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偽善者と乞い求める日々 十六月目

偽善者と小さな暗殺者

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 ラントス 天魔の迷宮


 久しぶりにやってきたそこは、相も変わらず大盛況だった。
 奴隷の身分で連れてこられた者たちは、一獲千金の夢を見て迷宮の攻略を果たそうとしている……踏破できれば解放だしな。


「ふむふむ、盛り上がるのはイイことだ」


 また、一部の迷宮は『ユニーク』の幹部クラスでも遊べるようにしている……契約書モドキを書かせて、掲示板での情報開示はいっさいできないようにしてあるが。

 あくまでうわさ話、眉唾物の伝説として彼らには情報を流布させている。
 完全に封じると、逆に何か方法が無いかと模索するだろう──なら、最初から狭くてもやれると思わせといた方が楽だしな。


「そういえば、ナックルから前にリストを渡されたな……そのままレンに回したから、全然覚えてないけど」


 幹部クラスとして、彼の推薦者が迷宮に来ていいか確認してきた書類だったはず。
 レンがOKだと言ったので、俺もそのまま了承したはず……面白いのもいるかな?


「条件は差別しないことだけだし、それなりの友好が築けているはず……魔物との平和の懸け橋になってもらいたい」


 プレイヤーが俺の視界に居るかは不明だ。
 だが、人族と魔物が協力して迷宮魔物ダンジョンモンスターを討伐している様子を見ることができた。

 プレイヤーが魔物を悪と感じる考え方は、根深く染み付いているが根気よく直そうと思えばいずれ変えられる。
 少なくとも、俺の世界に悪い魔物は居ないと分かってもらいたい。





 元でも迷宮の主なので、空から反則ギリギリの移動行っても制裁は訪れない。
 本来であれば、魔物と愉快な仕掛けが空を飛ぶ者に降り注ぐのだが……そんなこともなく、洞窟に辿り着く。


「パパー!」

「ミントー!」


 途端、洞窟の奥から光速で飛びだしてくる極小の影。
 それはこちらへ近づくほど、物理的に大きくなって──最後には一メートルほどの大きさとなる。

 名前を呼んだ通り、彼女はミント──天魔迷宮の第一層守護者だ。


「おー、大きくなったなーミント! 今は仕事中だったか?」

「ううん、パパが来たから倒してきた!」

「そうかそうか! なんだか照れるな……」


 もともと『極小虫ミニマムインセクト』という種族なうえ、今では(縮小化)というスキルまで持つミントには、そう簡単に攻撃を当てられない。
 範囲攻撃でどうにかしようにも、光速で動けるように成長したのですぐに避ける。

 そして、油断した相手を──暗殺だ。


 だが俺や眷属、国民たちにとっては可愛い娘であり、国民たちにとっては愛すべきマスコットとのような存在でもある。
 成長を見守ってきた、という点においてはみんなが同じ想いを抱いていたからな。


「けど、パパ……どうしてここに?」

「そうだな……ミントに逢いたかったんだ、そう言ったらどうする?」

「すごく嬉しい!」

「そうかっ、俺も嬉しいぞ!」


 親バカ全開? なんとでも言え。
 俺という負の遺伝子を継がない我が子……これを愛せざるして、何が父親だ!
 恥も外聞もない、というか眷属が居ようと神が居ようと俺はミントを愛でる!!


 閑話休題しばらくおまちください


 ふぅ、ようやく落ち着いた。
 ミントと会うときは、いつも同じようなことをしている気がする……が、誰も不幸にならない素晴らしいやり取りだ。

 俺の周りを蝶のように舞い、いろいろなことを話してくれる。
 ただその一つ一つに耳を澄まし、嬉しそうなミントに相槌を打っていく。

 これが来たときに行う二つ目のやり取り。
 時折外に行っているとはいえ、長時間迷宮の中に閉じ込めている少女の細やかな思い出話には、純粋に応えてやりたいと思う。


「あのねあのね、最近はわたしに攻撃を当てる人が増えたんだよ!」

「ほ、本当か!? な、ならすぐに対策を用意しないと……」

「もう、大丈夫だよ。当たっても、ダメージは無かったからね」

「そ、そうか……大丈夫、なんだな?」


 愛しい娘とも呼べるミントに攻撃を……もしその瞬間を見ていたのなら、全眷属から強制的に力を集めて本気を出すだろう。
 もちろん、眷属も分かってくれるはずだからな──制裁は、しなければならないと。


「うん! その人たちも、当たったって気づかないで還って・・・いったよ!」

「……まあ、それならいいか」

「わたしはパパの娘だもん!」

「そうか、そうだよな!」


 さすがは俺の娘だ!
 還るという言葉に違和感を覚えるヤツ、決まった場所に帰還するんだからどういう意味かは分かるだろう。

 範囲攻撃が偶然当たった、ということなんだろうが……それでもミントに当たられたということは凄い。
 能力値で言うなら、敏捷力と器用さを眷属基準で特化しているミントに当てたんだし。


「そんなミントには……ご褒美だな」

「えっ、本当!?」

「ミントはおねだりをしてくれないからな。そんな君には──こんなものはどうかな?」


 ここは食べ物をプレゼントしてもいいが、このような話を受けてもまだそれだけにするほど、俺は抜けているわけじゃない。


「うわー、新しい装備だー!」

「用意はしていたんだぞ。これは、ミント用の新しい装備──『綾隹姫アヤトリヒメ』だ」

「アヤトリヒメ?」


 まあ、細かい話は実戦でやってみようか。


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