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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と転移魔法開発 前篇
しおりを挟む夢現空間 修練場
帝国のオークションで、一冊の魔本を見つけることに成功したのを覚えているか?
赤ずきんの魔本と同様、そこには複雑な術式が施されているためすぐに分かった。
「ただ、そんなにすぐ行くのもなー」
運営神が関わっている帝国、そこで手に入れた魔本である。
解析班には慎重に仕掛けを暴いてもらっているので、まだ迂闊に手を出せない。
「と、いうわけで魔法開発企画ー!」
「どんどん」「パフパフ……って、何なんだよこれ」
「俺たち異世界人が集まれば、文殊の知恵になると思ってな。ほら、“水鏡転陣”みたいな先例があるわけで」
「まぁ、そうだけどよぉ」
異世界人チーム──俺、アイリス、カナタが今日は集まっていた。
アイリスは例の欺瞞が分かる彼女がやる気になった時点でほぼ暇だし、カナタは普段から暇そうだし……そんなこんなもあって、このチームが結成されたわけだ。
ちなみに今挙がったが、“水鏡転陣”は二人のアイデアを基に生みだされたらしい。
水に映った鏡、というアイデアは普通では浮かばないからな。
「アイデアはあとで纏めていってもらうとして、今回は一気に水以外の七大属性全部に対応する転移魔法を創ろうと思ってな」
「ハァ!? そんな無茶なことを……」
「面白そうだね、わたしも協力するよ!」
ノリノリなアイリスと違って、少し控えめなご様子のカナタ。
羽が生えた彼女はそんな褐色の少女に近づくと、何かをボソボソと告げる。
『……!? お……い、な…………を!』
『……は……のこと、……って思……る?』
『い……じゃ……けど。……それ……も』
野暮なので会話は聞き取らないが、なんだかカナタが顔を赤くしている。
チラチラとこっちを見ているが……ああ、そういうことか。
アイリスはどうやら、自分への好意を利用しているようだ。
それで条件を提示したが、俺が居るということもあって気にしていると。
──まったく、カナタにはコアさんというベストパートナーが居るのにな。
「それじゃあ、始めようか……予め準備してある魔法を、どう改善すればかという話だ」
「全種類用意したの?」
「一部は転移じゃなくて、高速移動い近いけどな。そこら辺は概念の問題だし、仕方ないと思ってるさ(──“地形変化”)」
周囲の環境を変えていく。
火や風はともかく、自然環境が必要となる水や土の準備とかだな。
ミニサイズの湖を二つ用意し、地面を少し頑丈に整える。
「まずは火属性からだな。これは、飛び火を利用した転移だ。だから、湖みたいに登録した火が二ヶ所以上ないと使えない」
トーチのように火を二ヶ所に掲げ、それぞれに移動の術式を刻んでいく。
準備ができたので、片方の火の傍に立って術式を発動する。
「──“飛沫転火”」
一瞬、双方の炎が激しく燃え上がった。
火の粉が舞い上がり、それぞれを繋ぐような懸け橋となる。
俺の視界はそれを見た直後、別の場所へ唐突に移動した。
……まだ未調整とはいえ、普通の者だと耐えられない変化だな。
「どうだったか、今のヤツは?」
「「派手すぎる」」
「やっぱりか……」
そんな感想を抱くのは仕方ないな。
俺だって、激しく炎が燃え盛ったら気になるだろうし。
「炎で注意を引きたいってわけでもないんでしょ? 完全に無駄だよ」
「カッコイイとは思うんだが、怪しまれるよな。それに、火じゃなくて魔道具で明かりを点けているとこだと使えないんだろぉ?」
「まあ、それも問題の一つだ。鍛冶場にでも行けば、昼に限りいちおう可能だろ。あと、魔道具が高いと思うような場所なら、夜でも可能じゃないか? ……うちは無理だけど」
「ああ、全部魔道具だったっけ?」
もちろん、魔道具だけを使って封じられるような場合も対策してある。
だが、それをいま気にする必要はないか。
「それじゃあ次にいこう──“水鏡転陣”」
これはほぼ実用可能な魔法として、眷属とも話し合ってある。
だからこそ、育成イベントの際にも使用していたのだ。
湖に描かれた術式を介して、パッと移る。
こちらには無駄な演出もなく、おまけに言えば水があれば水溜まりでもオッケーという便利な魔法だ。
「うん、これは問題ない」
「水ならどこにでもあるしな」
「ああ、ついでに言えば人から水分を奪う魔法もあるにはある。禁書魔法だけどな」
「「うわー……」」
正しく使えば、それこそ保存食を作るのにも便利なんだがな。
そうして使えないからこそ、禁忌の魔法として記されるようなものとなってしまった。
「次は風でもやっておこうか、これはシンプルに風さえあれば使える魔法だ」
少しズレた魔法とも言える。
風のように赴くまま、行き先はすべて風次第という仕組みだし。
準備として、風精霊に風を吹かせる。
魔法は触媒が必要となるわけで、無風の場所では使いづらいのはいつものことだ。
「さて、どうなるか──“風移渡乗”」
精霊が吹かせていた風が、俺の方へ無理のないように流れてくる。
俺の体はふわりと浮かび、流されるように勝手に動いていく。
やがて風が効力を切らし、自然と着陸するまで……俺はずっと漂っていた。
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