1,056 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と魔剣道中 その11
しおりを挟む屋敷に戻った俺たちは、再び作戦を決めるべく会議を行う。
だがその前に、状況を把握していない令嬢(と俺)への説明がなされた。
「──と、いうことだ。コールザードへ向かい、私が話をすることになった」
「危険です! 父上を陥れようとする輩がどこにいるか分からないというのに、外に出るなどと……」
「屋敷が襲われた以上、どこにいようと危険は変わらん。ならば、メルスが居るこのときこそがチャンスなのだ。彼であれば、いかなる敵であろうと払いのけられるだろう」
「微力ながら、お供いたしましょう」
令嬢の表情が、なんだか『頼まなければ良かったのか?』みたいなものになっている。
だが、これを選択したのは当主であり、誘導なんてしてないんだから勘弁してほしい。
偽善を今さらキャンセルなんて特にだ。
「しかし、移動手段はどうされるので?」
「転移門を、と言いたいところだが無理だろう。すでに確認したが、どうやら一時的に遮断されているらしい」
「そうなると、残りは陸路と空路。しかし今のイテルナ寒地は吹雪の季節だ。残念だが、陸路しかないうえ、厳しい旅だろう」
「空は難しいので?」
魔道具があればどうとでもなるのでは? と訊いたが、どうやらそういう系の飛行船は王族用の品らしい。
しかも、あのエスプレッソ公爵とやらが邪魔をしているので使えないとのこと。
「兵を見せる必要が無い分、行軍染みた真似はせずともよい。だが、最低限の護衛がいなければならない。つまり、何かに紛れての移動は避けておきたい」
「……吹雪に耐えられる馬車はお持ちで?」
「この国、そしてコールザードの貴族や商人であれば必需品だ」
「では……少々時間を取りますが、馬車を偽装するのはどうでしょうか? 乗る馬車を代えるのでも良いのですが、せっかくですので馬車の性能を上げるという方向で」
「ふむ、どういった風にだ?」
なんだか興味を持ってもらえたので、俺が考える理想の馬車プランを説明する。
初めは少し呆れていたが、その実用性を細やかに伝えていくと表情を変わっていく。
「可能なのか、それは。明らかに時間がかかる作業であろう」
「数時間あればどうにか。もう少しよい性能が必要なのであれば、時間もまた多くかかってしまいそうです」
「それだけでも、今は充分だ。すぐに作業に取り掛かってくれ」
「お任せください」
実際に馬車の改造にかかる時間なんて知らないが……生産神の加護を持つ俺にとって、求められる品質がこっちの人基準の馬車であれば、容易く作業できるだろう。
──さぁ、両国の平和のためにもお仕事を進めないと。
◆ □ ◆ □ ◆
イテルナ寒地
令嬢が言っていた通り、吹雪が馬車に吹きつけてくる。
スリース王国から北に出た先では、奥が見えなくなるほどの猛烈な雪が吹いていた。
道の整備はしていないのかと訊ねれば、結界などが意味を成さない特殊な雪なんだと返答をもらう……魔力を奪うらしい。
少し興味が出て外に出れば、たしかに雪に触れた所から熱と共に、魔力が体外へ放出されてしまった。
かつて終焉の島で経験したように、これもきっといい魔法に眷属たちがしてくれよう。
閑話休題
「……信じられん、まさかこの旅がここまで軽快に進もうとは。車輪はいったいどのようにして回っているのだ」
「父上、それだけではありません。窓側に居る私でさえ温もりが感じられます。どうやら寒さを通していないようです」
「──いかかでしょうか、私が手を加えた馬車の居心地は?」
「素晴らしいものだ。メルス、君には戦闘の才だけでなくモノ作りの才もあるのだな」
単純な話、付与魔法と貴重な魔物の素材や鉱石を使って加工しただけだ。
あとは内側の空間を拡張したうえで、外との距離感を少しズラす……これだけで寒さはほとんど防げた。
「お褒めいただき、光栄です。ですが、これはあくまで簡易の防壁。時間が無かったため防御しかできませんでした」
「……ちなみにだが、もし時間があったのであればどのような物に?」
「攻撃に対応した迎撃ができる魔道具になっていたでしょう。念のため空を駆けれるようにしたうえで、転移による屋敷への帰還もしてあったかと……」
「そこまでは……せずともよかったな」
どうやら、やりすぎになるところだったみたいだ。
まあ、強引にやるのが偽善なのだから勝手にやってもいいと思うんだが……時間が無くて残念だよ。
「しかし、防御だけであればある時間で最大限まで凝らしました。何か問題があれば、すぐにこの馬車の中へ逃げ込んでください……念のため、こちらを」
「これは……指輪か」
「致死の損傷を受けた場合、その場に仮初の死体を生成して本人を馬車へ転移させます」
「またなんとも……遺物のような品を」
迷宮のような場所から、いちおう転移系のレアアイテムはドロップする。
ただ、DPの消費は半端ないからな……宝箱のランダムドロップじゃないと、都合よく手に入れられないんだよ。
「まもなく、目的地となります。一度、当主様がたには待機してもらいます」
「……本当にやるのか?」
「いい手土産になるでしょう。また、私もそれを果たせば都合がよいのです……偽善ですよ、偽善」
馬車を降り、先に準備を行う。
しばらくすると道を逸れ、そこで馬車は動きを止める。
──さて、一狩り行こうぜ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる