1,061 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と魔剣道中 その16
しおりを挟むコールザードの皆々様は、突然暗くなったこの場にザワザワとしだす。
しかし次の瞬間、彼らは沈黙を強要されることになった。
「こちらをご覧ください」
闇魔法で暗くした王の間に、突然放たれた光──そして映像が投影される。
それ自体は、この国の優れた魔法使いであれば可能だろう……だが、俺のは4Kを目指した超高画質だ。
「おおっ、これは!」
魔法使いっぽい格好をしたおじいさんが驚いているし、たぶんそうだろう。
当主は不敵な笑みを浮かべ、話を戻す。
「彼の魔法は過去を映しだします。そして、それこそが証明となりましょう」
「虚偽を図る可能性があるだろう」
「真偽の秤を使わせていただければ、その証明にもなるでしょう」
「……持ってこい」
名称でも分かると思うが、それは発言が嘘か本当かを見抜く魔道具である。
本当なら傾かず、悪意を持った嘘なら左、そうでない嘘なら右側へ傾くらしい。
そして、それは運ばれてきた。
少々派手な装飾のされた天秤は、あらゆる干渉を受けないように魔力の膜で己を包む。
要するに、天秤は真に対象の嘘偽りを暴けるということだ。
「天秤に触れ、我が問いに答えよ──この場で虚偽を図るつまりはあるか?」
「いいえ、ございません」
「……傾きません。これにより、私の従者の正しさは証明されました」
「そのようだな」
ちなみに、名前やら身分やらもここに該当しているのがかなりセコいと思う。
ただ、真実は時に嘘よりも残酷な時というのがあるだろう……どうやらこの天秤、眷属が前に予想していた通りの欠陥があるな。
だが、その考察は後回しでいいだろう。
俺が嘘を吐かないことは証明され、どのような映像だろうとそれが真実としてこの場では扱われる。
光を操り、映像を進めていく。
そこには例の武器を持つ男たちの姿が、生前の姿で投影されていた。
「彼は過去を視る力を持ちます。武器からその過去を読み取り、今に反映しました」
「これはおそらく、数週間ほど前の時間ですね。場所は……地図はありますか?」
持ってきてもらった地図を開き、実際に映像の舞台となった座標を示す。
いちおうこの国の領土に入っており、そのうえでかなりスリース王国に近い場所だ。
「このあと何が起こったのか、それは皆さまも知っておられるでしょう。ですので、もう少し時間を遡らせていただきます」
男たちの顔を見せた、なので次はその上司の映像を使わせてもらう。
一瞬ブラックアウトした映像が、再び色をこの場にもたらす──そこには、先ほどまでの者たちとは別に、一人の男が映る。
「……おおっ、アーサム男爵」「なぜ姿が映像に……」「天秤は真実だと示した。つまりは……」「なんということだ!」
「静まれ!」
王の威厳……というスキルの力もあって、ざわつきは一瞬で沈静化される。
ここで天秤を返して、誰の差し金ですか的なことを訊いたら面白そうだな。
ちなみに、その男爵もここに居る。
だいぶ顔を真っ青にして逃げようとしているな……結界魔法もダウンロードしたから、誰も逃げられないけど。
「では、映像の続きをどうぞ」
観ている者たちも察していただろうが、内容は今回の事件を依頼しているシーンだ。
ただ、上司である男爵は言った──これは絶対にやらねばならない重要な依頼だと。
「さて、アーサム男爵のこの発言。この裏を探ってみましょ──」
「待て、もうよいだろう」
俺の行いを止める王……ではなく当主。
王は俺の詮索を中断させた当主を訝しみ、すぐにその意図に気づいて舌打ちをする。
「王よ、私たちは争いを望みません。このことに私たちが関わっていないことは明白。どうか、宥和を……」
「…………何もしないわけにはいかない。すでに火種は撒かれている」
「では、こちらからの提案です」
指示通り、[アイテムボックス]から二つの品を取りだす。
青色のホースと巨大な象牙……傍から見ると、なんだかゴミを出したみたいだな。
だが、見る人が見れば分かる。
すでに先ほどのおじいさんなど、目を引ん剥かせて驚いていた。
「王よ、これは……」
「……なんだと?」
「お二人で話された通り、こちらは神の試練の結果手に入れた品です。どうぞ、私たちからの贈り物をお受け取りください」
『!?』
兵士が品を受け取り、王の下へ送る。
いっしょに鑑定結果を記した紙を付けてあるので、今はそれを見ていた。
「そちらの管は、無限に水を出すことができます。そちらの象牙は、持ち主に富をもたらすとされる品です……これを両国の絆の証として、認めてはいただけないでしょうか?」
『…………』
沈黙を貫く王たち。
周りの貴族なんかは、それが本当だったらの仮定で盛り上がっているが、王はそれが真実という分かった上でこれを受け取った場合の未来を演算しているのだろう。
「──いいだろう。この話は不問、そして過ちを認めよう」
「ありがとうございます、王よ」
「ふんっ……次はないと思え」
「はい、心得ております」
完全に悪いのはアッチなんだが、それでも王という面目を潰してはいけないのだ。
これで問題は解決、あとは帰るだけ……なのが一番楽なんだけどな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる