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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その16

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 訊きだした情報によると、やっぱり買いすぎが原因で派遣されたらしい。
 どうして相応の実力を用意して、競売に参加していると思わないのだろうか?


「というよりも、思いたくもないのかもな」


 完璧超人には付け入る隙が無い。
 少なくとも暗殺者を送りこんできた者たちにとって、俺はそうではない人物だと看做されていたようだ。


「いや、たとえそうでも虚像の隙を狙おうとしてくるか。少なくとも、俺のモブ的思考なら間違いなくそうする」


 可能性がゼロだと分かっていても、行動するのはなぜだろうか。
 ちっぽけなプライドのためか、それとも別の何かか……。

 いずれにせよ、理屈ではなく本能で動いてしまうのがやられ役の美味しいところだ。
 遠隔での指揮を執る自称偉い奴なら、何度も『ば、馬鹿な!』とか言えるよな。


「……っと、次のお客さんか」

『見つけたぞ! 全員で取り囲め!』

「ふっ、ずいぶんと舐められたものだ。この程度の数と集団であれば、俺を止められると思われているとは」

『ッ……!』


 雇われたチンピラがグループごとに統率を取られて現れたが、バカ正直に付き合ってやる必要もない。
 少量の魔力を外に放出し、技術もへったくれもない擬似的な威圧を行う。


「今なら見逃してやろう……失せろ」

「ふ、ふざけんじゃねぇ! お前ら、とっととこいつを……」

「“軽気功ケイキコウ”、“早投クイックスロー”」


 会話の途中だが、軽くしたナイフを投擲して首を吹き飛ばす。
 同じように物を軽くする“柔気功”との違いは、軽くするだけということだな。

 驚き、慌てふためくチンピラたち。
 遠距離であろうと近距離であろうと、自分たちを殺せる術を持っていると知ってしまったが故の反応だろう。


「“移動突ステップスタブ”」


 一直線に突っ込み、その勢いのまま心臓を一突きする。
 一瞬で現れた俺に動揺している奴らも、ついでに武技を使わず首を刎ねていく。


「おい、剣客はまだか!」

「も、もう間もなく到着すると連絡が……」

「早くしろ! さもないと、俺たち全員の命が無くなるんだぞ!」


 ふむふむ、なかなかに面白い単語を耳にできたな。
 剣客とは剣士という意味の他に、雇われ剣士のような奴らのことを指していた時期もあり……それが傭兵のような意味としても、取られるようになった。

 今回はまさにそれである。
 裏の組織がこの大一番で頼りにしたくなるだけの実力を持つ、そんな奴がこれからここに来るみたいだ。 


「だがまあ、それを律儀に待つほどこちらも愚かではない。刈らせてもらうぞ、貴様らの命が待ってやる対価だ」


 再び“移動突”を連続で行使し、隙を見せたチンピラたちを屠っていく。
 阿鼻叫喚とはこのことなんだろうが、男たちの悲鳴なんて聞く気はない。

 黙らせる意味も籠めて、声を上げた奴から優先的に静かにさせていった。





 やがて、静かになった道の奥からゆっくりと集団の姿が現れる。
 全員が強力な装備に身を包んだ、ヘラヘラとした笑みを浮かべる男たち。


「おいおい、見ろよ全滅だぜ。なんだ、アイツもプレイヤーかよ」

「みたいだな。俺の鑑定も効いてねぇし、NPCどもじゃねぇだろうな」


 真剣さはいっさい感じられない。
 そもそも、自由民をそう呼んでいる時点で容赦をする必要はないな。
 この世界を謳歌し、自分たちの思うがままにやっているのだろう。

 ──そんな風に楽しんでいる彼らに、俺から贈る言葉はただ一つ。


「やれやれ、貴様らのような愚者・・と同列に扱われるとは……侮辱にもほどがあるな」

「なんだと!」

「テメェ! プレイヤーのくせに、そんな気持ち悪いロールしてんじゃねぇよ!」


 言われるのも当然な言動をしていたので、まあ仕方ないだろう。
 だがこのロールをやっているときに、軽く許すわけにはいかない。


「さて、どうしてくれようか……」


 短剣をクルクルと回し、見せつける。
 挑発としてとってもらえるよう、分かりやすくアピールをしているのだが……不思議とそれ以前からキレてるんだよな。


「おいおい、なんだよその顔……なんかぶっ殺したくなるな」

「お前もか? 俺もなんだよなー」

「……きっと、殺したら面白そうだな!」


 勝手に盛り上がっているみたいだ。
 よく嫌われる<畏怖嫌厭>だが、悪人相手だとその効果はかなり強化される。
 意外と便利なんだぞ、悪人であればあるほど俺を殺したくなるみたいだし。


「貴様らのような愚者でも、このようなことであればできるのか。まあ、それが限界なのだろうな……他者を傷つけることしかできない野蛮な者ども、それしかできぬだろう」

『──殺す!』


 殺る気に満ち溢れた彼らは、怒りに狂った姿を曝け出してこちらに突っ込んでくる。
 スキルや魔法による強化……いや、狂化をして吶喊といったところだな。

 だが、その程度で狼狽えるようではやってられないのが偽善者だ。
 轟音を振りまく武技を、破壊をもたらす力強い魔法を、そして超常染みたスキルによる動きすべてを躱していく。

 勢いのままに暴れる彼らを、短剣一本で捌いていく。
 一人ひとり丁寧に、力を利用していなすように……眷属ならばできること、それは俺ができなければいけないことだ。


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