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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と魔剣道中 その08
しおりを挟む「──国より人々を攫い、奴隷として売り捌いた一族だ」
「違う! 私たちはそんなことしてない!」
「ふざけるな! 貴様らの紋章を付けた騎士たちが確認されている! それでも白を切り続ける気か!」
「知らない、知らないんだ! 父も関わっていない、本当なんだ!」
嘘を見抜く機能は無いので、魔剣と俺は沈黙を貫く。
軽い気持ちで侵入したら、最悪国家間の戦争になるんじゃないかって展開に巻き込まれてしまった。
「お父さんは……そちらの方ですよね? そのことを、お認めになられたのですか?」
「いや、まだだ。だが、強く吐かせれば大人しく真実を告げるだろう。そのために、まずは娘を……というタイミングで、貴様がこの場に現れた」
「なるほど、そういうことでしたか。状況が理解できました」
刺客も令嬢も、俺がどちらの味方に付くのかを気にしている。
逆の勢力に付いたなら……という考えを膨らませているな。
「では、一つ。刺客の皆様に質問を」
「…………なんだ」
「貴方たちの国を騎士が襲った。この家の紋章を飾る、そんな輩が……さて、それは本当にこの家の騎士なのでしょうか?」
「そうに決まっている」
凝り固まった固定概念。
騎士とは忠誠を誓った家の紋章を装備のどこかに付けておく、それが誓った証となるという考え方。
それだけではないんだが、そういう常識があったのもこれの理由の一つなのか。
「続いてご令嬢に。貴方がたの紋章は、単純に並みの鍛冶師が再現できますか?」
「……いや、できない。貴族の紋章とは、特殊な付与魔法がかけられている。しっかりと調べればすぐに分かるだろう」
「では次に、紋章自体を他国に知られている心当たりは?」
「他国との外交を執り行っている。故に、それが原因だろう」
まあ、外交官でしたか。
それはそれは、とてもいい職をお持ちで。
偽善のし甲斐があるってものですよ。
「最後の質問です。これはお二方たち双方に問いましょう。かつて、騎士の剣が欠けてしまうような機会は?」
「……先々代の話だが、国全体の騎士たちを向かわせて魔物の鎮圧を行ったことがある」
「では、付与魔法や紋章が正しいものだとして、本当にその騎士の剣が現在の騎士たちが使うものだったのですか?」
「…………まさか」
ガテンがいったのか、わなわなと震えだす刺客たち。
少なくとも、隊長は正しい判断が必要とされていたのか。
「騙されていたと……貴様は、これが陰謀だとでも言いたいのか」
「魔力に注意を凝らして、貴方がたを見てみました。するとどうでしょう、靄のようなものが貴方たちを包んでいますよ」
「……これは……」
「いえいえ、言いづらいことを強要させるようなことはしません。契約でしょう? 貴方がたの忠誠の証、思考を持たぬ人形に成り下がるための」
冷静に話を聞いていた隊長格。
しかし、さすがに言い方が不味かったのか顔が赤くなっていく。
だが行動には移らなかった──それよりも早く、部下が動いたからだ。
「──“絶命”」
「危ないっ!」
鋭い一撃を刺客の一人が向けてくる。
令嬢の所に居た者だったので、重みを失い自由を取り戻した彼女はすぐに声でこちらに勧告してきた。
「しかしまあ、これが真実ですよ」
「っ……!」
「口止めでしょうか? 後続の方が命令にかかりやすいのかもしれませんね」
「貴様、いったい何を──」
サクッと殺さずに精神へ負荷をかけ、昏倒させておく。
隊長以外も少しずつ意識が薄まり、俺への苦痛を失っていたのでセットで気絶させる。
……俺への苦痛を失った時点で、それはこの場にいないことを意味するからな。
「さて、話を戻しましょう。彼らがこうなるためのトリガーはいくつか推測できますが、知った者を殺すことは間違いありません。貴方のような歴戦の猛者ならいざ知らず、それ以外の者は抵抗力も低いですので」
「……バカな、そんなはずは」
「──ない、と言いきれますか? 貴方は部下からの信用が無いような人とは思えませんので……さあ、一時降伏してください」
彼は黙って武器を手放し、頭を下げた。
俺はそれに軽く頷き──剣を振り下ろす。
◆ □ ◆ □ ◆
「お話いただけるでしょうか? 当主である貴方であれば、もう少し込み入った事情を理解していると思いますので……」
「君は恩人だ。だが、だからこそ伝えられないこともある」
「父上!」
「娘よ、彼の強さは理解した。だが、そのような者が何も背負っていないとでも? 巻き込んではいけない、この問題を乗り切るのは私たちカープチノ家の試練なのだ」
お父さんは立派な人格者だったようで、偽善者をなかなか頼ろうとしない。
まあ、目を覚ました直後に首に剣を振り下ろすシーンとか見て気絶したし、戦闘力があるかどうかは別だろうけど。
「ご当主様。お恥ずかしいのですが、私は偽善を性分としております。ですので、そのような心配をする必要はございません?」
「そうなのか。だが、その偽善が救ってきた者もおるだろう。事実、私たちは今回それに救われた。誰かが助けてくれる、それだけで人は救われる……こんな場所ではなく、君はもっと多くの者のために動くべきだ」
「……貴方のようなことを言ってくれる者はそう多くありません。だからこそ、そういった方を救うのもまた、偽善者の役目です」
「お願いです、父上。どうかこのお方の力を借りてください!」
なんだか別の意味で疲れた交渉は、最終的に当主が折れる形で成功する。
そして、今回も問題が露見した──。
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