上 下
1,095 / 2,518
偽善者と乞い求める日々 十六月目

偽善者と趣味探し

しおりを挟む


 夢現空間 修練場


 思い返せば、後半の強者とは戦ってばっかりだった気がする。
 カナタが正攻法ではなく迷宮を用いた勝負だったとはいえ、リオン以外はずっと戦闘で解決していた……リオンにも殴られたけど。

 まあ、そんなこんなで死合デッドをやるわけだ。
 相手は黒髪黄眼のアオザイを着た女性……ただし、首元からチラリと髪と同じような漆黒色の鱗が見えている。


「其方……疲れておらんか?」

「いや、こうも連戦だとな。チャルとも何戦かやってたんだ」

「ふむ……昨日さくじつは使命のために外へ出ていたからな。すまぬ、知らなんだ」

「はははっ、気にしないでくれ。疲れてるのは精神だけで、肉体の方は健在だからさ」


 昨日同様逃げるサンドバックに徹し、シュリュとの戦闘を行っていた。
 そのときの動きを反省として活かし、本日はただ避けるだけでなく能動的な反撃もいっしょにやっている。

 能動的な反撃、と言われても分かりづらいと思うが……要するに、わざと攻撃を受けるような動きをして隙だらけの攻撃を誘発するということだ。

 だが、どうやらシュリュはそういった闘い方は好まないようで……。
 動きを止めると、戦意を消して俺の下へ近づき──そのまま抱え上げた。


「へっ?」

「望まぬ戦いはせずともよい。朕も、それに悩まされた」

「シュリュ……」

「ただ、朕は闘う以外の交流を知らぬ。故にこうしていた……だが、其方にまでそれを強要する気はない」


 なぜかお姫様抱っこをされている現状。
 いろいろと恥ずかしかったので──真っ先に変身魔法で妖女メルへ変身する。


「……女子おなごになるのか」

「……メルになる方が、ショタになるよりも多くなってきたからね。いや、少年版ショタも名前はメルだけどさ」

「そんなことはどうでもいい。それより、一つ知りたい」

「ん、何を?」


 修練場から離れるのか、出口に向かって進むシュリュ。
 腕の中に居る俺を覗き込みながら、何やらモジモジとしつつ訊ねてくる。


「……朕はどうすればよいのだ?」

「どうするって……何を?」

「いや、先も言った通り……覇道しか知らぬ故。劉帝として生きてきた朕に、男を知る機会など……」

「ああ、そういうことなんだ」


 メルに変身しているので、いちおう口調は女の子っぽく……別に肉体に精神が汚染されているわけじゃなく、ただの練習だ。
 そんな声を発し、シュリュの頭をよしよしと撫でる。

 初めは少しビックリしていたが、すぐに何がしたいのか理解して頭を下げた。


「こういう風にやればよいのか?」

「うーん……別にどうしろ、っていうことはないんだよ。今の私がこういう風に喋るのに理由が無いように、シュリュが私とどうしろという決まりはないの。自分がやられたら嬉しいこと、それを考えたらどうかな?」

「朕がか………………浮かばぬな」

「あはははっ。最初はいろんなことをやってみることが大切かな? 一つ一つやっていけば、何か自分にピッタリなことが見つかるんだよ。好きなのか嫌いなのか、感覚的なことが多いけど……まずはやってみるべきだね」


 自分で見つけた趣味というものは、何物にも代えがたい一生の楽しみとなる。
 たとえ体を動かすことであり、肉体が老いて行いづらくなろうと……本当の趣味であれば、見るだけでも好いと思えるだろう。


「それじゃあ、今日はシュリュの趣味でも探しにいこうよ! 夢現空間だけじゃなくて、いろんな場所に行ってみるんだ! きっと、何かいいものが見つかるよ」

「うむ、では頼む」

「うん、分かったよ。じゃあ、そろそろ私を降ろして──」

「それとこれとは別の話だ。其方を運ぶような機会は、そうないのだからな」


 満足げな表情を浮かべるシュリュを、こちらとしても邪魔するわけにもいかない。
 なのでできるだけ、周りにバレないような形状に変身する。


「むぅ……今度は人形か」

[ぬいぐるみだ。まあ、気にせずこれからを楽しもうじゃないか]

「……其方がいるだけでも、好しとしておくべきか」


 吹きだしのように表示された文面に、何やら不服な表情を浮かべて歩を進めた。
 ……何をすればいいんだろうか?


