1,051 / 2,519
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と魔剣道中 その06
しおりを挟む結界による温さは、中央に行けば行くほどちょうどよくなっていく。
つまりそこに位置する王城は、常にベストな温度で管理されているわけだ。
恩恵は、その周辺に建物を建てる貴族たちにも及んでいる。
ドーナツ状に層分けされ、彼らのエリアは中央から二番目に近い場所だ。
「……見覚えのある場所はあるか?」
『いや、無いな』
「そんな簡単に見つかるとは思っていない、焦らずにいこうぜ」
『そう、だな』
口(?)数が少なくっているが、それだけ意識を向けているということなんだろう。
自分の主が居た場所を探す──想念から生まれた魔剣にとって、このイベントはとても重要なことなのかもしれない。
偽善者として手伝いたいところだが……少なすぎるヒントに悩むところだ。
・拷問のスペシャリストに育てられた
・心が優しい
・寒い所が苦手
この三つしか無いのに、いったいどうやって情報を特定すればいいのだろうか。
魔剣の精神に潜り込む、というアイデアもあるにはあるが……それはまだやらなくてもいいと思う。
「どうにかならないものかな? なあ、あの三つ以外に心当たりは?」
『……私はあくまで魔剣、当時は担い手の愛剣でしかない。肌身離さずとは言っても、さすがに限度があった』
「担い手さんのすべてを知っているわけじゃない、そういうことか。というか、ずっと疑問に思ってたんだが……なんで拷問にお前みたいな長剣が使われるんだ?」
『実際に使われたことがないからな。案外、拷問以外のことにも携わっていたというのが真実なのかもしれない』
つまり、生業は拷問に限らないと……前提条件から考え直さないといけない気がする。
まあそこから絞れば、某一族代々的な殺人一家かもしれないな。
『……仮初の契約者よ』
「……ああ、分かっているさ」
考え事もつかの間、どうやら厄介事がこの国で起きているようだ。
まだプレイヤーが着いていない場所、つまり前提条件として救われない者を用意してのシナリオがある可能性が高い。
──もちろんそんなとき、偽善者はバリバリで働きますよ。
◆ □ ◆ □ ◆
魔剣が持つ苦痛感知スキルが、受動的に働くことで分かった案件だ。
すぐに能動状態に切り替えて効果を高めると、現場へ急行する。
「まあ、貴族様のお屋敷だろうな。だって、まだそのエリア内だし」
『行くのか、行かないのか』
「はいはい、行きますよ。魂魄が飛んでると蘇生するのも面倒だし、早く行ってサクッと治しておこう」
入口に見張りが居るが、やり取りをしていると危険な兆候に入るので押し通る。
魔剣に魔力を纏わせると、そのまま立っている二人組に近づき──
「おい、貴様。この屋敷に何の用──」
「“無幻痛撃”」
「ぐぁああっ!」
「お、おい! お前、いったい何ぐぉっ!」
幻の痛みに苦しみ、もがき始めた。
やがてそれに耐えられなくなると、そのままパタリと倒れて気絶する。
──装備固有武技“無幻痛撃”、魔力を流している間は相手を殺さずに、精神へ付加をかけるだけという拷問向きの技だ。
つまり、不殺を貫ける。
魔剣を鞘に収め、今度は頭にその鞘ごとぶつけて──
「“忘収封打”」
その魔剣の銘は『黒鍵魔剣』。
示す通り『鍵』であるその魔剣は、対象の秘密を開き閉ざす力を有する。
……まあ、要するに拷問されたことを、本人に感じさせないという能力だ。
今回の場合は、俺が侵入してきたことを忘れる……ついでにポーションをぶっかけ、気絶から戻すところまででワンセットだぞ。
「とまあ、こんな使い方でどうだ?」
『……回復させる必要はあったのか?』
「それは簡単、俺の偽善だ。職務放棄は怒られるだろうけど、そこは我慢してほしい」
『させた者が、よくもまあそんなことを』
その力を持つ本人(魔剣)が言うことではないと思うが、使っている奴によってロクなことをしないのは前任者によって分かり切っていることだしな。
「感知の方はどうなってる?」
『ふむ、座標は変わっていない。この苦痛からして……』
「拷問か?」
『おそらくな』
拷問のための魔剣だ、苦痛の発し方でそれがどういった苦痛なのか分かるのだろう。
自分で作成したり創造した武具ならともかく、そうでない魔剣のスキルは完璧に使いこなせない。
──適性、ほとんどないからな。
「屋敷の中に乗り込む。俺が把握している数だけでも、単独じゃないことぐらい分かる」
『最初から向かうか?』
「俺は偽善者だ。ギリギリのタイミング……それこそ救われれば感謝されるぐらいの時間で救いたい。だから、先に目的地以外の場所で活躍を示そう」
『……お前……』
軽蔑はされていない。
だが、なんだか残念なものを見ているように扱われている気がする。
クソ野郎なら、これまで何人も使い手として見てきたんだろうな。
「ほらほら、さっさと行こうぜ。血から情報が取れれば、相手がどこから来て何が目的かどうか分かるだろ?」
『……そうか。それがやり方というのであれば、それでもいいのではないか?』
「どうせなら、認めてもらいたいんだよ。それに、俺は偽善者だが無駄な犠牲を出すとは一言も言ってないぞ」
最初から、誰かを犠牲にするなんて選択は存在していないんだよ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる