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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と初心者モドキ
しおりを挟む始まりの草原
超越種のことは、とりあえず放置……じゃなくてリュシルに任せておいた。
いろいろと交渉はしたので、顔を赤くしながらも彼女も応じてくれたぞ。
……いや、疲れていたからマッサージをしただけの話だ。
「さて、どの辺りに居るんだろうか?」
目的のものはそう簡単には見つからない。
時折彷徨うように魔物を倒しては、調理して食べながら時間を潰す。
「あ、あの……!」
「はい、どうかしましたか?」
そんな折、俺に話しかけてくる少年が一人現れる。
身を包むのは、俺も長年お世話になった初期シリーズの装備……いつ始めたかで少々カラーリングが異なるのだろうか、若干色は異なっていた。
武器は何も提げていないので、『闘士』系の職業かも……と思いたいのだが、装備からして初心者っぽいので違う可能性もある。
容姿でいえば、茶髪に鈍色の瞳を持つ優男といった感じだ……中学生ぐらいに見えるがあいにくそれは信じられない。
「ぼ、ぼく『ソウヤ』って言います。今日始めたばかりの新人で、少し訊きたいことがあるんですけど……」
「いいですよ、何が知りたいんですか?」
「え、えっと……これなんですけど……」
「[メニュー]のことですか? では、まず画面を他の人にも見せたいと強く念じてください。そうすれば、君の画面が他の人にも見せられるようになります」
他者には見えないようになっている画面、まずはそれを公開状態にさせた。
すると突然少年の目の前に画面が現れ、俺に何を見せたいのかが分かる。
「え、えっと……これなんですけど……」
「ふむふむ」
「どうやったら、次の画面に……ぃっ!」
「もう少し……粘りませんか?」
突然苦悶の声を上げる少年。
理由は簡単、俺が腕を握り締めたから。
その腕が伸びる先には──巧みに隠されたアイテムを入れる魔道具があった。
「な、なな、なんのことですか!」
「新人だと嘯き、油断させる状況を作って殺そうとしたんだろう? まあ、惜しいと言えば惜しいな……もうちょっと作戦を考えたなら、騙されたかもしれない」
「ぼ、ぼくはPKなんかじゃありません!」
まあ、言っても否定されることは目に見えていた……こういうときは、誤魔化せない証拠を突きつけるのが一番だろう。
「新人だって言ってた奴が、よくもまあ俺の鑑定を防いでいるよな」
「……チッ、偽装スキルの持ち主かよ」
「いや、使ってないぞ。というか、鑑定もお前が視た通りやってない」
「だ、騙しやがったな……」
すぐにボロを出した初心者モドキ。
そもそも前提として、相手は演じるために初心者を装う。
それがバレないように、スキルも分からないように隠すのが定番だ。
なら、まるでその偽装を暴いたかのようにこちらも演じればいい。
スキルを持っていなくても、そう見せるというテクニックはすでに存在するからな。
シンプルに隠蔽や偽装スキルで偽る、あえて起動させず魔道具による隠蔽工作を行う。
スキルリストにすら表示させない、というのも可能といえば可能なんだよ。
「おいおい、騙される方が悪いってのはあとでお前さんが言う言葉だったんだろ? 自分が同じ状況に陥れられたからって、そういう態度はどうなんだよ」
「くそっ、バカにしやがって!」
「あーあ、そんな風に言っても何も変わらないだろ? さっさと武器を取れよ、だからわざわざ教えてやったんだぞ」
「っ……! 絶対に後悔させてやるよ!!」
瞬間的に装備を切り替えて、取りだすのは禍々しい装備。
トドメを刺すのに失敗した場合は、これらの装備で強化して殺す予定だったのだろう。
「うわー、怖いー!」
「……死ね」
ストレートに殺意をぶつけてくる。
無詠唱で整えられたバフによって、高速で近づいてきた。
「“業撃”!」
「……初めて見るな」
武技に付いてくるエフェクト、その色がいつもよりどす黒い輝きを放っている。
名前からして、業値システムが威力にでも関係しているのだろう。
だがまあ、気にする必要はない。
刃に触れず、柄の部分を掴んで押さえる。
「んなっ!」
「うんうん、もう少ししたら動きは硬直」
「く、くそ……」
「よいしょ──“足砕き”」
声にならない絶叫が上がる。
力強く踏みしめたのは、大地ではなく彼の靴に包まれた片足。
耐久値はまだまだ健在で、残ってはいるのだが……一撃でボロボロになった。
「もう一回っと!」
「~~~~~ッ!」
まずは移動手段を削ぎ落とす。
さすがに剣を使うのは可哀想なので、偽善者的優しさで骨折だけで許しておく。
そんな配慮が嬉しいのか、全身を動かしてその態度を示してくれる。
「PKなんだから、こういうことをされるって覚悟もあるだろ?」
「て、テメェ! 痛覚を……解除持ちか!」
「正解だ、よっと!」
「うぎゃぁあああああぁっ!」
脚闘術の武技“回し蹴り”を手動で行い、足を動かせない初心者モドキを蹴り飛ばす。
そしてそのまま近づき、首を鷲掴みにして詰問する。
「──なあ、お前らの拠点はどこだ?」
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