1,085 / 2,519
偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と鏡の湖
しおりを挟むリーン
「…………」
「…………」
翌日、フーリを迎えに行った俺だが……当然そこには、フーラも居るわけで。
「……どうしたの?」
「な、なんでもないぞ!」
「そ、そう! フーリ、別に何もなかったんだからね!」
「……何も言ってない」
俺の精神は常に一定を維持しているはずだが、フーラに釣られて動揺してしまう。
というか、他者と感情を共有できる能力もあるからな……勝手に発動しているのかもしれない。
「そ、それよりもだ、フーリ。今日はどこに行きたいんだ?」
「……お姉ちゃんと同じ場所」
「そうなると、森に行くことになるが……本当にいいのか?」
「フーリ、メルス様ならどこでも連れていってくれるわよ。私のことは気にしないで、行きたい場所に行ったらどう?」
お姉ちゃん(妹)至上主義……というか、若干のシスコン疑惑があるこの姉妹。
フーラはフーリの方が優れていると思っているし、フーリはフーラの方が優秀だと感じている──どっちも凄いんだけどさ。
まあ、姉である分フーラの方がいろいろと考えることが多いのだが……妹であるフーリは姉よりも少し執着した考えをしている。
彼女たちの身に起きた、奴隷云々の問題などもあって少し変化はあったらしいが──根本的な面は変わらない。
「……分かった。メルス様に任せる」
「おっと、俺に飛んできた」
「メルス様……お願いします」
「ん? ああ、フーリに最高だったと言わせれるような一日にしてやるよ」
姉離れ云々とかヤバい精神状態……というわけでもない、ただ姉が好きなだけだ。
ついでに言えば、【英雄】という面白い運命を用意した俺にも感謝してくれている。
そう感じてくれているお礼を、今回はする予定だ。
主張は変わらなかったので、とりあえず森に移動した。
ただし、フーラが居た木々の隙間から日射しが射し込むような場所ではなく、少々開けた空間にだ。
「……湖?」
「来たことはあるだろ?」
「……お姉ちゃんと、他のみんなといっしょに遊びに来た」
「まあな。そういう風に使ってほしい、俺も最初から考えて用意した場所だし」
なんとなくピクニックにピッタリな場所をイメージしてもらいたい。
綺麗な湖は空の景色を鏡映しに投影し、中で泳ぐ魚たちは空を泳いでいるようにも思えるのどかな空間。
魔物や愚物(知性皆無な魔物)が入ってこないように結界を構築してあるので、小さな子供だけでも遊べるようなスポットである。
「……なんでここ?」
「ふっふっふ、俺がただ子供が遊べるような場所にするためだけにこういう場所を用意したと思うか?」
「……釣り?」
「あっ、うん。それもそうなんだが……他にも仕掛けが用意されているんだよ」
ちなみに、<複製魔法>で用意したレアで美味しい魚がここでは泳いでいる。
釣りでしか釣れないようにプログラムしてあるので、反則はできないぞ。
「実は、偉い人の一部が知っているんだが、もしものときのための避難通路が、この世界にはいくつか用意されているんだ」
「! ……気になる」
「そうだろう? フーリは【英雄】だし、もしかしたらここを使うかもしれない……そんな必要は無い方がいいが、せっかくだからここを案内してやろう」
「……お願いします」
避難通路に行くためには、特別なアイテムが必要となる。
眷属の場合は、それを必要とせず鍵を開くこともできるのだが……正攻法を教えておくのもいいだろう。
「まずはこれ──『鏡の雫』。これをこの湖に垂らす」
「……変わらない?」
「すると、ここが一時的に異空間へと繋がる道になる。……下を見てみろよ」
「……変わらない」
まあ、そうだろうな。
見られてバレるようでは、避難場所として使えない。
一瞬でフーリをお姫様抱っこして、そのまま湖を覗き込む。
「それじゃあ、ちょいと失礼」
「! ……恥ずかしい」
「今は俺とフーリの二人っきりだ。それじゃあ、行ってみるぞ」
「……えっ?」
フーリのキョトンとした表情を無視して、そのまま湖の中へ飛び込む。
すると驚きで目をギョッとさせるが……今度は別の意味で驚くことになる。
「なに、ここ……」
「鏡の世界ってやつだな。リーンの世界を反転させた場所をここに構築してある……細かい説明はできないが、知りたいなら図書室に資料が飾ってあるぞ」
「……見にいく」
うん、劇場版ドラ◯もんとしてな。
あれでやっていた、鏡の世界を再現してみた特殊な世界だ。
一部の場所には常時干渉可能で、連絡手段や先も挙げた通り避難通路として使える。
「ああ、人は居ないぞ。この世界には今、俺とフーリしかいない……面白いか?」
「……面白い」
フーリならそう言ってくれると思った。
誰も居ない場所、静かな空間……姉が居ない場合、彼女はそういった場所を好む。
「なあ、フーリ。何か、やってみたいことはあるか?」
「……お姉ちゃんの手伝い」
「うん、それは大いに結構なんだが……個人としてやりたいことはないのか?」
「……無い」
フーリには具体的な目標が無い。
姉のためになりたい、そう願うのは構わないが……それ以上に、何か抱いてもらいたいと考えている。
「俺もさ、具体的な夢なんて無かったんだ。偽善者をやりたいな~って思って、けどどうすればいいか分からなくて……いつの間にかこの歳になっていた」
「…………」
「こっちに来て、いろんなことをして、いつの間にか王様になっていた。けど、具体的な夢は無かった。お前たち眷属を、幸せにすることは決めているんだが……俺自身が、どうなりたいかがな……」
「……メルス様は、幸せじゃないの?」
首を横に傾げ、そう尋ねてくる。
「幸せ、なんだろうな。みんなといっしょに居られて、その時間が誰にも奪われない。守りたい国民が居て、笑ってくれている……これが幸せなんだろうな。うん、あの頃よりも楽しく生きていられる」
「……メルス、様?」
「おっと、急にどうした?」
「……分からない。けど、なんとなく」
突然、俺を屈ませると──頭をポンポンと優しく叩いてから撫で始めるフーリ。
なんとなく、その目には母性的な何かがある気がするんだが……大丈夫だよな?
「……なんとなく、やりたいことが分かった気がする」
「なんでこのタイミングか分からないが……まあ、おめでとう」
「……お姉ちゃんとも相談したい」
「それはもう少し後でな。とりあえず、この世界に来た目的を果たさないと」
忘れてた、と本気で言うフーリ。
面白いって言ってくれたはずなんだが……少々落ち込む俺であった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる