1,081 / 2,518
偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と迷宮視察 後篇
しおりを挟むいくつもの迷宮を巡っていった。
偽善の過程で拾い上げ、迷宮に住まわせたモノが守る場所がいくつか存在する。
そこに行くたび、俺はなぜか深い感謝をされてしまう。
レンはただ、そんな俺と守護者たちのやり取りを見て微笑んでいた。
もしかしたら、彼らの逢いたいという気持ちを代弁していたのかもしれない。
実際に訊いてみたら、半分はそうだと言われてしまう……はぐらかされると思っていただけに、そのときは唖然としてしまった。
すぐに表情を取り繕ったのだが、それが受けたのか逆に笑われてしまう。
「なあ、レン」
「どうかされましたか、主様?」
「結局、会う奴全員がハナのことを気にしているんだが……大丈夫なのか?」
「ええ、心配はございません」
すでに俺たちはここ──『凶楽の花園』へ足を踏み入れていた。
色鮮やかな花々が咲き乱れ、入場した俺たちをその色と香りで迎え入れてくれる。
「ハナは侵入者……それもここのルールを守らない者には辛辣です。しかし、仲間や厳格な者と認めた相手には、礼儀を以って対応します。もちろん、主様にはそれ以上の想いを籠めて接しておりますよ」
「それ以上って……」
「本性を知った者の中には、あまり好ましくないと考える者もいるかもしれません……ですが、私たち迷宮の属する者や眷属の中にはハナの態度を不遜だと考える者は居ません」
「なんでだ?」
可愛いからです、とレンは答えた。
まあ、たしかにハナは可愛い……だからこそ、いろいろと気になってしまう。
「とりあえず、会えば分かるか」
「左様にございますね」
うだうだ言っていてもしょうがない。
何よりここの守護者であるハナには、この迷宮内に限り超高性能な索敵機能があるのですぐに気づかれる──今までは、相談もあったのでそれなりの力で隠れていた。
それを解除した途端、花々が揺れ動く。
漂っていた甘い香りは、より濃密で嗅ぎ心地のよいものへ。
地面が引き伸ばされるように増えると、そこに巨大な種が出現する。
フィルムの早回しのように成長してくその種は、やがて蕾となって花を開く。
そして、その中には一人の少女が──
「ようこそいらっしゃいました、わが君。そしてレン様」
深い緑を連想させる髪色、妖しく輝く紫色の瞳──色鮮やかに花を飾ったドレスを身に纏い、背中からは半透明な花々でできた妖精の翼を生やしている。
背丈は120ほどしかないが、足から生えた巨大な花々が踏み場となり、身長を補い俺と顔を合わせていた。
「悪いな、視察で全迷宮を巡っている所だ」
「わが君は悪くなどございません。どうか、この迷宮でお二人の素敵な時間を過ごしていただければ幸いです」
「ハナ、感謝します」
レンと共に感謝を伝え、花園の中を歩いて回る……価値がありすぎて絶滅してしまった貴重な花など、レアすぎる植物の数々が俺たちを迎え入れてくれる。
それといっておかしな様子はないんだが、あくまで俺が居る時の対応の仕方だ。
毒などいっさい存在しない、ピュア度マックスなハナ状態である。
「探らなくてもいいか」
「主様がそれでもよいのであれば、私にも暴こうとする気概はありません」
「そういう毒のある部分も含めて、可愛いのがハナの好いところだからな。綺麗な花には棘があるっていうし、少しぐらいのエッセンスは必要だよな?」
「花ではなく、薔薇ですよ。正しくは──美しい花、でございます」
いずれにせよ、ハナに悪気はない。
あくまで素の接し方が、少々人とは違っているだけなんだ。
◆ □ ◆ □ ◆
千尋山
未だに解放されていない、究極難易度を誇る(予定の)迷宮。
誰もいない場所、リョクと向かった天空の城以上に人が近づかない聖域。
仕様の問題で、眷属であろうと裏技を用いてショートカットすることはできない。
彼女たちにはテストケースとして、能力をセーブした状態で挑んでもらっているが……それでもなお、踏破はまだされてないのだ。
「そして、俺とレンだけが入れる……ある意味特別なデートスポットだな」
「何もありませんね」
「そりゃあ、誰も来ないからモチベーションがな。だから、今はこれで勘弁してくれ」
指を鳴らして、<箱庭造り>を行使する。
大地が揺れ動き、文字通り真っ新な世界に鮮やかな色が生まれていく。
「あとは……こうだな」
「まるで神のようですね。いえ、今の主様は神でもありましたね」
「ただの無職だよ、俺は」
沈みゆくが青い空を橙色に染め上げ、太陽が無かったつい先ほどまでとは違った光景をレンに見せる。
「けど、満足はさせられる……と思う。レンは俺に、何を求める?」
「迷宮核である私は、迷宮の繁栄と存続を願うべきなのでしょう。少し前まで、たしかにそれが一番の願いでした」
「今は……違うのか」
「そうですね。宿していなかった人格を与えられ、感情を頂き、肉体を……そして、このような物まで」
呪いのような強制力で、左手の薬指に嵌められた俺特製の指輪。
プロポーズのような恥ずかしいやり取りを経て、それは彼女の指に収まった。
「迷宮ではなく、主様とその周辺の者たちがよりよい未来を得られることを……。人形である私が、想うようになった願いです」
「レンが望むのであれば、仰せのままに。願う限り、繁栄と存続を続けようじゃないか」
誓いの証を示しておこう。
沈みかけの夕日がシルエットとなり、俺たち二人が重なり合う姿を映しだした。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる