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偽善者と乞い求める日々 十六月目

偽善者とアニワス戦場跡 前篇

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 帝国が住みやすいか、と聞かれれば答えはあっさり分かる。

 ──場所による、だ。

 金を持っている奴らなら、整備された地域で過ごせるので肯定を示す。
 だがそうでない者は、サービスの行き届かない場所に居ざるを得ない。

 要するに、貧しさは罪ということだな。


「それで、マスターたちはどんな依頼を受けているの?」

「魔物狩りを主にやっていましたが、時々護衛の依頼も行っていました……メルが居ないので暇でしたし」

「そう? なら、これからはいっしょに居られると思うよ。ちょっとやることも終わったし……楽しくなるね?」

「そ、そうですか……メルといっしょ……ふふっ、そうかもしれませんね」


 なんだか後ろを向いて呟いている。
 恨み言でも言っているのかもしれないし、聴覚を強化なんて野暮なことは止めておく。
 それに、他のギルドメンバーがやれやれ、みたいなポーズを取ってるし、気にする必要はないのだろう。


「メル、討伐依頼だけどいっしょに来る?」

「へー、外には行ってなかったし、一度見に行くのも面白いかな?」

「……これだけ時間があって、一度も外に行かなかったの? どんなことをやってれば、そんな過ごし方ができるのよ」

「うーん、ヤクザのトップ生活かな?」


 ドン引き、に近い青ざめた表情だ。
 まあヤクザと言われて、明るい表情ができる方がおかしいか。


「それじゃあ、討伐依頼に行こうか!」

「ちょ、説明しなさいよ!」


 話しすぎると、知ってはいけない部分まで知られてしまいそうだ……沈黙を貫けばいずれ忘れるだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 アニワス戦場跡

 帝国の北に位置するこの場所は、アンデッドたちの宝庫とも呼ぶべき地だ。
 かつて激しい戦闘があったのか、そこに強く負の力──瘴気が残ったのが原因らしい。


「こんな場所があったんだ……」

「メル、ここはわたしにお任せください!」

「マスターが? ……そっか、アンデッドが相手だもんね」

「はい! 見ていてください、少しはできるところをお見せしましょう!」


 やる気に満ちたクラーレは、長杖を握り締めて俺に言ってきた。
 なんだか、ふんすと鼻から息を漏らしているが……そうか、だいぶ強くなったんだな。


「来るわよ。ノーマル四、騎士ナイト一、僧侶プリースト二」

「はい、すぐに準備します」


 索敵役であるノエルの報告を受け、クラーレは魔力を練り上げ詠唱を始めた。
 回復役ヒーラーである彼女は、その他にも浄化や補助にも長けている。

 彼女の持つ光魔法は、七系統の魔法の中でもそうした役割を果たす。
 ゆっくりと迫るアンデッドたちに向け、射程距離に入った途端──


「“光浄ピュアリファイ”!」


 光がアンデッドたちの足元で輝くと、苦悶の声を上げ始める。
 浄化の光が奴らを包み込み、強制的に浄化することを促しているのだ。


『ウボァアアアアァ!』


 おっと、聴きたくもない声が耳に入った。
 声帯なども腐っているゾンビ型のアンデッドは、光を浴びて体を粒子に変えていく。
 クラーレは魔力を籠め続け、やがてアイテムがドロップするまで魔法を使った。


「……ふぅ。こんな風に、アイテムが落ちるまで魔法を使うだけです。メルやアルカさんのお蔭で、威力もだいぶ強くなりました」

「それはよかったよ。私も命懸けでアルカを呼んだ甲斐があるってもんだね」

「……あれって、いつものことなんです?」

「うん、残念なことにね」


 たまに見た目では何もしていない時もあるが、それは裏で情報戦のように激しく魔法をぶつけているんだよな。

 最近アルカは攻撃魔法だけでなく、回復魔法も習得しているらしい。
 さすがに回復量は【聖女】であるセイラに劣るようだが、他にもいろいろなことに手を伸ばしているのが末恐ろしいところだ。


「さて、私も頑張ろうかな?」

「メル……今は何をしているんですか?」

「だいたいマスターと同じかな? 破邪を目的とした縛りにしているよ」


 いつものメルとしての格好に加え、今日は短刀を腰に提げている。
 まあ、子供サイズの現在の俺だとちょうどいい刀になっているな。


「魔法とかは使えないけど、とりあえずアンデッドの成仏ぐらいならできるからね。とりあえず、アンデッドを探そうか」

「そうね。でも、メルはここのことをよく知らないんだったわよね? ここ、場所ごとにアンデッドの強さが変わるのよ」


 シガン曰く、その場所に漂う瘴気の濃さで五段階に分けられているとのこと。
 今居るのはレベル二、ゾンビなど肉体を持つアンデッドが出現し始めた。

 レベル一だと骨や霊体で、三だと特殊な能力を持つ奴らが現れる。
 そして四は単純に強化され、五になるとまだ未開の地らしい。

 ……まあ、破邪刀術スキルのパッシブ効果が、いかにも邪な存在が居ますと告げてくるからな、そっちの方向。
 かなり凶悪な存在が居て、いずれレイドイベントとかを引き起こすんだろうな。


「まさか……レベル五に行きませんよね?」

「あははっ、いくら私でも今はレベル五なんて危ない場所にはいかないよー」

「で、ですよね……って、今は・・?」

「今は偽善者じゃなくてマスターの忠実な僕として、露払いの一環としているんだから」


 だからとりあえず、常駐依頼にもあったレベル四の討伐くらいにしておこうか。


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