのだ。
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