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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その16

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 コールザードの皆々様は、突然暗くなったこの場にザワザワとしだす。
 しかし次の瞬間、彼らは沈黙を強要されることになった。


「こちらをご覧ください」


 闇魔法で暗くした王の間に、突然放たれた光──そして映像が投影される。
 それ自体は、この国の優れた魔法使いであれば可能だろう……だが、俺のは4Kを目指した超高画質だ。


「おおっ、これは!」


 魔法使いっぽい格好をしたおじいさんが驚いているし、たぶんそうだろう。
 当主は不敵な笑みを浮かべ、話を戻す。


「彼の魔法は過去を映しだします。そして、それこそが証明となりましょう」

「虚偽を図る可能性があるだろう」

「真偽の秤を使わせていただければ、その証明にもなるでしょう」

「……持ってこい」


 名称でも分かると思うが、それは発言が嘘か本当かを見抜く魔道具である。
 本当なら傾かず、悪意を持った嘘なら左、そうでない嘘なら右側へ傾くらしい。

 そして、それは運ばれてきた。
 少々派手な装飾のされた天秤は、あらゆる干渉を受けないように魔力の膜で己を包む。
 要するに、天秤は真に対象の嘘偽りを暴けるということだ。


「天秤に触れ、我が問いに答えよ──この場で虚偽を図るつまりはあるか?」

「いいえ、ございません」

「……傾きません。これにより、私の従者の正しさは証明されました」

「そのようだな」


 ちなみに、名前やら身分やらもここに該当しているのがかなりセコいと思う。
 ただ、真実は時に嘘よりも残酷な時というのがあるだろう……どうやらこの天秤、眷属が前に予想していた通りの欠陥があるな。

 だが、その考察は後回しでいいだろう。
 俺が嘘を吐かないことは証明され、どのような映像だろうとそれが真実としてこの場では扱われる。

 光を操り、映像を進めていく。
 そこには例の武器を持つ男たちの姿が、生前の姿で投影されていた。


「彼は過去を視る力を持ちます。武器からその過去を読み取り、今に反映しました」

「これはおそらく、数週間ほど前の時間ですね。場所は……地図はありますか?」


 持ってきてもらった地図を開き、実際に映像の舞台となった座標を示す。
 いちおうこの国の領土に入っており、そのうえでかなりスリース王国に近い場所だ。


「このあと何が起こったのか、それは皆さまも知っておられるでしょう。ですので、もう少し時間を遡らせていただきます」


 男たちの顔を見せた、なので次はその上司の映像を使わせてもらう。
 一瞬ブラックアウトした映像が、再び色をこの場にもたらす──そこには、先ほどまでの者たちとは別に、一人の男が映る。


「……おおっ、アーサム男爵」「なぜ姿が映像に……」「天秤は真実だと示した。つまりは……」「なんということだ!」

「静まれ!」


 王の威厳……というスキルの力もあって、ざわつきは一瞬で沈静化される。
 ここで天秤を返して、誰の差し金ですか的なことを訊いたら面白そうだな。

 ちなみに、その男爵もここに居る。
 だいぶ顔を真っ青にして逃げようとしているな……結界魔法もダウンロードしたから、誰も逃げられないけど。


「では、映像の続きをどうぞ」


 観ている者たちも察していただろうが、内容は今回の事件を依頼しているシーンだ。
 ただ、上司である男爵は言った──これは絶対にやらねばならない重要な依頼だと。


「さて、アーサム男爵のこの発言。この裏を探ってみましょ──」

「待て、もうよいだろう」


 俺の行いを止める王……ではなく当主。
 王は俺の詮索を中断させた当主を訝しみ、すぐにその意図に気づいて舌打ちをする。


「王よ、私たちは争いを望みません。このことに私たちが関わっていないことは明白。どうか、宥和を……」

「…………何もしないわけにはいかない。すでに火種は撒かれている」

「では、こちらからの提案です」


 指示通り、[アイテムボックス]から二つの品を取りだす。
 青色のホースと巨大な象牙……傍から見ると、なんだかゴミを出したみたいだな。

 だが、見る人が見れば分かる。
 すでに先ほどのおじいさんなど、目を引ん剥かせて驚いていた。


「王よ、これは……」

「……なんだと?」

「お二人で話された通り、こちらは神の試練の結果手に入れた品です。どうぞ、私たちからの贈り物をお受け取りください」

『!?』


 兵士が品を受け取り、王の下へ送る。
 いっしょに鑑定結果を記した紙を付けてあるので、今はそれを見ていた。


「そちらの管は、無限に水を出すことができます。そちらの象牙は、持ち主に富をもたらすとされる品です……これを両国の絆の証として、認めてはいただけないでしょうか?」

『…………』


 沈黙を貫く王たち。
 周りの貴族なんかは、それが本当だったらの仮定で盛り上がっているが、王はそれが真実という分かった上でこれを受け取った場合の未来を演算しているのだろう。


「──いいだろう。この話は不問、そして過ちを認めよう」

「ありがとうございます、王よ」

「ふんっ……次はないと思え」

「はい、心得ております」


 完全に悪いのはアッチなんだが、それでも王という面目を潰してはいけないのだ。
 これで問題は解決、あとは帰るだけ……なのが一番楽なんだけどな。


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