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偽善者なしの捜索劇 十六月目
偽善者なしの赫炎の塔 その02
しおりを挟む『準備は整ったようですね? それでは、行きましょうか──『赫炎の塔』へ!』
◆ □ ◆ □ ◆
その者は塔の螺旋階段にて、悩んでいた。
一階層内の扉はすべて開けた、だがそこに探し求めている人物の姿は無かったのだ。
また、そもそもとして人の存在を確認できなかった……魔物だけがその者の前に、姿を現していた。
では、次の階層を……と向かったその者は知った──上には向かえないと。
「結界……」
攻撃をしても破壊できない、鉄壁にして不可視の壁がそこには存在した。
持ち込んだ大弓と矢の全力を以ってしても破壊できず、その者は耳をふにゃりと垂らしてどうすればいいかを思考している。
「ヒントは無い。あるのは扉だけ……どうすれば、上に行ける?」
何度も何度も考えたものの、その答えは浮かんでこない。
仕方なく、先ほど巡ったはずの扉の中を潜りヒントが無いかを探していく。
しかし、何も見つからない。
通す気が無いのか、それともまた別の理由なのか……すべての扉が同じデザインなのはそのためなのか、そうその者は思いながら記憶を頼りに扉を開けていく。
「なんでっ……!」
怒りをぶつけるように壁を殴りつける。
鈍い痛みが走るが、その者は気にせず歯軋りして上を──居るであろう塔の主を睨む。
あれからどれだけ模索しようと、結界が上への道を開くことは無かった。
それこそが試練と言わんばかりに、侵入者の道を塞ぐ。
すでに二日が経過していた。
持ち込んだ食料も底を尽きかけており、その者の気力も少しずつ削られている。
魔物は居るが、食べられる魔物を用意しない辺り……塔の主の陰険さが溢れていた。
「リュナ、どこに居る……?」
塔を攻略したい、という冒険者のような考えをその者は持っていない。
ただ、逢いたい者が居るかもしれない場所に辿り着く……そのためだけにここにいた。
かつて出会い、絆を結んだ少女の名を告げ失いかけた意志を燃やす。
そして、再び結界を解く鍵を探す……そのはずだった
「ッ……!」
そうなるかもしれない、とは思っていた。
どれだけ可能性が低かろうと、決してゼロではない起きてしまった現実。
「侵入者が、来た……」
自分と同じ立場、塔を踏破し『賢者』との謁見を求める──本来の冒険者。
その者は大弓に矢を番え、いつでも戦えるように準備を整える。
入口から現れたのは二つの影だった。
共に外套のような物に身を包み、容姿を知ることはできない。
(けど、片方は普人じゃない)
外套の頭部が膨らんでいることから、その者は片方の影の種族を推測する。
それを踏まえたうえで、矢を二人組の間を通る射線で放つ。
『!』
「警告する。ここに何をしに来た」
そう告げると、片方の──普人ではないとその者が推測した方の影が動揺し、前に脚を踏みだそうとする。
二の矢を射ようとするが、もう一人の影が手でその動きを遮ったので番えた状態で二人の動きを窺う。
「話をしませんか?」
「……何者」
「まずは……姿を見せましょう」
動揺しなかった影がフードを頭から外す仕草をすると、これまでは陽炎のように揺れていた像がしっかりと定まっていく。
「魔族……」
「私はリュシル、研究者です。こちらの者と共にこの塔の主に会いに来ました」
魔族の中でも、その者に話しかける少女は魔人と呼ばれる種族であった。
容姿は普人とほぼ同じ。
肉体の老化速度は彼らよりも遅く、保有する魔力量は彼らの平均の何倍もある。
多様な系統に分けれる魔族だが、その特徴は体内に魔臓と呼ばれる器官を持っていることが普人と絶対的に異なる特徴だ。
その者がリュシルを魔族と見抜いたのは、膨大な魔力量が理由である。
普通の人族には、感じることのできないような魔力の圧力に、本能が正体を暴きだしたとも言えた。
その魔力を振るい、かつて他種族に戦争を吹っ掛けた存在──それこそが『魔王』であるとこの世界では伝えられている。
「主に……『賢者』にか?」
「はい。先行隊として先に来てみましたが、先客が居られるとは思っていませんでした」
「……上にはいけない、結界がある」
「貴重なご意見、ありがとうございます。ですが、こちらには彼女が居ますので」
リュシルはそう言って、もう一人の影に向けて視線を送った。
コクリと頷くと、影はその者を避けるようにある扉の前に向かうと──そこを三回叩いて開いてからすぐに閉める。
「…………」
その者が何をしているか理解できなかったものの、自分がこれまでやってこなかった行動を見て……もしかしたら、と思い始めた。
影はそうして、いくつかの扉の前に立つと同じ動作を繰り返していく。
合計七回、叩き終えた影はリュシルの傍に戻って再び佇む。
「それじゃあ、行きましょうか」
「……だから、結界が」
「大丈夫ですよ。この方法を取ると、結界が解かれるそうなので」
「ほ、本当か!」
これで目的の人物に逢える、そう思い影に詰め寄り肩を掴む。
『!』
そして、互いに硬直する。
影は先ほどと同じ理由で動揺し、その者はあることに気づいたからだ。
その者は緊張からか嫌な汗が流す。
予想していなかった、まったく予期していなかったことが起きた。
そのことに動揺し、激しく頭部の耳が揺れ動いている。
「まさか、リュナ……なのか?」
「…………」
その問いに、声を上げずに答える──ゆっくりと外套を外し姿を晒すことで。
膨らんでいた頭部──そこには真っ赤な獅子の耳があった。
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