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偽善者と乞い求める日々 十六月目

偽善者と天才一年生

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 第四世界 迷宮学校


 時刻はお昼過ぎ、チャイムが鳴り響き子供たちがいっせいに下校する。
 その中に一人──所々に斑と思われない程度の黒色が混じった、燃え揺れる炎のような髪色をした少女が居た。


「あっ、おにーちゃんだ!」

「カグー、元気にしてたかー?」

「うん、みんな優しいよ!」


 迷宮学校は子供から大人まで、望むのであれば何歳からでも学ぶことができる。
 カグもまた、同年代の子供たちといっしょに学校へ通っている。

 村で平和に過ごしていた時期など、ほんの僅かな期間のみ。
 以降は深い穴の中で、一人ぼっちを強要されていたからな……初めの内は眷属たちで教育を行っていたが、ある程度の常識を学んだときから学校に行ってもらっていた。

 ……まあ、眷属たちはほぼすべてが天才中の天才たちの集まりだ。
 そのせいか、カグの頭脳が異常なことになりかけていたので、学校という知識的にも常識を学ばせようとしたのが真実である。


「しかし、いつ見ても似合ってるな……ピカピカの一年生って感じだ」

「本当!? わーい、おにーちゃんにほめてもらえた!」


 なに、この可愛い生き物!
 迷宮学校で指定している制服があり、それが入場証になっている。
 小学生の場合は、ワンピース型のデザインだな……服飾班、グッジョブ。

 カグが纏うそのワンピースは、動きに合わせてふりふりと揺れ動く。
 まさに妖精! 守りたくなるその可愛さ、お兄ちゃんはもう──大・満・足です!


「カグ、授業は楽しいか?」

「うん。おねーちゃんたちがいろんなことを教えてくれたから、ちゃんと分かるよ」

「そうか。……ち、ちなみに、誰の教えが一番役に立っているのかな?」

「うーん……リュシルおねーちゃんかな?」


 グホッ、血反吐を吐いて倒れ込む……とカグに心配されるので、<肉体支配>で完全に動作を押さえ込んで話を聞く。


「おねーちゃんは『かんぜんあんきじゅつ』と『イメージきおくじゅつ』をわたしに教えてくれたんだよ。そのお蔭で、授業はすぐに覚えられるんだ!」

「……そ、そうか……ちゃんとリュシルにありがとうって言うんだぞ」

「うん、いつも言っているよ!」


 リュシル、なんてものを教えたんだろう。
 子供用にスケールダウンした技術だとは思うが、それでもピカピカの一年生にさせるようなことじゃないだろうに。

 頼んで鑑定眼を使って視たら、たしかにスキルとして(完全暗記)と(映像記憶)をレベルMAXで習得していたよ。


「教科書を丸暗記して、もっと別のことを学ぶってこともできるな。カグ、飛び級試験は受けないのか?」


 見た目や年齢以上に、スキルさえあれば天才的頭脳を得られるこの世界だ。
 某米国メリケンのように飛び級制度を作り、必要に応じてその者に合ったレベルでの学習ができるようにしてある。

 ただし、一定期間学校に通うか特別講義を受けなければ卒業はできない。
 特別講義は本当に必要な情報──この世界と、俺のやってきた偽善行についてのお勉強とテストをやるぞ。


「うーん、みんなは受けた方がいいって言うけど……まだまだいろんなことを知りたいんだよ。おにーちゃん、なにかいい方法はないかなー?」

「こればかりはな……俺の特権で操作してもいいけど、カグは嫌だろう?」

「うん、できるだけ自分の力でどうにかしたいの。おにーちゃんたちに頼ることはできるけど、それじゃあつよくなれないもん!」


 知識だけであれば、カグはかなりの情報を学習している。
 俺も{夢現記憶}を使いたいがために、記憶はできるだけしているが……その時々に引っ張り出さないと使えないからな。


「なら、そうだな……カグがイイなら、特定の日に特別授業をやろうか。他にもやる気のある生徒を集めて、学年に関係なくちょっと難しい授業をやるんだ」

「どういう授業なの?」

「今までやらなかったことだし……魔術と魔法と魔導、この三つの実技とかかな?」

「面白そう!」


 目をキラキラと輝かせるカグ。
 まあ、他の眷属たちが半端ないレベルで魔法や魔術を使っているのを見ればな……。

 授業でも魔法を使っての実技はあるが、魔術はあまりやっていなかったし、魔導なんて知っている者の方が少ない。
 それらを特別授業で教える……意味は無いが、知識は必ず役に立つ。


「──まあ、まだ準備段階だけどな。先に理事長のサージュに許可を得ないとダメだが」

「おにーちゃん、お願い!」

「ああ、任せておけ!」


 今日という一日は、カグのための授業を用意するために使い潰された。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 ???


 夢とは違う無意識の中。
 記憶の欠片が集まった場所では無い──誰かの幻想が宿る世界。


「それで、まだ言わないのか?」

「何も条件を満たしていない、と言えば分かるか? 君は、まだアレを開いていない」


 造形はカグと同じ。
 だが、燃えるようなと比喩した髪は本当に燃え上がり、その色は彼女とコントラストが逆な少女。


「カカは固いな。もっと気楽に言ってくれれば、相手も分かるのに」

「そういう約定だ。それに、恨んでいない」

「そうなのか……邪神になったんだぞ?」

「神々同士で信者を取り合うことなど、ありふれた日常だ。信じる者が失われ、神髄が不活性になることも邪神に堕ちることも……すべては神としての性質が故の常識だ」


 カカは未だに、目的の敵対者……というか神が何者かを教えてくれない。
 扉を開けられたら、一部だけ教えてくれるようだが……なんだか決まりきった物語みたいで少し不満だ。


「まあ、今は真面目に解放を狙うか」

「……できるのであれば、君にはそのまま王道を進んでもらいたいものだ。だが、そうできない事情も知っている」

「まあ、仕方ないよな。そもそも今の眷属たちが、王道じゃ救えなかったんだ……今さら王道を進もうにも、それじゃあ守り抜くことができない」

「カグも、おそらくはそうだったんだろう。今の私は邪神だ、少しは妥協するべきだったのかもな」


 今さら反省しても遅い。
 神が自分の名において言ったこと、それはある意味絶対遵守となることがある。
 カカはそれをしたため、自縄自縛で情報の開示は条件を満たさなければできないのだ。


「以降は考えてやってくれよ」

「理解した。……時に、カグはどうだ?」

「ああ、同級生と仲良くしているぞ。今日は俺に、もっと勉強して眷属たちと同じくらい強くなりたいなんて言ってたな」

「そ、そうか……!」


 いっしょに育ったからか、カカはカグのことを親のように見守っていた。
 だが、封印された影響もあり、見届けられない時もある。

 そういうときは、俺がこうして遊びに来て何があったのかを教えているのだ。
 寝ている時にカグの記憶を見れるように交渉は澄ませたようだが、彼女の視点では分からないこともあるからな。


「そ、それでカグは……」

「ああ、だからこう言ってた──」


 朝が明けるまで、時間を遅めてもなおかかるほどの長話になることがいつものことだ。


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