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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その06

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 結界による温さは、中央に行けば行くほどちょうどよくなっていく。
 つまりそこに位置する王城は、常にベストな温度で管理されているわけだ。

 恩恵は、その周辺に建物を建てる貴族たちにも及んでいる。
 ドーナツ状に層分けされ、彼らのエリアは中央から二番目に近い場所だ。


「……見覚えのある場所はあるか?」

『いや、無いな』

「そんな簡単に見つかるとは思っていない、焦らずにいこうぜ」

『そう、だな』


 口(?)数が少なくっているが、それだけ意識を向けているということなんだろう。
 自分の主が居た場所を探す──想念おもいから生まれた魔剣にとって、このイベントはとても重要なことなのかもしれない。

 偽善者として手伝いたいところだが……少なすぎるヒントに悩むところだ。

 ・拷問のスペシャリストに育てられた
 ・心が優しい
 ・寒い所が苦手

 この三つしか無いのに、いったいどうやって情報を特定すればいいのだろうか。
 魔剣の精神に潜り込む、というアイデアもあるにはあるが……それはまだやらなくてもいいと思う。


「どうにかならないものかな? なあ、あの三つ以外に心当たりは?」

『……私はあくまで魔剣、当時は担い手の愛剣でしかない。肌身離さずとは言っても、さすがに限度があった』

「担い手さんのすべてを知っているわけじゃない、そういうことか。というか、ずっと疑問に思ってたんだが……なんで拷問にお前みたいな長剣が使われるんだ?」

『実際に使われたことがないからな。案外、拷問以外のことにも携わっていたというのが真実なのかもしれない』


 つまり、生業は拷問に限らないと……前提条件から考え直さないといけない気がする。
 まあそこから絞れば、某一族代々的な殺人一家かもしれないな。


『……仮初の契約者よ』

「……ああ、分かっているさ」


 考え事もつかの間、どうやら厄介事がこの国で起きているようだ。
 まだプレイヤーが着いていない場所、つまり前提条件として救われない者を用意してのシナリオがある可能性が高い。

 ──もちろんそんなとき、偽善者はバリバリで働きますよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 魔剣が持つ苦痛感知スキルが、受動的パッシブに働くことで分かった案件だ。
 すぐに能動状態アクティブに切り替えて効果を高めると、現場へ急行する。


「まあ、貴族様のお屋敷だろうな。だって、まだそのエリア内だし」

『行くのか、行かないのか』

「はいはい、行きますよ。魂魄が飛んでると蘇生するもどすのも面倒だし、早く行ってサクッと治しておこう」


 入口に見張りが居るが、やり取りをしていると危険な兆候に入るので押し通る。
 魔剣に魔力を纏わせると、そのまま立っている二人組に近づき──


「おい、貴様。この屋敷に何の用──」

「“無幻痛撃”」

「ぐぁああっ!」

「お、おい! お前、いったい何ぐぉっ!」


 幻の痛みに苦しみ、もがき始めた。
 やがてそれに耐えられなくなると、そのままパタリと倒れて気絶する。
 ──装備固有武技“無幻痛撃”、魔力を流している間は相手を殺さずに、精神へ付加をかけるだけという拷問向きの技だ。

 つまり、不殺を貫ける。
 魔剣を鞘に収め、今度は頭にその鞘ごとぶつけて──


「“忘収封打”」


 その魔剣の銘は『黒鍵魔剣』。
 示す通り『鍵』であるその魔剣は、対象の秘密を開き閉ざす力を有する。
 ……まあ、要するに拷問されたことを、本人に感じさせないという能力だ。

 今回の場合は、俺が侵入してきたことを忘れる……ついでにポーションをぶっかけ、気絶から戻すところまででワンセットだぞ。


「とまあ、こんな使い方でどうだ?」

『……回復させる必要はあったのか?』

「それは簡単、俺の偽善だ。職務放棄は怒られるだろうけど、そこは我慢してほしい」

『させた者が、よくもまあそんなことを』


 その力を持つ本人(魔剣)が言うことではないと思うが、使っている奴によってロクなことをしないのは前任者によって分かり切っていることだしな。


「感知の方はどうなってる?」

『ふむ、座標は変わっていない。この苦痛からして……』

「拷問か?」

『おそらくな』


 拷問のための魔剣だ、苦痛の発し方でそれがどういった苦痛なのか分かるのだろう。
 自分で作成したり創造した武具ならともかく、そうでない魔剣のスキルは完璧に使いこなせない。

 ──適性、ほとんどないからな。


「屋敷の中に乗り込む。俺が把握している数だけでも、単独じゃないことぐらい分かる」

『最初から向かうか?』

「俺は偽善者だ。ギリギリのタイミング……それこそ救われれば感謝されるぐらいの時間で救いたい。だから、先に目的地以外の場所で活躍を示そう」

『……お前……』


 軽蔑はされていない。
 だが、なんだか残念なものを見ているように扱われている気がする。
 クソ野郎なら、これまで何人も使い手として見てきたんだろうな。


「ほらほら、さっさと行こうぜ。血から情報が取れれば、相手がどこから来て何が目的かどうか分かるだろ?」

『……そうか。それがやり方というのであれば、それでもいいのではないか?』

「どうせなら、認めてもらいたいんだよ。それに、俺は偽善者だが無駄な犠牲を出すとは一言も言ってないぞ」


 最初から、誰かを犠牲にするなんて選択は存在していないんだよ。


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