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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その05

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《エーリム氷原の『フィルンウルフ』を討伐しました》
≪ただいま、エーリム氷原のエリアボスが討伐されました。これにより、これからエーリム氷原に出てくるエリアボスの強さは、通常通りとなります。皆様奮ってご参加ください≫

《初討伐称号『ウルフスレイヤー』を入手しました》
《ソロ初討伐称号『ウルフスレイヤー・ソロ』を入手しました》
《初討伐報酬『ライ麦狼の種』を入手しました》
《ソロ初討伐報酬『白狼真像』を入手しました》


 こんがりと焼けた狼たちを解体し、一段落着けるようにした。
 すべて複製したうえで、魂魄は魔剣の中で保存している……もしよかったら、氷系のエリアに住み着いてほしいものだ。


「さて、これで先に進めるな」

『無傷とは、ずいぶんと余裕なのだな』

「余裕なんてないが、そういう風に見せないとダメなんだよ。知っての通り、俺はハーレムの主様だからな」

『傷つく姿を見せれば、苦しむ者が居ると。やはり考え方に不遜が出ているぞ』


 誰かに傷つけられ、その結果俺と会うことになった者もいる。
 苦しみもがいて俺の手を掴み、仮初とはいえ安住の地を得られた。

 だからこそ、楽園で無ければならない。
 望まない干渉を撥ね退けるだけの強さがあると、証明し続ける必要があった。


「それに、契約者は長生きしてくれた方が楽しいだろ?」

『さてな、案外新たな契約者を探すことに生き甲斐を感じているかもしれないぞ』

「おっと、それは手厳しい」


 魔剣の柄をポンポンと二回軽く叩き、そのまま北に向けて歩を進める。
 迂回をしている者が居なければ、誰も行ったことのない未開の地のはず……さて、どんな場所なんだろうか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 スリース王国


「『ユニーク』ぅうううううううぅっ!」

『どうした、そこまでのことか?』

「ハァ……。いや、そうだな。アイツらは俺が頼んだ通り、仕事をしてくれているだけだし。ある意味、悪いのは俺自身だったか」


 すでに空を翔けた『ユニーク』の船が、この地に辿り着いていたとのこと。
 船は一隻しかないはずなんだが、まさかもう北にまで進出していたとは……。


「あの、どうかされましたか?」

「ああいえ、ちょっとした発作です」

「は、はぁ……本当に大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。それで、その集団は結局どうされましたか?」


 雪国で少しお高めのお野菜を買いながら、情報収集を行っていた。
 店のおばさんからちょうど、空から現れたギルドの面々について訊いていたところだ。


「なんでも、魔本を探しているようでね。誰かが困っているのを助けると、見返りに魔本のことについて訊いていたわ。けど、知らなくても一度は助けてくれるのよ、おばさんも野菜の収穫を手伝ってもらったわね」

「なるほど、それは好い方たちでしたね」

「そうなのよ。たしか、王城までそれを訊き終えたら、帰るって言っちゃって……みんな必死に食い止めたんだけれど、やっぱり冒険者は一つの所に留まらないのが普通かしら」

「きっとどこかで、その質問をしながら誰かのために働いていますよ」


 見つかるまで永遠に、俺のためにな。
 なんてゲス顔で言ってもよかったが、噂が八十日ぐらい蔓延されても困るのでそのまま綺麗に纏めておいた。

 買った『リンプル』という林檎みたいなフルーツをシャクシャク食べながら、街の中を歩いていく。
 往来を歩く者たちは、重ね着などせずに皆普通に長袖長ズボン程度の格好でいる。

 この国『スリース王国』は小国、外界の寒さから結界によって生き残っている場所だ。
 それ以前の経験から国民のほぼすべてが耐寒スキルを持っているおり、そして遺伝的に寒さに強くなっている。

 そのため格好も、南極や北極で着込むような重装備でなくとも彼らは生きていた。
 ……結界の中でも、まあ一桁台の温度ぐらいだと思うんだがな。


「さて、魔本の調査はやってくれたみたいだし……俺たちは遊ぶか」

『…………』

「どうかしたのか?」

『……なぜだろうな、不思議と既視感を覚える光景なのだ』


 魔剣はどうやら、この街(のような場所)に何やら覚えがあるようだ。
 つまり、寒い場所……たしか、寒がりの担い手だって言っていたな。

 なぜここでデジャビュが起きたか、それはさすがに分からない。
 だがそこに、意味がまったくないというわけではないだろう。


「たしか、担い手さんはどこかのお偉いさんだったんだっけ?」

『ああ。担い手は拷問の技術を学ばされ、それに順じた教養を受けていた。それができるのはただの平民ではないだろう』

「そうだな……たしかに難しい」


 不可能ではないが、貴族の方がその確率は高いだろう。
 拷問の教育というのであれば、王家お抱えの貴族という可能性が的に入ってくる。


「ここだと決まったわけじゃないが、とりあえず寒い国だってことなんだよな?」

『……おそらく……』

「手当たり次第に探すしかないか? なんだか最近、探し物だけが増えてる気がするよ」

『恩に着る、仮初の契約者よ』


 魔剣を再び優しく叩き、貴族の居そうなお高い住居が並ぶエリアに向かう。
 もう一度、既視感ってヤツを覚えてくれればいいんだけどな。


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