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偽善者と乞い求める日々 十六月目
偽善者と練習台
しおりを挟むヴァナキシュ帝国
奴隷を買い集め、裏で取引される魔道具を大量に買ったここに用はない。
だが国にはなくとも、そこに居る者には用があるのだ。
「メル!」
「みんな久しぶりー、元気にしてたー?」
「メルの方こそ……無事で何よりです!」
いつものように妖女モードで彼女たちの前に現れたのだが、なんだか熱烈な歓迎を受けてしまう……ギルドの個室にしておいて正解だったな。
「わたしたちはわたしたちで……それなりにありましたけど、やっぱりメルの方が面白そうです」
「そうかな? あんまりそうとは、思えないけどなぁ」
「そんなことありませんよ」
その言葉を契機に、ぐるりと俺を取り囲むギルド『月の乙女』の面々。
普通の男なら、美少女や美女を360°味わえることに興奮するのかもしれないが……少なくとも、俺はそうではなかった。
「ゆっくりとお話ししましょう。幸い、今日の予定は何もありません……それこそ、お茶でも嗜みながら」
「わ、私はちょっと用事が」
「──ありません。メルには用事なんていっさいありません」
「……はい」
霊呪をチラつかされたうえ、その目が糖分の激しい要求をしていた。
そういえば、ストックを渡したという記憶もなかったな……我慢できなかったようだ。
男にとって、女性に幻滅する時とはどのような場面を見た時なのだろうか?
いろいろとあるだろうが要するに、自分の理想から外れた姿に幻滅するのだろう。
幻が滅すると書いて『幻滅』。
つまり、期待と異なっていた現実に憂いた感情が変化し、失望になるのだ。
「どう、美味しいかな?」
「ふぁいふぉうです!」
「マスター、ちゃんと呑み込んでから食べようよ。マスターは淑女なんだから」
「んぐっ!? …………最高です!」
ちなみに俺はある条件さえ満たしていてくれれば、女性のどんな行為も肯定する。
それは{感情}による精神安定効果もあるのだろうが、こっちに来るまで女性に求める理想が高すぎたのも原因だろう。
──その一点さえ満たしてくれれば、他がどうでもいいってのは……異常だろうか?
そんな俺の深層心理など気にせず、彼女たちはテーブルの上に並べられたお菓子をそれぞれのペースで食していく。
さすがに貪るような食べ方をする者はいないのだが、かなりのスピードでお菓子は減り続けている。
「はいはい、お菓子はどれだけ食べても減らないからね……カロリーもだけど」
ピタッと動きを止めるが、躊躇いを振り払うように再び食事を再開する。
うん、だってもともとゼロなんだから、減るはずも増えるはずもないのだ……眷属のために工夫は凝らしているのだ。
「マスターたち、たしか私と離れているときは全員がログインできない日が多かったんだよね? いったいどんなことをしてたの?」
「んぐっ。そうですね……ギルドに張られるクエストをこなしたり、ホームで特訓をしてりしていましたよ」
「ちゃんと使っててくれたんだ」
「はい、それはもちろん。特に練習台が便利で役立ちました」
修練場を造った経緯は、彼女たちの中であばれる場所が欲しい(意訳)とギルドハウス建築の際に要求した者がいたからだ。
なのでそれを造り、壊れることのない強固な的を用意しておいた……特別性のな。
「そういえば、メル。あれってどんな素材でできているのよ。耐久値を知りたくて調べても、何も出てこなかったんだけど……」
「みんなには内緒だよ。そういう裏の事情を知って遠慮されるのが、私としては一番困るからね。ただ、どれだけやっても壊れないと思うから安心してね」
「プーチがどれだけ攻撃しても傷一つ付かない時点で、その心配はしなかったわよ」
ギルドリーダーたるシガンの問いの答え、それは神鉄鉱石である。
神器や聖・魔武具ともなると耐久値が無限になるからな……それを利用しないわけにはいかないだろう。
鑑定偽装は何重にも施しているので、そちらのスキルレベリングにも使える優れもの。
また、そもそも格上の素材への攻撃も経験値が高いんだよな……少々ズルいが、彼女たちには強くなってもらわないと。
「そういえば、ユウさんとアルカさんが遊びに来てくれました」
「……へ、へぇ……そ、そうなんだ……」
「せっかくなのでギルドハウスを案内したところ、お二人共とても楽しんでいましたよ」
「そ、そうなんだ……」
この場合、何を? なんて野暮な質問をしなくてもいいだろう。
この話の流れ的に、どうにか壊れずにいるみたいだが……そのままアルカたちが同じことをしていると、少々俺の身が危ういな。
そのせいか、お菓子に伸ばした手が停まってしまう。
ユウはともかく、アルカって殺る気満々で挑んでくるんだもん。
「今度自分たちのギルドにも来てほしいと、言伝も受けました」
「……うん、今度行ってくるよ。けど、マスターたちといっしょがいいな」
「はい! わたしも『ユニーク』の方々とぜひ話してみたいです!」
「ありがとう、マスターのお蔭で私の命はもう少し持ちそうだよ」
さすがのアルカでも、クラーレたちの前で堂々と殺すなんてこと……ありそうだな。
いずれ訪れるときは、アルカの魔法に耐えられるだけの縛りな日にしなければ。
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