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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その13

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《イテルナ寒地の『エンシェントマンモス』を討伐しました》
≪ただいま、イテルナ寒地のエリアボスが討伐されました。これにより、これからイテルナ寒地に出てくるエリアボスの強さは、通常通りとなります。皆さま奮ってご参加ください≫

《初討伐称号『エレファントスレイヤー』を入手しました》
《ソロ初討伐称号『エレファントスレイヤー・ソロ』を入手しました》
《初討伐報酬『水汲み象鼻』を入手しました》
《ソロ初討伐報酬『富の象牙』を入手しました》


 古代の人々──つまり俺たちのご先祖様はマンモスを喰らって生きてきた。
 それはつまり、遺伝子レベルでマンモスは旨いという情報を受け継いで来たということに相違ない。


「焼きマンモス……ジュルリ」


 あくまで自分用ということで、複製魔法でコピーした肉を焼いてみた。
 調理は拡張した馬車の中で……キッチンも設備してあるからやることは可能。

 マンモスを食べた経験などないので、すべて生産神の加護に任せて調理を行う。
 時間が経つと火の通り具合を確かめ、逆さまにしてまた火を通す。

 そして塩コショウを振って──完成だ。


「……食べるのかね、それを」

「経験ですよ。少なくとも、食べられるかどうかの確認はしてあります。その結果、食べること自体はできると分かりましたので」

「……そ、そうかね」


 どこからか、ゴクリゴクリと生唾を嚥下する音が複数聞こえる。
 それは目の前の貴族からであり、遠くで様子を窺う令嬢であり、彼らに付き従う侍従であったり……いや、ここは無視だ。

 ナイフとフォークで綺麗にカットした肉からは、香ばしい匂いと肉汁が溢れる。
 そしてフォークを突き刺し、それを口の中に入れる…………うん、旨いな。


「程良い弾力が押し返す感触が、なんとも言えない心地を出すな……それに、なんだか香草みたいな味がする……悪くない」


 ずっと前の記憶だが、ゾウの肉はクソ不味いというのを知った気がする。
 だが魔物は仕様からして違うのか、それともマンモスだからなのか普通に美味しい。

 うん、別にタイヤ味のグミなどではない。

 ただ、少々筋張っている感じがするな。
 次に使う機会があるなら、煮込んで柔らかくすればいいか。


『…………』

「あの、どうやら焼くのには適していないようですので、煮込んだ物を今ご用意します。ですので、どうかお待ちください」

『…………』


 鍋を取りだし、適当に肉を突っ込む。
 そこに育て上げた調味料を振りかけ、味付けをしてしばらく煮込んでグツグツと……。


「うん、まあ……旨いな。なんだか舌が肥えすぎている気がするよ」

『…………』

「ど、どうぞ……」


 貴族らしい食べ方でだが、物凄い勢いで煮込んだスープが減っていく。
 ちゃんと食器の準備をしておいて正解だったな……作った料理は普段、皿ごと保存しているんだが、魔道具は見せられないからな。


「……では、お皿を下げますね」

「メルス、料理人として仕えないか?」

「いえ、やりたいことがありますので。それに、あまり料理は上手くありませんので」


 旨いものは作れるが、上手くはないのだ。
 あくまで加護任せ、武器の扱いはかなり補正がなしでもできているが、それでも生産などの器用さを求められる家庭的なことは、全然できないのが実情である。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 スープで温まった体を冷気に晒し、馬車を操り進んでいく。
 ちなみに馬車を引く馬は魔物で、寒さにかなり強い種族となっている。

 そのため、吹雪だろうとなんのそので行進できている……当然ながら高いらしいけど。


「……やっぱり来たか」


 だが、そんな移動を黙って見過ごすほど敵対する一派も優しくないようだ。
 雪に溶け込むような真っ白な外套、そして白塗りのナイフがここでの戦いを想定しているんだと感じさせる。


「いらっしゃいませ、ご客人がた」

「……気づいているようだな」

「わざわざご返事いただけるとは、思っていませんでしたがね。ああ、できればこそこそと二手に分かれないでください。いちいち処理に向かうのが面倒ですので」


 一定の範囲しか索敵できない、そう思われていたのかもしれない。
 吹雪く自然の脅威は魔力を削ぎ、索敵の範囲も格段に狭めているのだから。

 なので、副リーダーっぽいヤツがこっそりと遠くの集団にサインを送っていた。
 気配が俺を避け、馬車へ回り込むように移動を始めたのですぐに気づけたよ。


「ご気づきかとお思いですが、すでに屋敷を襲った者たちから事情は訊いております。ですので、こちらも正当防衛として事に当たらせてもらう所存です」

「…………」

「おや、沈黙ですか。いえ、それでも構いませんよ。こちらは当主様の命により、確実にコールザードへ彼らを送ることだけを目的としておりますので──貴方がたの誰が死のうと、契約に支障はありませんので」


 魔剣を抜き、刺客たちに向ける。
 今度は騙された奴らではなく、純粋に仕事のために動いている連中だ。
 一筋縄ではいかないだろう……それでも、俺は魔剣の可能性を信じている。

 ──では、尋問の時間だ。


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