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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と帝国散策 その18
しおりを挟む夢現空間 自室
いろいろとあった帝国散策。
宴もその日の内に幕を閉じ、次の日には奴隷たちの斡旋を始めた。
帰りたいと思う奴隷……はいなかったが、代わりに美味い飯が食べたいと言っている奴が居たな。
ある意味、食べ物の奴隷になっているなと思ったが、周りの者は頷くだけで否定をしてくれなかったのが印象深い。
「自由に振る舞えるって結構楽だよな」
《メルス様は、いつでもそのように振る舞っておりますよ》
「……偽善者らしく振る舞えるよう、ある程度セーブしているつもりだったんだが」
《メルス様が自身を制していることなど、無いに等しいですよ》
そこまで辛辣に言わなくても……と思う自分と、間違ってないなと思う自分がいる。
思い返しても、やりたいようにやるのが偽善者と宣する自分の姿しか思い浮かばない。
「ま、まあともかく、スキルの制限に関しては本当に外れるんだ。楽しめるよ、本当に」
例えば、絶対に外では使わないようになった創造系のスキルもここでなら自在だ。
頭に描いたアイテムを具現化し、その場に浮かべてみる。
「けどまあ、楽しいって言っても一時でしかないんだよな。それならお前らといっしょに居た方が、誰かと居るって思えるし」
《メルス様が仰った通り、誰かと居るのですから納得ですね》
「創造は俺の想像が届く範囲までしか、生みだすことができない。理想のヒロイン、なんてやっても何も出てこない」
《それは喜ばしいです》
アンにそう言われ、少し恥ずかしくなる。
それは俺の想像に限界があるのが原因なんだが、それ以上に眷属に原因があった。
──すでに眷属たちを俺の理想以上の者たちだと、体が理解しているんだよな。
閑話休題
まあ、細かいことは気にしない。
というか、羞恥もすぐに{感情}によっていつも通りの平常状態に戻る。
「ところで、アイリスの所に派遣したあの娘はどうなった?」
「──では、ご説明しますね」
「……まあいいか。好きにしてくれ」
「はい、好きにします」
顕現したアンは、なぜか俺のベッドの上に座って説明を始める。
それを気にするような間柄でもないので、気にせず俺も浮遊スキルで宙に浮かぶ。
「……ベッドに来てくださいよ」
「あいにく、今の俺は平坦だからな」
そう、気にしているわけじゃないのだ。
件の娘の他にも、数十人の奴隷たちを俺の世界へ連れ込んだ。
全員を解放したわけではないが、少なくとも大半の奴隷は解放してある。
「ずいぶんと俺は疑われていたからな。任せたけど、結局どうなったんだ?」
「まず、ティル様に会わせました。類似した能力を持っておりますし、実際共感しておりました。その後はアイリス様と共に、リーン内を巡りました。この時点で、こちらへの疑いは晴れていたようです」
「そりゃあ良かった。どうせ働くなら、あっちから働きたいと思えるような環境にしておかないとな」
「はい。その後、談笑に仕事内容を交えて相談してみましたところ……条件付きで受け入れてもらえました」
彼女のスキルは(欺瞞感知)──あらゆる虚偽に反応するレアスキルだ。
その結果、ティルと違って人間不信状態に半ばなりかけていたようで……カウンセリングを経て、テーブルに着かせるところまではできたみたいだな。
「それで、条件って?」
「自分のスキルを制御できるような品を、用意してほしいとのことです。メルス様が生産に長けていることはご説明しましたので、そういったことも可能なのかと冗談めいた口調で告げておりましたので」
「そりゃあ、なんとも難しい注文を。完全な品は不可能だぞ」
なぜなら、イタチごっこだからである。
まず、スキルを制御するにはその性質を理解しなければならない。
火の魔道具なら(火魔法)スキル、収納袋なら(空間魔法)スキルといったな。
そんな便利な魔道具だ、当然ながら嘘・偽りを看破するような魔道具も存在する。
ステータスを見破るだけ、犯罪者かどうか判別する、ぐらいならまだ簡単だ。
──しかし、欺瞞を見分けるのは難しい。
どのような意識を抱けばアウトなのか、どういった行いが引っ掛かるのか……細かすぎる条件を設定しなければならない。
「あの娘の場合はまだ、生命体が言ったことに関する虚偽を見抜くだけ……だけど、成長させるとあらゆる欺瞞を見抜く」
「この世界も、ですか」
「もともと邪神様に認めてもらっても、在り方が駄目だと称号に記されてたしな。レベルアップしないようにするか、それともそれも承知の上で制御させるかのどっちかだ」
「……相談しておきましょう。ティル様とアイリス様で、よろしいですか?」
肯定し、浮遊したまま移動する。
信頼できる者と、直属の上司となる者から言われれば安心だろう……いくら技術者だからと言って、不審と疑心と虚言と偽装に満ちた俺が関わるのはまだ早い。
せっかく救った奴隷たち、望むのであれば救うのが偽善者の務め。
あの娘がスキルで悩まされるのであれば、それも偽善者として解決しないとな。
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