  ◆   □   ◆   □   ◆


 とりあえずいろんなことをやってみた。
 普通に戦闘したり、魔法を練習したり、研究を手伝ったり、本を読んだり……。
 世界を変えて歩いてみたり、過酷な環境に足を踏み入れてみたり、迷宮を踏破したり、本(映像再生機能付き)を読んだりと……。

 だが、どれもシュリュにはしっくりとこなかったようで首を傾げていた。
 ぬいぐるみとなって遠くから見ていたが、違和感を感じていたようだ。


 くーーー

「…………」

「もうそんな時間か」

「……すまない」

「いや、構わないから。生理現象はどうしようもないんだから」


 淡い光と共に変身が解除され、俺の肉体はいつも通りのモブ容姿となる。
 お腹を鳴らす眷属シュリュのため、すぐにできたての料理を提供しようと動きだす。


「……料理か」

「ああ、そういえばやってなかったな。よければいっしょに試してみるか?」

「い、いいのか?」

「包丁は使えるだろう? まずはやってみることが大切だ。……ここでやるのが初体験でいいならだが」


 現在位置は迷宮『死戦の大地』。
 入口から出口まで、一定数に達するまで無限に魔物が生みだされる戦闘狂が好んでやってくる蠱毒のような場所だ。

 来た理由は省くとして、俺たちは結界の中で籠城をしていた。
 そんな中、取りだしたキッチンセットで料理を始めるのだから訊かざるを得ない。


「構わぬ。それより、ぜひやってみたい」

「そっか。なら──これに着替えてくれ」

「これは……エプロンか?」

「『新米料理人セット』。これを着ておくことで、料理スキルの習熟度が上がる。それに補正も入るから、初めの内は大人しく着ておいた方がいい」


 なお、レベルが上がればさらに上位の装備が着れるようになる。
 最終的には『神業料理人セット』になるんだが、これは俺とあと一人しかまだ着れる者がいないのでカットしておく。



 そんなこんなで料理が始まる。
 初めは包丁が指に当たるなどのトラブルがあったものの、この世界には魔力があり気の操作が普通なので当たり前のように弾いて無効化していた。

 それ以外の問題は特に無く、料理もそれなりの出来の品が完成する。


「ん……美味いな。初めて作ったとは思えない味だ……って、どうしたシュリュ?」

「其方の腕には遠く及ばぬ。この味には、圧倒的な差があるな」

「けど、それが面白いだろう? 到達する場所があって、目指すべき対象がいる……それは凄く恵まれている。──楽しいか?」

「! ……楽しい、な」


 料理は愛情、とはどこで聞いた言葉だっただろうか?
 まあそれだけとは言わないし、愛情は時に憎しみに変わることもあるなどと言ってはいけないことを言う気もない。

 ただ、シュリュは料理を楽しんでいた。
 植物を育てるような、命を育むことではない──命に責任を取る、シュリュはそのことにナニカを掴んだようだ。


「また、作ろうな」

「うむ、ぜひとも」


 一度目を使命に生き、二度目に意味を見出さずに逝き、三度目を歩むシュリュ。
 彼女がこの三度目の人生を、どうか好いものだと思えることを祈ろう。


「そういえば、故郷のことだが」

「これまでの眷属の話は聞いている。だが、朕は特に構わぬ。すでに死んだ身、今のことは今を生きる者に委ねるのが筋であろう」

「……そうか」

「其方にもいずれ分かる。何を選ぶのか……朕は其方たちを選んだだけのこと。今は料理に専念することにしよう」


 劉の帝王は料理に目覚めた。
 いずれ厨房に、彼女の料理が出される日もそう遠くはないかもな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...