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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その15

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 コールザード

 そこは氷の国と称すべき場所だった。
 街の中にいくつもの氷柱が生えており、家が氷でできている場所もある。


「ああでも、よく見ると膜として使っているみたいだな」


 色付きのガラス、とでも言えばいいのか?
 家の中がはっきりと見えないようにしっかりと加工されているので、魔法の鏡マジックミラーGO! のようなこっぱずかしいことにはならないだろう。


「……某雪の女王の根城みたいだ」


 そんな街々の中、そびえ立つお城もまた氷で構成された場所である。
 
 スリーク王国は結界で国を包み、それなりの温度を維持していた。
 だが、コールザードの場合はその温度へ完全に適応しようとしているのかもしれない。


「結界なしで極寒の中って……いや、やっぱり無理みたいだな」


 たしかに適応している者もいる、だがそれ以上にそうでない者が多いのだろう。
 寒さに震え、凍える子供たちや老人……つまり免疫力が低い者たちには厳しい環境だ。


「偽善ではあるが、これで……」


 結界魔法は使えない。
 だが、その前提条件である魔力による障壁であれば、魔力さえあれば行える。
 シャボン玉のように魔力を飛ばし、震える人々を包む……本当に偽善だな。


「──どうなっている」

「間もなく到着です」

「そうか……」


 場所の中から聞こえてくる、少し暗めの声に答える。
 あんなことがあったのだ、さすがに貴族とはいえ堪えるものがあったのだろう。


「すみませんでした。まさか、あんなことになるとは思ってはおらず……」

「いや、最善を尽くしてくれたのだ。何も謝ることはない」

「いいえ、あんな光景を……いえ、言うべきことではありませんでした。今は王城へ向かうことを優先しましょう」

「……そう、だな」


 王城に入るまで、俺たちはもう会話をしなかった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「おお、これはカープチノ公爵。わざわざこちらへ来てくださるとは……」


 この国の王である壮齢の男は、現れた俺たち三人組の一人を見ながらそう言った。

 えっ? 死んでないからな。
 ちょっと汚い花火を見て、ここに来る寸前まで気絶していただけだ。

 お父さんと同じくそんな光景を見た挙句、あまりのショックに白目を剥いて気絶する父の姿を見せてしまったこと……くっ、悔やんでも悔やみきれない(笑)。


 さて、舞台はすでに王の間。
 この国の王は座して俺たちを待ち受け、この場には兵士たちが詰め寄っている。
 もちろん、正規や非正規は問わずの大集合だけど。


「今回の件、説明をしていただけるのだろうな──カープチノ公爵?」

「ええ、そのために来たのですから」

「……状況は理解しているはずだろう。なぜそのように、笑っていられる」

「この問題はささいな行き違いが理由でございます。ですので、それを解きましょう」


 すでにあちらも、戦争かそれに準じた行いの準備を始めているのだろう。
 だからこそ、のこのことやってきたカモを捕らえるために集まってきている。

 ……侍従は馬車で隠れているので、ほぼ確実に安心だろう。
 そしてここは──俺と魔剣が居る、それがここを安全な場所となる。

 当主はそれを理解し、信じてくれた。
 だからこそ、俺も偽善者らしく少々強引でもやるべきことを成そうと思える。


「まず、今回の発端となった奴隷に関する事件。私たちカープチノ家の紋章が付いたという武器。そのことから、スリースの意志であるとお考えになったのですか?」

「その通りである。故に、事情を訊きにしていたのだが……そちらから弁明をしていただけるとはな」

「はっきりと申しましょう──今回の件、私たちカープチノ家とスリース王国はいっさいの関与をしておりません」

「ほぉ、そこまで断言をするか」


 まあ、王様もここまで来たのだから強い意志があったのは分かっていただろう。
 刺客が事切れたのは、内部に仕込んだ魔道具で把握していただろうし。


「王よ、カープチノ家の紋章を付けていたという騎士。その者たちは?」

「……残念なことに、追い詰められた彼らは自棄を図った。死骸は回収してあるが……確認を行うか?」

「ええ、ぜひ」


 急展開、というかここまでやるかという流れだ──王城にわざわざカープチノ家の騎士モドキの死骸を運びこんできた。


「アンデッドにならぬよう、こちらで聖水の処理はしておいた。……何か問題でもあっただろうか?」

「武具は、どちらへ?」

「うむ。……持ってこい」

「ハッ」


 兵士が持ってきた武器、さすがに直接の受け渡しは危険なので俺が従者として持つ。
 ちなみに、格好もそれっぽい執事服なのだが……まあ、そこはどうでもいいか。

 たしかに受け取った武具には、予め教わった紋章が刻まれている。
 かなり年季の入った物を予想していたが、すでに一部研ぎ直されているようだ。


「当主様、こちらでございます」

「……どうだった」

「ええ、準備は万端です」

「そうか──王よ、一つ宜しいですか?」


 当主は俺から武具を、そしてある作戦の成功の有無を確認し、王に申し上げる。
 そう、すでに解決の糸口は見つけており、たった今それは確証となった。

 ──さて、ダウンロードしないとな。


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