1,107 / 2,519
偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その02
しおりを挟む『準備は整ったようですね? それでは、行きましょうか──『赫炎の塔』へ!』
◆ □ ◆ □ ◆
その者は塔の螺旋階段にて、悩んでいた。
一階層内の扉はすべて開けた、だがそこに探し求めている人物の姿は無かったのだ。
また、そもそもとして人の存在を確認できなかった……魔物だけがその者の前に、姿を現していた。
では、次の階層を……と向かったその者は知った──上には向かえないと。
「結界……」
攻撃をしても破壊できない、鉄壁にして不可視の壁がそこには存在した。
持ち込んだ大弓と矢の全力を以ってしても破壊できず、その者は耳をふにゃりと垂らしてどうすればいいかを思考している。
「ヒントは無い。あるのは扉だけ……どうすれば、上に行ける?」
何度も何度も考えたものの、その答えは浮かんでこない。
仕方なく、先ほど巡ったはずの扉の中を潜りヒントが無いかを探していく。
しかし、何も見つからない。
通す気が無いのか、それともまた別の理由なのか……すべての扉が同じデザインなのはそのためなのか、そうその者は思いながら記憶を頼りに扉を開けていく。
「なんでっ……!」
怒りをぶつけるように壁を殴りつける。
鈍い痛みが走るが、その者は気にせず歯軋りして上を──居るであろう塔の主を睨む。
あれからどれだけ模索しようと、結界が上への道を開くことは無かった。
それこそが試練と言わんばかりに、侵入者の道を塞ぐ。
すでに二日が経過していた。
持ち込んだ食料も底を尽きかけており、その者の気力も少しずつ削られている。
魔物は居るが、食べられる魔物を用意しない辺り……塔の主の陰険さが溢れていた。
「リュナ、どこに居る……?」
塔を攻略したい、という冒険者のような考えをその者は持っていない。
ただ、逢いたい者が居るかもしれない場所に辿り着く……そのためだけにここにいた。
かつて出会い、絆を結んだ少女の名を告げ失いかけた意志を燃やす。
そして、再び結界を解く鍵を探す……そのはずだった
「ッ……!」
そうなるかもしれない、とは思っていた。
どれだけ可能性が低かろうと、決してゼロではない起きてしまった現実。
「侵入者が、来た……」
自分と同じ立場、塔を踏破し『賢者』との謁見を求める──本来の冒険者。
その者は大弓に矢を番え、いつでも戦えるように準備を整える。
入口から現れたのは二つの影だった。
共に外套のような物に身を包み、容姿を知ることはできない。
(けど、片方は普人じゃない)
外套の頭部が膨らんでいることから、その者は片方の影の種族を推測する。
それを踏まえたうえで、矢を二人組の間を通る射線で放つ。
『!』
「警告する。ここに何をしに来た」
そう告げると、片方の──普人ではないとその者が推測した方の影が動揺し、前に脚を踏みだそうとする。
二の矢を射ようとするが、もう一人の影が手でその動きを遮ったので番えた状態で二人の動きを窺う。
「話をしませんか?」
「……何者」
「まずは……姿を見せましょう」
動揺しなかった影がフードを頭から外す仕草をすると、これまでは陽炎のように揺れていた像がしっかりと定まっていく。
「魔族……」
「私はリュシル、研究者です。こちらの者と共にこの塔の主に会いに来ました」
魔族の中でも、その者に話しかける少女は魔人と呼ばれる種族であった。
容姿は普人とほぼ同じ。
肉体の老化速度は彼らよりも遅く、保有する魔力量は彼らの平均の何倍もある。
多様な系統に分けれる魔族だが、その特徴は体内に魔臓と呼ばれる器官を持っていることが普人と絶対的に異なる特徴だ。
その者がリュシルを魔族と見抜いたのは、膨大な魔力量が理由である。
普通の人族には、感じることのできないような魔力の圧力に、本能が正体を暴きだしたとも言えた。
その魔力を振るい、かつて他種族に戦争を吹っ掛けた存在──それこそが『魔王』であるとこの世界では伝えられている。
「主に……『賢者』にか?」
「はい。先行隊として先に来てみましたが、先客が居られるとは思っていませんでした」
「……上にはいけない、結界がある」
「貴重なご意見、ありがとうございます。ですが、こちらには彼女が居ますので」
リュシルはそう言って、もう一人の影に向けて視線を送った。
コクリと頷くと、影はその者を避けるようにある扉の前に向かうと──そこを三回叩いて開いてからすぐに閉める。
「…………」
その者が何をしているか理解できなかったものの、自分がこれまでやってこなかった行動を見て……もしかしたら、と思い始めた。
影はそうして、いくつかの扉の前に立つと同じ動作を繰り返していく。
合計七回、叩き終えた影はリュシルの傍に戻って再び佇む。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……だから、結界が」
「大丈夫ですよ。この方法を取ると、結界が解かれるそうなので」
「ほ、本当か!」
これで目的の人物に逢える、そう思い影に詰め寄り肩を掴む。
『!』
そして、互いに硬直する。
影は先ほどと同じ理由で動揺し、その者はあることに気づいたからだ。
その者は緊張からか嫌な汗が流す。
予想していなかった、まったく予期していなかったことが起きた。
そのことに動揺し、激しく頭部の耳が揺れ動いている。
「まさか、リュナ……なのか?」
「…………」
その問いに、声を上げずに答える──ゆっくりと外套を外し姿を晒すことで。
膨らんでいた頭部──そこには真っ赤な獅子の耳があった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる