1,037 / 2,518
偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と帝国散策 その16
しおりを挟む訊きだした情報によると、やっぱり買いすぎが原因で派遣されたらしい。
どうして相応の実力を用意して、競売に参加していると思わないのだろうか?
「というよりも、思いたくもないのかもな」
完璧超人には付け入る隙が無い。
少なくとも暗殺者を送りこんできた者たちにとって、俺はそうではない人物だと看做されていたようだ。
「いや、たとえそうでも虚像の隙を狙おうとしてくるか。少なくとも、俺のモブ的思考なら間違いなくそうする」
可能性がゼロだと分かっていても、行動するのはなぜだろうか。
ちっぽけなプライドのためか、それとも別の何かか……。
いずれにせよ、理屈ではなく本能で動いてしまうのがやられ役の美味しいところだ。
遠隔での指揮を執る自称偉い奴なら、何度も『ば、馬鹿な!』とか言えるよな。
「……っと、次のお客さんか」
『見つけたぞ! 全員で取り囲め!』
「ふっ、ずいぶんと舐められたものだ。この程度の数と集団であれば、俺を止められると思われているとは」
『ッ……!』
雇われたチンピラがグループごとに統率を取られて現れたが、バカ正直に付き合ってやる必要もない。
少量の魔力を外に放出し、技術もへったくれもない擬似的な威圧を行う。
「今なら見逃してやろう……失せろ」
「ふ、ふざけんじゃねぇ! お前ら、とっととこいつを……」
「“軽気功”、“早投”」
会話の途中だが、軽くしたナイフを投擲して首を吹き飛ばす。
同じように物を軽くする“柔気功”との違いは、軽くするだけということだな。
驚き、慌てふためくチンピラたち。
遠距離であろうと近距離であろうと、自分たちを殺せる術を持っていると知ってしまったが故の反応だろう。
「“移動突”」
一直線に突っ込み、その勢いのまま心臓を一突きする。
一瞬で現れた俺に動揺している奴らも、ついでに武技を使わず首を刎ねていく。
「おい、剣客はまだか!」
「も、もう間もなく到着すると連絡が……」
「早くしろ! さもないと、俺たち全員の命が無くなるんだぞ!」
ふむふむ、なかなかに面白い単語を耳にできたな。
剣客とは剣士という意味の他に、雇われ剣士のような奴らのことを指していた時期もあり……それが傭兵のような意味としても、取られるようになった。
今回はまさにそれである。
裏の組織がこの大一番で頼りにしたくなるだけの実力を持つ、そんな奴がこれからここに来るみたいだ。
「だがまあ、それを律儀に待つほどこちらも愚かではない。刈らせてもらうぞ、貴様らの命が待ってやる対価だ」
再び“移動突”を連続で行使し、隙を見せたチンピラたちを屠っていく。
阿鼻叫喚とはこのことなんだろうが、男たちの悲鳴なんて聞く気はない。
黙らせる意味も籠めて、声を上げた奴から優先的に静かにさせていった。
やがて、静かになった道の奥からゆっくりと集団の姿が現れる。
全員が強力な装備に身を包んだ、ヘラヘラとした笑みを浮かべる男たち。
「おいおい、見ろよ全滅だぜ。なんだ、アイツもプレイヤーかよ」
「みたいだな。俺の鑑定も効いてねぇし、NPCどもじゃねぇだろうな」
真剣さはいっさい感じられない。
そもそも、自由民をそう呼んでいる時点で容赦をする必要はないな。
この世界を謳歌し、自分たちの思うがままにやっているのだろう。
──そんな風に楽しんでいる彼らに、俺から贈る言葉はただ一つ。
「やれやれ、貴様らのような愚者と同列に扱われるとは……侮辱にもほどがあるな」
「なんだと!」
「テメェ! プレイヤーのくせに、そんな気持ち悪いロールしてんじゃねぇよ!」
言われるのも当然な言動をしていたので、まあ仕方ないだろう。
だがこのロールをやっているときに、軽く許すわけにはいかない。
「さて、どうしてくれようか……」
短剣をクルクルと回し、見せつける。
挑発としてとってもらえるよう、分かりやすくアピールをしているのだが……不思議とそれ以前からキレてるんだよな。
「おいおい、なんだよその顔……なんかぶっ殺したくなるな」
「お前もか? 俺もなんだよなー」
「……きっと、殺したら面白そうだな!」
勝手に盛り上がっているみたいだ。
よく嫌われる<畏怖嫌厭>だが、悪人相手だとその効果はかなり強化される。
意外と便利なんだぞ、悪人であればあるほど俺を殺したくなるみたいだし。
「貴様らのような愚者でも、このようなことであればできるのか。まあ、それが限界なのだろうな……他者を傷つけることしかできない野蛮な者ども、それしかできぬだろう」
『──殺す!』
殺る気に満ち溢れた彼らは、怒りに狂った姿を曝け出してこちらに突っ込んでくる。
スキルや魔法による強化……いや、狂化をして吶喊といったところだな。
だが、その程度で狼狽えるようではやってられないのが偽善者だ。
轟音を振りまく武技を、破壊をもたらす力強い魔法を、そして超常染みたスキルによる動きすべてを躱していく。
勢いのままに暴れる彼らを、短剣一本で捌いていく。
一人ひとり丁寧に、力を利用していなすように……眷属ならばできること、それは俺ができなければいけないことだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる