1,097 / 2,518
偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と機動要塞 前篇
しおりを挟む第四世界 機動城塞
それは動いていた。
動くはずのない物が動き、あらゆる場所を駆け巡っていく。
それは城塞だった。
そびえ立つのは巨大な城壁、囲まれるようにして建てられているのは機械仕掛けの城。
侵入者を、入場者を拒むその高機動は、並大抵の者には突破できない。
そんな要塞の砦に立ち、隣に立つ太陽のように温かな髪を持つ少女と語らう。
「これがデスト□イヤーか……」
「何を仰っているので?」
「いや──アイリスが造ったここ、なんか凄いなって思ってさ」
「ふふっ、そうですね」
この迷宮は今言った通り、アイリスが前世でDMOにおいて使っていた迷宮だ。
イメージ的には『咆哮(英語)』を強化したような巨大な城だ。
俺と彼女──フィレル、そしてアイリスは現在そんな迷宮にやって来ていた。
レンとの視察において、ここともう一つにはまだ来ていなかったからである。
「まさかあの娘が、このような城を築いていたなんて……昔の城も、それなりに不思議な場所だとは思っていたけど、こっちはそれ以上に不思議な場所ですよね」
「ああ、空飛ぶ城だったんだっけ? その気になれば、あの城も今なら浮かび上がらせることもできるんだよな」
「いつか、お願いしますね」
アイリスはその昔、一定のルートでしか進めない空飛ぶ国家の移動制限を解除した。
自由に飛べるようになったその国は──何かする前に、神々の裁きを受けてしまう。
アイリスは自身の魂魄を保存していた。
電脳世界に自らの肉体ごと逃げることに成功し、裁きから脱することに成功する。
だが、その時間を稼いだフィレルは……その身を十字架に磔にされていた。
「……ああ、懐かしいな」
「どうされましたか?」
「いや、なんだかフィレルと初めて会ったときのことを思いだしてな……」
「~~~~!?」
彼女は吸血鬼と龍のハーフ。
永い時間封印され、十字架によって生き永らえさせられていた体と心は、吸血鬼としての本能を強く揺さぶっていた。
フィレルは吸血衝動に駆られると……いろいろと言動が荒くなる。
今はとてもお淑やかで、まるで深窓の令嬢のようだが……俺の場合、第一印象があっちだったからな。
「あ、あのときのことは忘れてください!」
「いや、俺は{夢現記憶}……あの頃はまだ、【完全記憶】だっけ? を持ってたし」
「うぅ……あの頃はいろいろと精神的に危うかったのです。旦那様がこういったお方とも知らず、あの娘がどうなったかもまだ分かっていませんでしたので」
俺のことはともかく、アイリスが知識の海に逃げるなどと理解できる者は少ない。
奥の手だったようで、そのことについて誰にも話していなかったため、そうした認識の差が彼女へ精神的なダメージを与えていた。
「まあ、なんにせよ二人とも今はいっしょに居られるわけだし、問題なしだな。忘れることはできないぞ、だってそういうことも含めて『フィレル=エルグーン』との邂逅なんだからな」
「……旦那様は『いぢわる』です」
「俺がそういう奴だって知ったんだろう?」
「そうでした……」
ガクッと肩を落とすフィレル。
なんだか『意地悪』のイントネーションに悪意が無かった気がするので、こういった返しにしておいた。
口元が綻んでいるので、きっとその選択は間違っていないだろう。
城塞は文字通りどこへでも進む。
陸はタイヤ、海はスクリュー、空はプロペラを回すことで移動ができるからだ。
そして、そんな機動兵器は現在広大な砂漠の中を前進していた。
──『孤剋の沙漠』、ボッ……ソロ活動に対する耐性が無ければ突破しがたいフィールド型の迷宮である。
だが、『機動城塞』には特別な権限が俺たち【迷宮主】によって与えられていた。
そのため乾いたこの大地を走ることができるし、そもそも他の迷宮に入れている。
「機動力と他の迷宮への強制干渉力に極振りした? 本当、何をどう考えたんだろうか」
「迷宮を動かし、どこへでも行けるようにするなんて……聞いたことがありません」
「中に人でも住んでいれば、というか国だったら不味かったな。幸い、コイツみたいな迷宮はまだ存在しないらしいし、コイツ自体も日の目を見させる前にここに封印できた」
「……というより、ここで再建したのは旦那様たちですけどね」
アイリスの迷宮について、彼女とカナタを加えて話していたことがあってな。
話の弾みで迷宮を一つ造ることになり、本物の迷宮核を使って造ることになった。
「いいじゃないか。アイリスはなんだか嬉しそうだったし、今もはしゃいで迷宮の管理をしているだろう?」
「そうですが……」
「いいじゃないか。やりたいことをやれる、それがどれだけいいことか……今のフィレルは理解できるんだろう?」
「……そうですね」
先ほど吸血本能の話をしたが、その際の力の強さもあってフィレルは少々力に酔っていたらしい。
気性が荒かった彼女は、アイリスとの接点から少しずつ今の性格になったんだとか。
父と母は吸血鬼と龍。
ただの未進化個体ではなく、神祖と呼ばれる神気すら操る吸血鬼と太陽の力を我が物にした古の龍……そうなるのも仕方がない。
「ですが、さすがにあれは……」
「まあ、うん。少しぐらい、楽しませてやる方がいいだろう」
「はい、そうします」
乗ったころにはまだあった太陽は、完全に沈み星々が空を飾っていた。
月が冷たい光を浴びせ、俺たち──いや、フィレルを美しく照らしていく。
「旦那様、月が綺麗ですね」
「……分かってていってるのか?」
「はい、もちろんです」
ペロリと唇を濡らし、俺の方を熱い眼差しで見つめてくる。
情欲、というかなんというか……月が出たことでその想いも高まったのかもしれない。
「頂いても、よろしいでしょうか?」
「いいぞ、もう準備はしてある」
「……では、いただきます」
綺麗な歯を俺に近づけ──鋭い犬歯を首元に突き立てた。
しばらく血を吸い上げ、悶え続け……数分が過ぎた頃に首元から離れる。
そして、彼女が見せた表情──それはとても妖艶で、月に照らされる姿はまさに吸血姫といった相貌であった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる