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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と魔剣道中 その02

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 今回の縛りは魔具縛り。
 魔武具まで許諾すると全然縛られていなくムテキになるので、魔道具としての許容範囲内である魔具までとなっている。

 剣もまた、魔具の一種だ。
 ただし、これはただの魔剣ではなく──


『仮初の主よ。ずいぶんと待たせたな』

「強制しなかったではないか。研究に協力してくれたこと、感謝する」

『……使われない魔具など、存在価値を失ったも同然。主が望むことに応じるのは、使命のようなものだ』


 数ヶ月前のことだ。
 一人のプレイヤーが持っていた魔剣を、俺は【強欲】のままにパクった。
 そしてそのまま契約し、自分の魔剣として扱い……実験に協力させる。

 能力として存在した拷問の力、それらを解析して誰でも使えるように。
 魔剣の方も詳細は語らなかったが、そうなることを望んでいたのであっさりと自分の力に関する情報を教えてくれた。

 それからずっと、一部の関係者と共にこの魔剣を量産できるようにしていたわけだ。
 自分が使われなくなるはずなのに、物凄く協力的で最初は怪しかったんだが……まあ、研究者の一人が聞いた情報で、それにも納得がいったさ。


 閑話休題いろいろとあった


 さて、舞台は夜の平原だ。
 三匹の黒狼が、俺を美味しそうなご馳走かナニカだと思って睨み付けている。
 よくよく考えれば、毎度お馴染み嫌われスキルの<畏怖嫌厭>さんが発動したのかもな。


『私は戦闘には向かないぞ』

「丈夫ならそれでいいさ。契約を交わした魔剣は、お前一本しか無い。なら、少しぐらい手伝ってくれてもいいだろう」

『……そうだな、恩義には報いよう。使うと言うのであれば、好きに振るうがよい』

「ああ、感謝するよ」


 ちなみにだが、意思のある魔剣は魔力伝導率が高い。
 つまりは杖代わりに使えるし、魔力を籠めれば威力の高い斬撃が放てるわけだ。

 ただ、非協力的な場合はその回路を閉ざそうとするので、普通の剣より少しマシぐらいにしか感じられないらしいけれど。


『GAWOON!』
『『UWOOOON!』』


 三体による連携攻撃。
 薄暗さを上手く使い、俺の死角に潜りこもうと目まぐるしい動きを行っている。
 最初はバカ正直に首や体を動かしていたのだが、ちょっと飽きてすぐに止めた。

 そしてそれを追えなくなったのだと勘違いし、飛びかかってくる。
 鋭い牙や爪は、少し強い程度の冒険者であればあっさりと殺す……それが三つ同時に、俺の下へ──


「そいやーっと」

『『『GYAIN!?』』』


 届く前に、魔剣を振るう。
 ティル師匠から薫陶を受けた俺が、神獣や聖魔獣でもない犬畜生に負けるはずがない。
 これは【傲慢プライド】でもなんでもない、ただの事実である。


『私の担い手は、剣を振るえなかった。しかし仮初の主は、上手く振るえるようだな』

「……普通、お前の適性を持つ奴って、剣の練習とかしないだろうからな」

『担い手に引っ張られた影響だ。それに、私は剣として使われたいと望んではいない』


 職業やスキルに適性があるように、当然意思のある武具にも適性が存在する。
 俺は(未知適応)の力であらゆるものへ適正があり、魔剣とも契約ができた。

 だが本来この魔剣は──拷問のスキルをかなり有している者でないと、真の契約を交わすことができない。
 仮初の契約の場合でも、ある程度ブラックな精神やスキルが必要とされる。

 ……ああ、思い返せば前に使っていたヤツはスキルの摸倣ができたんだよな。
 劣化とはいえスキルとして使えてはいた、それが条件達成になっていたのだろう。


「さて、解体だな」

『……その短剣は使うのだな』

「ん、【嫉妬】か? ただ、これはコイツにしかできない役割だ。これができる存在を、少なくとも俺はコイツしか知らない」


 解体と言えば『狂愛包丁』。
 そのスキル(完全解体)によって、魔物が持つ能力をも解体することができる。
 ついでに自動解体スキルも使えば、意志を籠めるだけで勝手に解体してくれるのさ。


「よし、これでおしまいだ。さて、どんどん北へ進もうか」

『北か……』

「なんだ、初代の故郷だったか?」

『いや、それは思いだせない。ただ、担い手は寒いのが苦手だと言っていてな』


 そんなエピソードは初耳だったが、そもそもそういう話をしていなかったから仕方がないとも言える。
 ただ、寒がりだったのか……温かい地域に住んでいたのかもな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 トレモロ


 事前学習によると、ここはネイロ王国の管理する都市らしい。
 王都が詩人を大量に排出するように、ここも芸術が尊ばれる場所だ。


「まあ、ずいぶんと個性的な場所だな」

『何なんだ、この場所は……』

「芸術家の街、少々厳格な王都と違ってこっちはモロにそれが出ているんだ。見て分かる通り、派手さもな」


 カラフルな色どりが街並みを飾る。
 外では芸術家たちが自らの才能を誇示し、その美を競うように振る舞っていた。


「別に、ここで何かをしたいと思って来たわけじゃない。あくまで北に行くための中継点として、情報収集のために居るだけだ」


 もちろん、面白いことがあれば少しぐらい滞在するが……まあ、凶運が望む結果をもたらすとも思わないからな。


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