1,103 / 2,518
偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と精霊契約
しおりを挟む夢現空間 無の間
『けーやくしゃー!』
「……そいやっ!」
『むー、けーやくしゃー』
神霊という種族に進化したナース。
しかしその知性は変わらず、相変わらず俺に気づくと突進してくる。
なので、ヒラリと躱すのだが……最近は知恵を付けてきており──
『そいやー!』
「ぐぼぉっ!」
虚空エネルギーを即座に構築して反射板のように使うと、こちらへ跳ね返るような機動で勢いよく突っ込んできた──鳩尾に。
『だいじょーぶー?』
「あ、ああ……心配するぐらいなら、まずそうやって突っ込むのを止めろ」
『…………むりー!』
「がはっ。そ、そうか……」
意思を持たずに彷徨っていた下級精霊。
それが今の状態に至るまで、まだ一月ぐらいしか経っていない。
人間でいえば、まだ赤子も同然……そりゃあたしかに、仕方ないんだけどさ。
「ひ、“回復”……さて、ナースよ。今回貴様を招いたのには、理由がある」
『おー』
「そもそも貴様と契約した理由、それを覚えているか?」
『うーん…………わすれたー』
「……そうだろうと思った。故に、今から説明してやるのだ」
すでに契約は交わしている。
魔力の契約線を実体化して、俺とナースを繋ぐ糸を現す。
「俺とナース、それにユラルとドゥルは精霊契約を基にした主従契約を結んでいる。これにより、エネルギーの譲渡が可能だ」
『えねるぎー?』
「そうだ。たとえばユラルとの契約により、俺は樹属性の適性を高めた。これは、ユラルの司る力が樹属性のエネルギーを非常に濃密に秘めているからだ」
『おぉー!』
契約とはそういうものだ。
従える者たちから力を借り、自分もまたエネルギーの塊を提供する。
そうすることで、それぞれ個人ではできなかったことをできるようになるのだ。
「ドゥルの場合は少し特殊だな……本質が武具にある故、契約者である俺は武具に関する適性を得た。そしてナース、貴様の場合」
『わくわくー』
「虚空神霊である貴様だ、虚空に対する適性が得られるだけだぞ」
『がーん!』
神霊である分、その適性向上率もグンバツに高いんだけどな。
俺が望んでいた以上の契約効果に、思わず一人の時に驚いてしまうほどだ。
「だが、それは副次結果に過ぎぬ。貴様には先に挙げた契約の効果──エネルギー譲渡をしてもらう」
『じょーとー?』
「俺は貴様のように虚空魔法を上手く扱えない。それは分かっている。ならばどうすればいいか、貴様からその力を頂くのがもっとも効率が良いだろう」
『ふぉー』
普通の奴に──『自分で準備するのが面倒だから、全部用意した上で自分に寄越せ』と言ったら……血祭りに上げられるだろう。
だが、精霊の系譜に連なるたちは違う。
彼らは本質的に頼られたい、生きとし生きる者に自然の恵みをもたらす精霊たちは──自己犠牲の強い生き方をしているのだ。
「貴様が虚空エネルギーを操り、俺に回す。そうすることで俺は、必要に応じてただその力をどう使いたいか考えるだけでよくなる」
『んー?』
「要するに、俺は助かるということだ」
『おぉー!』
ナースもまた、そんな精霊としての生き方からは逸脱していない。
俺への忠誠心は無いと思うが、虚空エネルギーを使いたいという願望には忠実だ。
「……試してみるか?」
『うーん!』
「では、俺にエネルギーを流し込め」
『おっけー!』
誰かに習ったのであろうと返事の仕方をすると、瞬時に練り上げた虚空の力を俺に流し込んでくる──猛烈な勢いで。
「うがぁああアああぁァァァ──ッ!」
『け、けーやくしゃ!?』
「だ、大丈夫だ……すぐに慣れる」
内部の回路がズタボロになってしまう。
俺が扱える程度の虚空エネルギーであれば最大量まで流し込んでも、耐えられるように調整は行っていたつもりだ。
だが、ナースが注いできた量はその何十倍はあるかと思えるほどに、膨大かつ濃密な塊だった。
その結果、すぐに俺の肉体は限界を訴える間もなく一瞬で崩壊──痛覚無効のスキルがあろうと、魂魄の髄まで叩き込まれたその虚無の力に悲鳴を上げてしまったわけだ。
「ごほっ、ごほっ……」
『けーやくしゃー!』
「ナ、ナース……貴様に、問題は……無かった……気にするな──がはっ!」
『で、でもー!』
すぐ<物質再成>と<澄心体認>、<肉体支配>による適合を始める。
壊れた肉体は失敗するたびに元に戻し、虚空エネルギーへの理解を肉体に叩き込んだうえで新たに運用するための回路を作りだす。
また、(未知適応)と(再編構築)を行使して<久遠回路>に虚空エネルギーをより効率よく巡らせられるように改良を申請する。
そのデータは現在進行形で収集できる、ならば生き抜くために勝手に使われるだろう。
「お、俺は少し寝る……ナ、ナースはいい加減、人化の練習をしろ」
『す、するからー! だ、だからー!』
「そ、そうか……なら、あんし、んだ……」
間もなく意識がブラックアウトする。
その前に『堕落の寝具』を呼びだし、回復できる環境を整えておく。
おっと、もう時間切れのよう──
□ ◆ □ ◆ □
《ん。今回はそこまで時間がかからない》
《でも君~、いろいろとヤりすぎよ~》
《ん。望んだ通り、さっき以上の量が来ても耐えられるようになった。ナースが心配してたから、事情の説明もした》
《まったく~、女の子を泣かせちゃだめじゃないの~》
《ん。そろそろ目覚める──ナースに謝った方がいいと思う》
□ ◆ □ ◆ □
ぬくぬくする布団の中。
掌を動かしてみると、たしかな実感が感じられた。
また、内部を探ってみると肉体を巡る回路の一部が書き換えられているのが分かる。
「う、ん~……ん?」
「けー、やくしゃー……」
「……ナースか」
今回のことを経て──俺は虚空魔法を操るための回路を、ナースは人の体を得た。
だが、俺がナースの姿を見て可愛いと思っても、欲情することはまったくない。
「武具っ娘が特殊例なだけで、まあ……普通はこうなるよな」
ローペはこの事態を予想できただろうか?
永い時を経たユラルやそうあることを望まれたドゥルとは違い、ナースは生まれたばかりの赤子なのだ。
「……まあ、眷属への教育にもなるか」
今度から、眷属が保育の勉強をしだす気がして……また、その先に起き得るであろう未来を想い、気が重くなる俺だった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる