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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その07

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「──偽善者です。貴方がたをお救いに参りました」


 これを合言葉に、屋敷中を回っていく。
 侍従や衛兵などが倒れており、脚に傷を負わされ身動きが取れずに苦痛に喘ぐ声が、この建物の至る所で聞こえてきた。

 その一つ一つに巡ると、ポーションをかけて傷を癒すと屋敷の外へ送る。
 一度も侵入者と会わなかったのは、すでにグループが例の拷問対象の下に集結していたからだろう。

 感謝されたり罵られたり、あとは無視されたりといろいろとあったが……偽善者らしい仕事ができているこちらとしては、どんな反応でも嬉しいという、少々危ない領域に立っていた気がする。


『苦痛はあと一つだ。まだ息がある』

「そうだなー、けどまだもう一人分反応があるんだよな。苦痛じゃないナニカを感じているから分かりづらいんだろ」

『向かわないのか?』

「本当なら、そっちの理由も知りたかったんだが……まあ、それは救ってからでも別に構わないか」


 コツンコツンと進む足音が、誰もいない屋敷の廊下を木霊する。
 それは耳のイイ奴に気づかれ、すぐに数人がこちらへ派遣された。


「「「「…………」」」」

「初めまして、偽善者です」

『精神操作の類いか。だが残念だな、我々にはそれを無効化する魔道具がある』

「さて、それはどうでしょう?」


 などと会話をしている間に隠れて近づいていた刺客を、そのままノールックで魔剣の餌食にする。
 刺し所が悪かったのか、精神への負担が強かったらしく──そのまま相手は気絶した。


「おやおや、このような場所でお眠りになるとは。貴方がたは、さぞ立派に訓練されているようですね……えっと、お外で長い間かくれんぼができるんですよね?」

「「「…………」」」


 冷静さを欠かないよう、必死に耐えようとしているのが滑稽だ。
 そのためにストレスを抱き、俺にそれを教えてくれるのだから実に愉快。

 今度は連携攻撃を不意から行う。
 なので、気絶した奴を投げつけて意識を逸らし、隙を見せたら両方を斬っていく。
 忘れる必要は無いので、門番に掛けた作業はカットできる……そのまま気絶しておけ。


「おや、またお眠りに……どうしますか、代表さん?」

「…………」


 闇の中に溶け込むと、俺の死角から飛びだそうと角度を調整している。
 しばらくそのまま時間が経ち、集中力が切れたと思った瞬間に──出てきた頭に剣を刺し込む。


「ふむ、なるほど……」


 頭を刺されたまま体が動き、剣が身から離れないようにガシッと固定してくる。
 理由は簡単、出てきたのがダミーで次が本命だからだ。


「死ね」

「シンプルなラブコールですけど……すみません、私には生涯を共にしたい相手が何人もいますので」

「なぜ……ぐはぁっ!」

「──“力場霧散”。無駄な足掻きですよ」


 拷問時に助けが来ても、また本人が凄まじい力を秘めていてもいいように付属されていたスキル。
 一定の範囲内に居る者の、力が上手く操作できないように妨害するのだ。

 対象外は持ち主と鞘で叩いた者のみ、あとは誰であろうと力を上手く使えず逃げられないまま拷問に遭う。
 まあ、弱点は遠距離攻撃の無効化とかには使えないことだな……これができれば、もう拷問とか関係なく使えただろうに。


「拷問はまた後で行いましょう。それまでは夢の旅へ行ってもらいます」

「くそが……」

「それでは、好い旅をー」


 残っていた意識を引き剥がし、強制的な眠りに着かせる。
 さて、いったいここで何をしているのか、偽善者さんに教えてもらいましょうか。





 開いた扉の先には五人居た。
 一人は鎖で縛られ、一人は組み伏せられ、一人は二人目に乗っかり、残った二人は鎖で縛った者を嬲っている。


「……えっと、お邪魔しました」

「ま、待て! 行かないでくれ!」

「おや、それは申し訳ありません」


 組み伏せられていた二人目──女性が必死に声を上げる。
 跨っていた者はその行動に怒り、殴りつけようとするが……突然糸が切れたように動かなくなり、女性の顔に向かって倒れ込む。


「……何者だ」

「ただの偽善者ですよ、少しばかり腕が立つだけの」

「この状況が分からないのか? この男を殺されたくなければ、大人しく武器を置け」

ノーと答えたら……?」


 ナイフをチラつかせ、男──貴族っぽいヤツの首に向ける。
 少し前まで刺客を退かせと喚いていた二人目だったが、状況に気づいて沈黙した。


「私はまだ、状況を掴めていないんですよ。お嬢さん、貴女と彼の関係性は?」

「こ、この状況でか!?」

「ええ、あそこのお方が痺れを切らす前に分かりやすくご説明ください」

「私はカープチノ家の令嬢、あそこに居るのは父で現当主──」


 それだけ言うと、もう痺れを切らした刺客が持っていたナイフを一本投げてきた。
 ふむ、これだけで状況を正しく判断しないといけないのか。


「最後に一つだけ……刺客さん。貴方たちにとって、彼らは絶対に殺さなければならない理由があるのですか? 場合によっては、何もせずに帰ります」

「そんなっ!」

「……本気か?」

「私は偽善者、と仰ったはずですよ? 聖人のような振る舞いは致しません」


 ふむ、と悩みだす刺客。
 嘘を吐いた場合と、真実を告げたときのリスクでも計算しているんだろう。
 ここで不意打ちをしてもいいが、それはさすがに偽善者とは言えまい。

 そんな風に悩んでいると、刺客は答えを決めたのかこちらを見てくる。


「コイツらは──」


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