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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と将報告
しおりを挟むリーン
一部を防衛システムの中に組み込んだ結果だが、リーンには迷宮となっている部分が存在する──王城である。
ファンタジー系の創作物では王道だが、王家に隠された秘宝……的なノリだ。
そんな王城に乗り込み、玉座に座っているのが現状である……もちろん、リョクがくんかくんかという異常事態にはなっていない。
「あのさぁ、リョク。毎回毎回、これをやる必要ってあるのか?」
「ございます。ワレらはこの儀式を経て、我が主へのより深き忠誠を誓うのです」
「……そうなの」
そんなやる気に溢れたリョクは、俺の隣でビシッと立っている。
複数形だったことから分かるように──この場には俺たち以外にも、仕事を与えていた者たちが眼下でポーズを取っていた。
「あー、えっと……ごほんっ。では、リーンの政を司る者たちよ、この一月に起きた事柄について述べよ」
『ハッ!』
主に普人と鬼人で構成された、この国のお偉い様がたである。
ただ、先月と視界に入る者たちが異なっている場合が多い。
「まずは、防衛将──面を上げろ」
「ハッ!」
顔を上げたのは、彼らの中でも武具や鎧を身に纏っている者だ。
……王の前などと云々を言えばアウトな恰好だが、面白いので全員とある装備以外はすべて自由であることを許可している。
そんな指定されているマント──眷属印が刺繍されているもの──を羽織った鬼人の男は、傅いたまま報告を始めた。
「名前は……そうだ、『シロキ』だな。この地位に就いたのか」
「ハッ! メルス様のご尊顔を拝見すべく、鍛錬を怠らず磨き上げてきました!」
「おめでとう。先代の『ライハ』や同僚たちと共に、この世界を守護してくれ」
「は、拝聴しました!」
それっぽいことを言っているが……これで好いんだろうか?
まあ、隣をチラッと見たらリョクが頷いているから大丈夫だとは思う。
「では、報告を始めてくれ」
「ハッ!」
防衛将とは、日本でいう『防衛省』と似たことをやっている代表者……のつもりだ。
あくまで俺のイメージを、こちらでやるべきことに合わせて変えているので、モドキという感じがする。
警察という機関が無いので、そういったことも含めて世界の内外を守るのが仕事だ。
戦闘意欲のある者たちは『防衛軍』に所属し、互いを高め合う……大規模レイド対策から女子供の護身術まで、レベルがあるがな。
「──こ、このように、アン様にご協力していただき、異形との戦いに関する体験を行いました!」
「被害はどうだった?」
「軽傷が一割ほど、重傷と死傷はおりませんでした」
「そうか……軽傷の者たちには、その原因を理解させろ。そうでない者でも、なぜ軽傷者が生まれたのかを考えさせるんだ。俺の能力にあるが、接触しただけで他者を洗脳させる力がある……可能性は徹底的に潰せ」
状態異常に対する用意は、できるだけしているつもりだ……だが、『疫魔病殿』が生みだす状態異常のように、ほぼ解除不可能な呪いが存在する。
もっとも安全な状況とは、安全でなくなる原因をすべて取り除くことだ。
それができないのだから、できるだけそうなるように尽力するしかない。
だからこそ、世界を守ろうとする者たちにはそれを強要する……誰も、仲間の死なんて見たくはないのだから。
その後も、報告は続く。
将の名前だけ挙げるならば──『生産』、『外商』、『生保』。
そして──
「『庶務将』はまたリルだな。やれやれ、代わってほしいとは思わないが、もう少し人員の補充をした方がいいかもしれないな」
「い、いえ……大丈夫です。それに、前回も充分な人員を頂けたので。何より……この座は誰にも渡しません」
「そうか……期待している、頑張ってくれ」
「は、はい!」
アーチさんの娘でもある、半森人のリル。
彼女は一度働かせて以降、ずっとこの座を得て維持し続けている。
……アーチさんは少々感じるところがあるらしいが、奥さんの説得で何もしてこない。
そんなリルが居る『庶務省』だが、言葉の通り庶務──つまり事務系の仕事を一挙に引き受ける場所だ。
書類処理や備蓄の用意などもあるが、人材派遣を主に担当していた。
基本的に、俺にリーン送りと判定された奴隷たちの最初の仕事場を決めている。
前に送った欺瞞感知スキルを持つ少女も、今ではリルに心を許しているらしい。
「庶務省は異常ありません。各省との連携も順調、滞りなく派遣できております」
「うむ、大義である」
「ありがとうございます。ですが、一つだけご相談がありまして……」
「珍しいな……ああ、言ってみてくれ」
基本、優秀なリルによって問題なく管理されているはずなんだが……何かあったのか?
「はい。その、最近のメルス様は忙しいことは充分承知の上ですが……住民たちの中で、かつてのようなイベントを望む声がいくつも上がっています」
「……ん?」
「つきましては。メルス様に一度、街を視察に出ていただきたいのです」
昔は暇だったこともあり、イベントを開いては俺も目に見える形で参加していた。
だが今はそうもいかず、こっそりと隠れて混ざっていることが多い。
「理由はよく分からんが……まあ、それで構わない。予定を空け、行うことにしよう。そのときは──リョク、頼んだぞ」
「ハッ! ……えっ? わ、我が主?」
「リョクといっしょなら危険はないだろう。その日一日は、ずっといっしょだからな」
「………………」
あっ、フリーズしちゃったよ。
まあそんなこんなで、俺とリョクのデート日が決まった。
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