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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者とアジト襲撃 中篇
しおりを挟むクラーレのところでも見せたが、今は刀の縛りプレイの最中だ。
ただ、装備スキルは今回も使用可能なのでかなり緩い方だと思う。
ただし、それでも気を付けなければならないことは盛り沢山だ。
刀は斬るための物であり、西洋剣のような叩き潰すための使い方には対応していない。
「それでもまあ、やることはやるんだけど」
侍風の格好に身を包み、魔道具を使った文字表示で相手との会話を行う。
そんな独創的な存在を、なかなか見たことは無いだろう……だからこそ、それが強く印象に残ることを祈る。
妖刀は俺の腰で妖しく輝き、次の出番はまだかと音を鳴らす。
そんな二振りの刀を宥め、入り口から中へ侵入する。
[やはり、先の一撃は連絡手段であったか]
階段を使い、上と下からこの階まで来ようとするPKたち。
……まあ、下は隠されているので、できるだけ俺にバレないようにゆっくりとだが。
[先に上であろうな]
というか、幹部などのお偉い様以外は全員上の階でスタンバイしていた。
振動を受け、そんな彼らは動きだす。
「な、何者だ!」
[名乗る者でもない]
「いや、名乗れよ! ……というか、看破スキルだってあるんだからな!」
[好きにするがよい]
看破ができると自慢していた男は、魔力を眼に宿して俺の素性を暴こうとした。
その気になれば、妖刀で魔力の線を未然に斬ることもできるが……何もしない。
「ご、合計レベル100の(刀士)だ!」
[まさか、暴かれるとはな]
「でも、スキルが分かんねぇ。みんな、まだ何か隠してんぞ!」
[驕らぬのはよいことだ]
再び[ヒタチ]の柄に手を乗せ、構える。
刀術スキルを持っていることは、あちらも理解しているだろう。
どの武技を使おうとしているのか、それを暴こうとしていた。
[まず一人]
「なっ!」
[もう一人]
「な、なんだよその動き!」
武技を使うためには、ある程度定まった動きをしなければならない。
一つ一つにそれが定められており、なぞれなければ失敗して動きが硬直してしまう。
俺はそれを逆手に取り、可能な限りズラして発動した。
右を左で、上を下で、地面を空で……入れておいた立体機動スキルによって、ある程度自由度の高い行動ができる。
[どうした、無抵抗に死を選ぶか?]
「ふ、ふざけんなよ! 何なんだよ、その気持ち悪い動きは!」
[ふむ、空を上下逆さまに歩くこともできぬ若輩者どもか。やれやれ、そのような体たらくでは止められぬぞ]
「ぶ、武技なんだからある程度動きは同じはずだ! それを読み取れ!」
まあ、武技ばっかり使っているならたしかにそうだろうな。
しかし、俺の動きはティル師匠仕込みのもの──武技ばっかりに頼らずとも、ちゃんと戦えるようにしてある。
「ぐはっ!」
[死にたい者から前に出ろ。介錯をしてやろう……楽に逝かせてやる]
「くそっ、なんでこんなタイミングで……」
[狙ったに決まっているではないか]
彼らはそこまで強くない。
まだ雛鳥とも言える新人PKたちだ。
経験を積み重ねた上級者たちは、ちょっとした用事で拠点を離れている。
──正々堂々と、新人さんたちとは戦っているのだから構わないだろう。
[では、そろそろ終わりとしようか。我が妖刀[ヒタチ]は他者の運を喰らう力を持つ。貴様らの運──貰い受けよう]
刀で斬りつけるたびに、キラキラとしたエフェクトがPKたちから現れ妖刀に吸い込まれていく。
それは彼らの持つ運気そのもの、一定時間は確率に頼ることができなくなる。
[暗殺を技術ではなく運に頼る雛鳥では、ちと厳しかっただろうか]
「か、“回避”──っ!?」
[失敗。運が悪いな]
スキルレベルと運で成功判定を行うスキルなんだが……発動せずに刀に斬られる。
こちらも、しっかりとレベルを上げて上位スキルにしておけば避けれただろうに。
「ひ、卑怯者!」
[卑怯、か……では、集団で襲うことに卑怯さはないのか?]
「一人で挑む方がバカだろ!」
[なるほど、たしかにな。なればこそ、馬鹿に負ける貴様らはより程度の低い、烏合の衆となるわけか]
卑怯者呼ばわりするのであれば、PKなどせずに冒険をしていればいいのだ。
闘争を求めるのであれば、それこそコロシアムでも行ってくれば充分なはず。
──それで満足せず、他者を傷つけることに悦楽を得ていた彼ら自身が、たまたま俺に殺されたというだけのこと。
[人を呪わば穴二つ。因果応報。たとえ今死なずとも、いつかは死を迎えるのが生物だ。なぜ、無駄に抗おうとする?]
「ふざけんなよ! リーダーたちが居ないタイミングを狙った癖に、イイ気になりやがって! 俺たちを殺ったんだ、次はテメェが殺される番だ!」
[質問に答えてもらいたいものだ。付け加えるのであれば、こちらとて殺される覚悟をしていないわけではない。それは貴様らの方であろう……新人たちを、同朋を殺して快楽を得る貴様らこそ、裁かれるべきではないか]
なんだか演技も疲れてきた、そろそろ終わりにしようか。
居合の構えを取り、残っているPKたち全員を捕捉し──武技を放つ。
「──“禍通風”」
一陣の風が彼らの首元を通りすぎる。
俺はゆっくりと、[ヒタチ]を鞘の中に収めていく。
[また、つまらぬものを斬ってしまった]
刀身を仕舞いきるのと同時に、彼らの首が地面に落ちる音が聞こえた。
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