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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と神霊誕生
しおりを挟む夢現空間 修練場
残念ながら、今回のお掃除だけでは新たな二つ名を得ることはできなかった。
……まあ、これまでと違って裏で行う暗躍で得ようとしていたからな。
圧倒的に知名度という点で、これまでと比べて劣ってしまっていたのが原因だろう。
『みてみてー!』
「ああ、観ている観ている」
『うぉおおおー!』
未だに人化をしない、ナース。
使いこなした虚空魔法を、お手玉のように転がり回す様子をアピールしてくる。
「しかし、ずいぶんと上手くなったよな。それも全部──ユラルのお蔭か?」
「そうだと好いんだけど……結局、ナースンは聖霊になれなかったね」
「気づけばよかったよ、そもそも自然エネルギーを使ってないってことに」
ユラルとのカウンセリングがよかったのだろう、ナースは無事進化を遂げた。
ただし、その種族は聖霊ではない──だからこそ、ナースは進化を渋っていたのだ。
あの頃から、自分が聖霊になれないと直観で察していたんだとか。
だが、ユラルがそれでもいいという理由を教えたら、嬉々として進化して俺に自慢をしてきたのは記憶に新しい。
──ナースの種族は『虚空神霊』。
虚空という概念が聖霊を通り越し、神の存在まで到達した精霊だ。
というか、聖霊の枠に収まらない力を虚空エネルギーが内包していた……だからこそ、習得にも時間がかかったんだな。
「メルスン、逆に私が神霊になるのっていつだと思う?」
「と、言われてもな。レベルが条件じゃないことは、もう分かってるだろ。とりあえず、神気を注ぐところから始めて、その何かの条件を満たすところからやっていこうぜ」
「……うん」
後輩に追い抜かれて、焦っているのかもしれないな。
そういう感覚はよく分からないが、眷属同士で話すこともあるし、特に関係が悪化するなどの兆候は見受けられない。
実際、模擬戦などを行えばユラルの方が圧倒的に勝利数は多い。
だが、時折ナースが勝利する……その種族的に持つ膨大なエネルギーを、ゴリ押ししているだけなんだがな。
俺はもう少し、考えを伝えた方がいいかもしれない。
なんだか少々落ち込むユラルを見て、そう思った。
「あー、たぶんだが、呪縛がユラルを止めているんだと思うぞ」
「それって、世界樹の?」
「いちおうでも生みの親だ。何か制限を設けたのかもしれない。殺すでもなく、ただ飛ばすだけに留めたんだ……あっちにも、何か事情があったんだろう」
「うーん……そうなのかな?」
呪縛は基本、上位者からしか受けない。
自分より下の存在が放つ呪いなど、格上が馬鹿正直に受ける確率は相当低いからな。
呪縛は呪いで縛り、それを楔として何かをできなくする──俺の場合でいえば、強制的な無職にされたりとかだ。
「だ、だから……その、あれだ。もし世界樹が原因だって言うなら、伐り倒してでもユラルにかけた呪縛を解かせてやる。そうでなくても、呪縛の解呪法は探しておく」
「メルスン……」
「……まあ、実際にやるのは眷属で、俺は特に何もしないんだけど」
「メルスン……」
上がったテンションが下がってしまったようだが、苦笑とはいえ笑えているようなので伝えた意味はあるだろう。
「メルスンは……私を慰めたいの?」
「どう、なんだろうな。ただ、家族が泣いていたらどうにかしたくなるものだろう?」
「そうなのかも……。私は、メルスンにそう言ってもらえて嬉しかったし」
「ユラ……るぶぅ!」
せっかくユラルが笑顔を見せてくれそうになったその瞬間──俺の腹部に、強烈な一撃が撃ち込まれて吹き飛ばされる。
「メ、メルスン!」
『ご、ごめーん!』
「な、ナース……きさ、ま……」
「メ、メルスーン!」
ここで俺の意識は、強制的に遮断された。
◆ □ ◆ □ ◆
特殊思考内
「(だいぶダメージを受けたんだな)」
《ん。大惨事》
「(マジか……ナースの虚空魔法もだいぶ強くなったんだな)」
《ん。また、異常個体》
導士によって導かれ、ナースはそもそも理から外れていた。
運命だけでなく、存在までもが異常になってしまったようだ。
《あらら~、君も大変ね~》
「(……『ローベ』か)」
《うふふ~、さすがにあの子とはまだヤれないわね~。人化もしてくれないし~、溜まっているのよ~》
「(いや、違うから)」
俺に話しかけてくれる精神人格の一人、分かると思うが【色欲】の人格であるローベ。
少々下ネタが多いのだが……これもまた、俺の一部なのだから受け入れざるを得ない。
ちなみに、『君』の抑揚は『若君』と似た感じである。
《ねぇ、君~。さっさと全員とヤってよ~》
「(いきなり来てなんだ……言うだけで初心なクセに)」
《そ、そんなことないわよ~。わ、わたしは君と違って大人なんだから~》
そう、俺の一部なのだから完全にR18に染まることなどできない。
発言だって、物凄く羞恥心を帯びながらしているし……止めればいいのに。
《ん。ローベのことはともかく、あのときと同じことにならないように気をつけるべき》
《そ、そうよ~。ストレスも欲も、全部発散させちゃいなさ~い》
「(……『侵化』してもいいか?)」
俺自体はそういった感情を抱こうとしなければ抱けないので、言われなければなかなかヤる気にはならない。
もちろん、するとなれば誠心誠意、愛させてもらうけどな。
……けど、愛ってなんなんだろう。
ハーレムを、家族を作った今でもその真理はまったく理解できてないや。
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