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偽善者なしの捜索劇 十六月目

偽善者なしの赫炎の塔 その04

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「──と、言うわけなのです。信じてもらえるかどうか分かりませんが、それを私たちは信じて行動しています」

 リュシルがシュカに語ったのは、赤色の世界に隠された重大な秘密とも呼ぶべき事象の数々であった。

「封印された邪神、偽物の邪神に異世界への道程を開く扉だと? ……信じがたい」

「はい、そうだと思います」

「──だが、嘘を吐いているようには思えない。リュナがここに居るのだ、この話に虚偽は感じられない」

 シュカは彼女たちの瞳を見て、騙そうとする思いがいっさいないことに気づく。
 逆に嘘偽りなく事実を告げようとする、真剣な眼差しがそこにはあった。

「しかし、真実かどうかは別だ。世界などという大規模なことについて話を聞いたことはないが、虚偽はしない代わりに真実がほとんどない会話など吐いて捨てるほどあった」

「たしかに、そう思われても仕方有りませんね。こちらとしても、まだ情報が完全に集め終わってから纏めた情報ではありません。アナタの言った通り、もしかしたら真実とは異なる場合があるでしょう」

「疑ってすまない。だが、これまで生き方をしていたものでな。性分、というものだろうか? 不安を取り除くために、少々過剰に考えてしまうことがあるのだ」

「同じ立場であれば、私がアナタを疑っていたかもしれません。それに、こんなにも唐突に出会った者の会話を信じろというのが問題でしたね」

 リュシルの現在の居場所では、人々による全面的な肯定がされやすいため、ついそのことを忘れてしまっていた。

(──それもこれも、全部あの人が悪いのかもしれません)

 自らの常識を歪めてしまった、非常識な少年のことを想い微笑むリュシル。
 すぐに意識を切り替えると、シュカに向けて話しかける。

「シュカさん、アナタはこれからどうするつもりですか?」

「どうする、とは……」

「リュナさんが目的だというのなら、すでに目的は達成したとも言えます。もう、ここに居る必要はないはずです」

「……そう、だったな。まさか、そうなることを予想していなかった」

 滅多にない例だった。
 買った奴隷を即座に解放し、その状態で新たな都市に住まわせようとすることなど。
 シュカは常識人であるため、非常識な者の考えなど理解できない。

「どうでしょうか? 私たちと共に、この迷宮を探索しませんか? リュナさんともいっしょに居られますし、特に何かをしてほしいという要求も出しません」

「……それで、大丈夫なのか?」

「はい。私の仲間は、とても強いので」

「そ、その……男性が、居るのか?」

 実はシュナ、男性が苦手であった。
 触れただけで拒否反応や嫌悪感を抱いているわけではなく、男性との接触が少なかったため緊張しているというのが理由である。

「いえいえ、男の方は居ません。今回の迷宮探索は、女性だけのパーティーで行う予定でしたので(……もし何かあったら、女の子メルさんとして出てきてもらいましょう)」

「そうか……そういうことであれば、こちらに異存はない。ぜひ、リュナと共に行動させてもらいたい」

「分かりました。パーティーメンバーにもそう伝えておきます。リュナさん、すみませんが少し連絡を取って来ますね」

「分かりました」

 リュシルは一度、二人から離れた場所で何やら頭に片手を添えて唸りだす。
 シュカは何をしているのか分からず、その旨をリュナに訊ねると──

「念話。てれぱしーと言うみたい」

 端的に、そう答えた。
 シュカはそれに苦笑し、友好的な笑みを浮かべて話を続ける。

「相変わらず、説明が下手だな。そのてれぱしーとやらは私にもできるのか?」

「そうか……使えれば、いつでもリュナと会話ができると思っていたのだがな」

「シュカが来れば、いつでもできる」

 来る、という単語が気になったシュカ。
 すると分かっていたのか、尋ねる前にリュナは説明を始めた。

「紅蓮都市。ウィー様が統べる場所」

「話には聞いていたが、まさかリュナがそこに居るとは……」

「同じときに、奴隷になっていた」

「そういうことだったのか……いや待て、奴隷になっていただと?」

 リュナの語った紅蓮都市の主──亡国の姫『ウィーゼル・フォナ・セッスランス』。
 彼女が奴隷に堕ちていたことと、先ほどまでの話がカチリと彼女の脳内で噛み合う。

「セッスランスの悲劇は私でも知っている。だが、どのようにして脱出を? 協力者でもいたのか?」

「違う。私たちは買われた、全員が一人の人に。だから、いっしょに居た。今回も、ここへの案内を頼まれた」

「頼まれた……誰にだ? リュシルさんにではないのか」

 そこまで訊ね、リュナの顔に陰りができていることに気づいたシュカ。

「言えない。隠してくれ、そう言われた」

「そうか……危険ではないんだな」

「うん。今は楽しい」

「ならいいんだ、奴隷になってどんな目に合わされているのかという悩みから、ようやく解放された」

 かつて出会った友人が、こうして今も楽しそうに尾を揺らしている。
 そのことが分かれば、これまでの自分の行いに悔いはないと思うシュカ。

「ところで、その方はどんな人……いや、優しい方なのか?」

「……優しすぎて、周りを傷つけてる。奴隷の誰にも奉仕をさせてくれなかった」

「…………はっ?」

 悔しそうにそう語るリュナに、ポカーンと口を開けてしまうシュカであった。

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