1,064 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と魔剣道中 その19
しおりを挟む幾百の時を紡いできた。
何十、何百もの使い手が現れた。
しかし、自身を振るいに値する担い手が、ソレに現れることはない。
(ダメだ、ダメだダメだダメだ……!)
担い手であった『あの者』と同じ道を志すこと、それが必要な条件だった。
膨大な魔力も優れた剣術も、懲罰に長けることも必要としない──ただそれを目指す、ソレは新たな担い手を探していた。
(またハズレか……)
自身を握った次なる所有者は、過剰に膨れた我欲に溺れた男だった。
己の力も制御できず、精神を根深く侵蝕されている……そんな男だ。
だが彼は、最後に良い働きをした──新たな使い手を見出してくれたのである。
故にその者と契約した、ある程度行っていることに協力した──偽善に力を貸した。
(そして、それは間違いではなかった!)
彼──メルスは約束を果たした。
決して人を殺めず、魔物ですら温情の余地があれば見逃す寛大さ。
それは『あの者』と同じ、生き様だった。
偽善を謳おうが構わない、ソレにとって目指すべきは過程ではなく結果である。
(この者であれば……いずれ、担い手の過去すらも暴いてくれよう)
ソレ──黒鍵魔剣は求める。
自身を生みだし、ある目的と根源を遺して逝った担い手のすべてを知ることを。
すべてを暴く力を持った魔剣は、ただ一つだけ──生みの親を知りたいだけだった。
□ ◆ □ ◆ □
夢現空間 居間
「──とまあ、そんなことがあったんだよ」
「ふーん、メルスも大変だったんだねー」
「魔剣で斬って叩くだけで気絶するから、敵自体はどうとでもなるんだけどさ。やっぱりこう、少しやりすぎた気がしてさ」
「それはいつも通りだと思うけど……うっ、またババなの?」
今回あったことを、アリィとババ抜きをしながら話してみた。
どうせ二人でやっていることなので、いちいち顔を取り繕う必要もない。
ただ暇潰しとして、おコタで温まりながらゲームをしているだけだ。
「けどさ、その魔剣を使う必要あったの?」
「ん? どういうことだ、アリィ?」
「神剣あるよね?」
「……いや、偽善者としての使命だよ」
あらゆる武具を模倣できる『模宝玉』。
だがその欠点は、その武具が持つ意思までコピーすることはできないということだ。
また、意思を持つ武具は真似できないということで……つまりは偽善対象である。
なので救った。
契約者の居ない魔剣の契約者となり、かつての担い手について情報を集める。
これは最初に言われたことであり、また再び頼まれたアイツとの契約だ。
「ただまあ、大変そうではあるがな」
「どんなところが? ……ババを引いてよ」
「そもそも大陸を渡ったかどうか、それが微妙らしいからな。もしかしたら、別大陸の生まれなのかもしれなくてさ……それって、いつになったら情報の欠片を掴めるんだよ」
「そうなんだ……ねぇ、早く引いてよ」
ため息を吐いてアリィの出すカードを引き抜く──もちろんジョーカーは出ない。
クーなしでも、ある程度カードゲームのテクニックを磨いた今なら戦えるのだ。
「まあ、幸いにして長い時間がある。あと、別大陸派遣組に新情報として流してある。運が良ければ、見つかるんじゃないか?」
「運がよければ、ねぇ……」
「あっ」
「その台詞は勝負師にとって禁句よ」
せっかくあと一回引けば勝利、という場面でアリィの別人格たるアリスが現れる。
巧みに札を操り、二分の一という確率の中俺にジョーカーを押しつけてきた。
「だから運に頼らず、派遣して探しているんでしょう? それに、もしかしたらの可能性まで考えて──」
「そんなつもりはないんだけどな」
「つもりはなくても、実際にそうなっているわ。もちろん、勝手に深読みしている眷属の仕業だけれどね」
無知で無智で無恥な俺の代わりに、眷属たちはさまざまなことをやってくれている。
そう、例えるならダメな社長を支える経営陣のように……うわっ、容易に思い浮かぶ。
「アリス的に、その魔剣の持ち主って嫌な予感しかしないわよ。うん、アリィも訊いててなんとなく思った。絶対悪人の家だよね」
「それっぽいけどな」
ジョーカーを押しつけ合いながら、魔剣の初代担い手の実家について話し合う。
ヒントが少なく、もっともそれっぽいのは寒い場所ということ。
いちおう、大陸の中には極寒の地もあったとアマルから報告を受けたが……寒い場所ならたいていの地に一つは存在するだろう。
あとはそれ以上に本質を表す──尋問の能力を持つ魔剣を生みだせた環境だ。
表側の存在が、そう易々とそんな力を持つ魔剣を創りだせるとは思わない。
「間違いなく、裏側の奴らの生まれだな。だが一口にそうと言っても、幅が広すぎてどうしようもないのが現状なんだよ」
「ふーん、まあ見つかるわよ。──それはそうと、ババ抜きはアリスの勝ちね」
「……ハァ、負けました」
「やったぁ! 約束通り、アリィは美味しいケーキがプレゼントされるぅ!」
アリィとアリスのチェンジに文句を付けることは無い。
大人しく“空間収納”からケーキを一切れ出して、アリィに差しだす。
「ちゃんとアリスと分けろよ」
「はーい。ふふっ、感謝するわ。たまに分けてくれないもの」
「ヲイ……」
「だって、美味しいんだもん」
結局、アリィはちゃんとアリスにも食べさせていた……本当に少しだけだったけどな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる