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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者とリーン視察
しおりを挟むそんなこんなで翌日。
俺は王城の前でボーっと立っていた。
変身などはせず、『寵愛礼装』に身を包んだ通常モードで彼女が現れるのを待つ。
「わ、我が主……」
「おう、似合ってるなリョク」
「そ、そうだろうか……」
「ああ、リョクらしい格好だ」
ドレス系のフリフリが付いた物ではない。
ビッシリと決まった、男装系のスーツ姿でリョクはやって来た。
……服の一部が強調されており、ボタンが外れそうな感じがなんとも言えない。
「さて、これからデー……視察に向かうわけだが、やるべきことが一つある」
「な、なんでしょうか?」
「ここに居る者を──撒くことだ!」
『あーっ!』
そりゃあ、この国の王様(モドキ)と王様(代理)が居る状況だ。
地球に当て嵌めたら、間違いなく警備員を呼んでの大騒動となるだろう。
先ほどまでは、あの手この手でこの場に居る者たちを捌いていたが……もうそれをやる必要もなくなったな。
なので、リョクの手をそっと掴んで空を翔けていく。
掴んだ手をふわりと動かし、自然とお姫様抱っこに切り替えるのがいいらしい……女体化しているので、全然重くないしな。
「~~~~~~~ッ!」
「喜んでくれているようで何よりだ。最初の視察場所までは、このままで行ってみよう」
「ここ、このままですか!?」
「嫌なら言ってくれよ。それまでは、ずっとこうする予定だからさ」
プシューと湯気立つリョクの真っ赤な顔。
普段は真面目な王様(代理)として表に出ているのだが、元がそのような性格のため、素の感情を出しているときはかなり可愛い。
結局、目的地に着くまでリョクが抱っこを振り解くようなことは無かった。
視察と言っても、本当に巡るだけだ。
警備員というか壁役は必要なく、そもそも俺たちを害そうとする存在がない。
視察が始まる前ということで人々は集まっていたが、いざ始めれば邪魔はしないのだ。
区画分けされた街々を歩き回り、そこに過ごす人々から近況を尋ねる。
ごくありふれた日常を、リョクといっしょに見ていった。
「だいぶ回ってきたな……この街も、かなり発展してきた」
「すべては我が主によるもの。何もできずにいたワレらを、導いてくださった。そうでなければ……ワレらは祈念者たちに、殺されていたでしょう」
「俺も、そうなんだけどな」
「わ、我が主は特別です! 殺すだけで済んだこの命を、従えるだけでよかった弱者をこのように育てていただけました。そして、同朋たちも救ってもらい……この恩は、どれだけ奉公してもし尽くしきれません」
必死の表情でそう語りかけてくる。
俺としては、偽善がしたかっただけだと何度も言っているんだが……リョクたちなりの受け止め方があるので、そういった細かいことは気にしない。
ただ、俺の前に立って眼前まで迫ってくるのは少々いけない……いろいろと強調されるというか、弾むというか……一言で言って、最高です。
「最初は魔子鬼たちの王だったリョクが、今では鬼人の王であり勇者だ……ずいぶんと成長したよ」
「我が主への忠誠があればこそ、なせたことでございます」
「おまけに今じゃ、こんなに可愛くなって。イケメンだったリョクが、こうなるとは思ってもいなかったな……」
「そ、その節は……その、申し訳ないです」
初めて今の状態のリョクと逢ったときは、いろいろと残念だったからな……まあ、その理由を聞いて罪悪感は湧いたが。
「さて、視察は終わった──最後にあそこへ行こうか」
「?」
「絶景を見ようぜ」
◆ □ ◆ □ ◆
魔法陣による移動手段が確立されている俺の世界だが、人が多い場所では空間魔法が使えない仕様となっている。
魔法同士の干渉を防ぎ、魔法陣での事故を防ぐためだ。
ただ一つ、人の有無に関係なく眷属以外の転位が禁止されている場所──それが、俺の城がある天空フィールドだ。
「まだ、自力では来れなかったのは分かる。ただ、それでも見せたかったんだ……この景色をさ」
「…………」
「俺が、そしてお前たちが築き上げたリーンという国。さらに、第一世界そのものを見ることができるのはここだけだ。まあ、いつかは迷宮を越えて来てくれよ」
「……素晴らしいですね」
造ってから、こだわった場所の一つだ。
今も夕日が沈み、空に星が輝き始める様子が絵画のようなワンシーンとなっている。
「視さ……いいか、デートのクライマックスにはピッタリの場所だろ?」
「はい。とても、素敵な場所です。いずれは己の力で、辿り着いてみせます」
「ハハッ、頑張ってくれよ。そのときは、お菓子とジュースでも持って待っててやるよ、そこでお茶会でもしよう」
夕日は完全に沈んだ。
太陽の光が失われ、街並みを灯りが照らしていく。
代わりに現れた月は、俺たちを冷たい輝きで包みだす……綺麗ですね、とは言わない。
「我が主……」
「リョク……」
そんな言葉を交わす必要もなかった。
ただ瞳を交差させる、それだけで互いがこの後何を求めているか分かっている。
星々と月だけが、俺たちの目撃者。
そんなロマンチックな状況に少々酔いながら、紫色の瞳を輝かせて真夜中のデートを始めるのだった。
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