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偽善者と三つの旅路 十五月目
偽善者と帝国散策 その15
しおりを挟む『二億五千万Y! 13番さん、まさかの落札成功でございます! さぁ、会場の皆さんで万雷の拍手を送りましょう!』
その拍手にどのような想いが籠もっているのか……あまり知りたくはないだろう。
それなりの額で落札を終えると、舞台上の少女は俺の予約物となった。
「全然反応しないね」
「……まあ、反応を期待していたわけじゃないからいいんだけど」
「そうなの? メルスって、奴隷が買われたことで救われるってネタ好きじゃないの?」
「いや、好きだけどさ」
それこそ偽善の醍醐味だろう。
やりたいことをやって、女の子の好感度がアップするという素晴らしい現象。
肯定こそすれど、決して否定はしない。
「奴隷か……フーラとフーリは村の人ごと強奪したし、赤色の世界の奴隷はウィー以外全然会ってないな。避けられてるのか?」
「精神が強くないと、メルスの第一印象は最悪になるもんね」
「偽善の対象は万人だしな。強者なんてごく一握りだし、仕方ないと言えば仕方ないんだが……やっぱり恨みたくなる」
町で女性を救っても、呪いのせいで悲鳴を上げられるか解放するまで嫌そうな目を向けられるんだから溜まったモノじゃない。
他の人がいっしょにいれば、そちらを頼ろうとする心理的誘導ができるんだけどさ。
「さて、そろそろお仕事の時間か。アイリスはもう戻っていいぞ」
「メルス、気をつけてね」
「ああ、分かってるさ。今日の晩御飯までには帰ってくるよ」
「ワタシ、待ってるから。美味しいご飯、食べたいからね」
この台詞は彼女の世界のものだろうか?
少し死亡フラグになりそうだが、あまり効果はないだろう。
──料理作るの、今日は俺だし。
◆ □ ◆ □ ◆
「野郎ども、準備はできているな?」
インカムに再び触れ、これから始めようとするイベントの進行状況を確認する。
先ほどのように一瞬ノイズが走ったあと、複数の返事が聞こえてきた。
『こちら『檻』、安全確保』
『こちら『司会』、別働隊に合流します』
『こちら『出口』、そろそろっすか?』
『こちら『攪乱』、いつでもできる』
「おい、『出口』。しっかりと確保できているんだろうな?」
『大丈夫っすよ。みんな寝ているっす』
「そうか……『攪乱』、始めろ」
了解、と小さく返事が聞こえた直後──会場に激しい揺れが起きた。
辺りから悲鳴が上がり、どうにか逃げようとする者たちが現れる。
『無駄無駄っす!』
インカムを切り忘れたのか、まだ聞こえる音声から風切音が聞こえ始めた。
すると会場の出口に向かっていた客が、何者かにやられて吹っ飛んで席に着く。
「さて、仕事を始めよう」
席を離れ、個室を出る。
すると俺を出迎えるように、濁った眼をした男たちが短剣を構えた。
「誰の刺客かなんて、野暮なことを聞くつもりはない……どうやって死にたいか、それだけ聞いておこう」
『…………』
無言のまま指の動きで指示を送り、連携して俺に突っ込んでくる。
同じように俺も短剣を用意し、向かってくる男たちと刃を交えていく。
『──“誘死突”』
いっせいに無詠唱で宣言された武技。
禍々しいエフェクトが短剣の刃に宿り、俺の命を奪おうとする。
いっせいに囲むように発動しているため、転移できない今の俺では不味い状態だ。
「やってやるさ──“柔気功”」
体を軽くし、そのまま跳ねる。
一瞬動きにブレが生じた彼らに対し、今度は腰に付けたナイフを取りだす。
「“盲魔功”」
魔力が靄のようにナイフを包んだのを確認し、投擲する。
武技はマニュアルだったのか、スムーズに攻撃を回避しようとしていた……だが、それよりも早くナイフが彼らの脚に命中した。
『っ……!』
引き抜こうとするが、なぜかそれは体から離れない。
まるでそこで固定されたかのように、彼らの体を蝕んでいく。
「“貫魔功”」
動きが鈍っているのであれば、狙いも付けやすくなる。
先ほどと同じようなアクションを経て、心臓に向けてナイフを放つ。
当然、攻撃を避けられないのであれば防御行動を取るのは正しい選択だ。
何か自信でもあるのか、籠手っぽい物が付いた腕でガードする男たち。
「残念だったな」
『っ……!!』
ズブズブと肉の中に埋まっていくナイフ。
籠手が存在しないかのように振る舞い、そのまま腕を貫く。
だが、透過しているわけではない。
それを証明するように、彼らの表情が苦悶に満ちた顔になっていた。
「ああ、魔道具だったのか。それで勢いが減衰したと……お前たちは運がいいな」
服の繊維にもこだわっていたようで……纏わせていた魔力が切れたことで心臓まで届かず、ナイフは地面に落ちてしまった。
だが、もう男たちに抵抗できる術はない。
たっぷりと仕込んだ二種類の毒が、生かさず殺さずで肉体を保存するからだ。
「まあでも、訊きたいことがあったから生かしておいて正解だったか。──おい、生け捕りを手に入れた。訊きたいことがあるから、誰かアイツを連れてこい」
しばらくすると、組織の尋問係が必要な情報をパパッと『訊いて』くれた。
俺独りでできることだが、少々面倒だったので任せたのだ。
「ご苦労様。ここのチップだ、カジノで遊んでみればどうだ?」
「……はい」
やることはやった。
奴隷たちもすでに確保済み、どうせなら主人公でも見てみたいものだが……この時点で到達している奴が、会場に居るだろうか?
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