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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者とアジト襲撃 後篇
しおりを挟む「な、なんだ……何がどうなってやがる」
拠点としていた建物に戻ってきた男は、その惨状を見てそう呟く。
それについては、同行していた者たちも同じ感想である。
戦闘痕が付いているのは、いつものことなので気にしない。
だが、その量が尋常ではなかった。
床だけでなく天井にもいくつもの罅が走っており、壁にも無数の修復しきれないような破壊の痕が残っている。
「誰も居ない……殺られたのか」
操作した[メニュー]画面から、ギルドに関する情報を展開する代表。
本来であれば、誰がログインしているのかが分かるはず……だが、全員が死に戻り中のためログインができないという表記だけが、そこには寂しく記されていた。
「くそっ、俺たちを釣る作戦だったのか!」
彼らは加盟した非業ギルドに呼ばれ、お叱りを受けていた。
曰く、絶対に逆らってはいけない者がこの町には居ると……そしてこのままでは、その逆鱗にお前たちが触れると。
「知るかよそんなの! ここはゲーム、何をしたっていい場所だろうがよ!」
「ああ、リーダーの言う通りだ!」「俺たちが何をしたってんだよ!」「新人たちに軽く厳しさってヤツを教えてただけだろうが!」
彼らは、悪意を以って新人たちが多いこの町で、初心者狩りをしていたわけではない。
ただ──楽に自分たちだけが人殺しを行える場所を、この地に求めていたのだ。
そういった輩が徒党を組み、やがて手が出せなくなるような組織を形成する。
それが彼らのギルド──『静寂』だった。
◆ □ ◆ □ ◆
[おかえりだな、諸悪の根源よ]
「だ、誰だ!」
突然現れた入力UIに、帰ってきた奴らは武器を取って警戒を始める。
そしてすぐに、索敵系スキルの持ち主たちが俺の存在に気づく。
[まずは、挨拶だろうか? 特に名乗る名もないが……そうだな、『神斬り』を目指す者とでも言っておこう]
「ハァ?」
[いや、これはただの目的。今は貴様らのような悪人どもを裁くことを生業としている]
「つまり、誰かに依頼されたってことか」
もちろん、その通りである。
偽善者は私利私欲のために動くが、それはあくまで救おうと思ったとき。
つまり、救いたいと思えるようなSOSのコールが届いたわけだな。
[左様である。聞けばお主ら、戦う覚悟の無い雛鳥たちを狙って殺しているようではないか。その行い、許されるものではないぞ]
「許される? はっ、何を言ってんだよ。ここはゲームなんだ、別に殺そうがプレイヤーは蘇るんだろ。なら、どんなことをしてもいいだろうが!」
[そうか……そのような愚行しかできぬ輩であったか。ならば、こちらとて容赦はせずに断罪を行おうではないか]
妖刀[ヒタチ]を抜き、構える。
刀身を水平に向け、なんだか気分は流浪している剣心のようだ。
[改心できぬアヤツらも、それなりの時間をかけて説得を試みたが……貴様らに期待はせぬ──早急に片付けよう]
「て、テメェら、殺っちま──ッ!?」
『ッ……!』
[言ったではないか、手心は加えぬと。悪いが威圧を施した故、しばらくは動けぬだろうよ。今、最高に運が好いのだ]
ゆっくりと近づき、妖刀にとあるスキルを纏わせておく。
これを使うと、こちらが行うことにもプラスの加点が付くんだよ。
[さらばだ、罪深き殺人者ども。せめてこの一撃を以って、その罪を洗い流すがよい──“裁断”、“断罪の剣”]
妖刀を薙ぐように一閃。
業値によって威力を変動させるそれは、初心者殺しという罪深き悪人たちに致命的なダメージを負わせてこの場から追放する。
この一撃によって終わった犯罪者は、特殊なデバフを永続的に背負う。
[どうしてユウも、こんな能力を望んだのだろうか?]
そんな俺の疑問も、光の泡となって消える彼らの粒子と共にすぐに飛んでいく。
◆ □ ◆ □ ◆
始まりの町 ギルドハウス『ユニーク』
「と、いうわけで終わった」
「はい。お疲れ様でした」
「おい、ナックル。ちゃんと約束は果たしてもらうからな」
「……いや、早すぎるだろ」
今回の依頼は、『ユニーク』へ届いた被害報告だった。
新人たちが狩られ続け、AFOを続ける意欲が削がれているとかなんとか。
初心者を殺し続けることは、非合法なら裏側としても困るらしく……町に蔓延る問題児の掃除が依頼された──『ユニーク』が。
今回の俺は、そんな依頼のおこぼれにあやかったただのハイエナ。
文字通り死肉漁りとして、ドロップしたモノを頂戴しておいた。
「お蔭で犯罪者系の武技を模倣できた。俺としてもいい取引だった」
「なあ、まだ頼んで数時間だぞ? なんでもう『静寂』が滅んでんだよ!」
「ユウの【断罪者】もあったしな。裁くだけならすぐに終わるだろ」
「……いや、なんか納得できねぇ」
ちなみにこの場には、俺とナックルに加えてアヤメさんが「師匠!」……とそれにユウが居るな。
部屋の扉を豪快に開けたユウは、そのまま俺の隣にダッシュ──して壁に阻まれる。
「いや、普通に来いよ」
「だって、師匠はすぐに逃げるから」
「まあ、そうけど……お疲れさん」
「えへへ~」
元は彼女が持つ【断罪者】。
ユウもまた、俺と同じように犯罪者たちを裁いていた。
なので仮にも師匠、特に威厳はないが適当に撫でておく……眷属にも評判がいいし。
ユウは結界で隔てて隣に座らせて放置、アヤメさん(とナックル)との話を続ける。
「アヤメ、例のヤツを」
「はい」
そうして差しだされた一枚の資料。
俺とユウは、二人してそれを覗き込む。
「えっと、何々『迷宮のより高難易度での探索の願い届』……帰るか」
「冗談だ。もう一枚を」
「はい。こちらは本物ですよ」
「…………ああ、そうみたいだな」
空飛ぶ船まで使って調べてもらった情報。
足の付いている俺やそのことが分からない眷属たちでは、知ることのできないいくつかの情報を纏めてもらってある。
「さて、じゃあもう行くわ」
「もう行くの?」
「だって、もう用ないし」
「もうちょっといようよ。ねぇ、師匠……」
弟子からの懇願に仕方なく席に戻る。
まあ、ナックルに訊きたかったことはもう少しあるから別に好いんだ。
隣のユウもなんだか満足げだし……実はこれ、アルカを呼ぶための時間稼ぎじゃなきゃいいけど。
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